表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
394/506

私、とても素敵なアイテムポシェットを見せられる


 歌謡曲『カサブランカ・ダンディ』は、こっちに置いておくとして。

 ボルサリーノにコート、ニッカズボンにトレッキングブーツ。さらに長得物をたずさえていると、いやが上にも冒険者気分が盛り上がる。

 盛り上がる気分のままに光る魔方陣の上に立ち、まずはC3エリアまでひとっ飛び。

 森の中とはいえ、人が踏み締めた遊歩道のような、まだ人間の気配があるエリアに到着する。

 ホロホロがマップを広げた。

「さて、この時間で太陽があそこにある」

 私は太陽を指差す。

「そうすると、C6エリアはあっちだね」

 ホロホロが鼻を向けた先には、草木が生い茂っていた。

「難航しそうな探索ね」

 コリンが髪をまとめながら言う。コリンだけではない。モモやホロホロ、ベルキラといった髪の長い娘たちは、同じように髪を結わえていた。籔の木枝に引っ掛かるからだ。

 私はたぬきを呼び出した。こいつもボルサリーノとコートといった冒険者スタイルで、マシェット付きの長杖をたずさえている。

「それじゃあたぬきとアキラで、マイティ・チンプの匂いを探ってもらおうか」

「わかりました、御主人様!」

「ですがマスター!」

「ん? どうした」

 やる気満々のアキラとたぬきだが、二人そろって私を見ている。

「マスター、マイティ・チンプってどんな匂いなんですか?」

 ………………………ワオ。

 言われてみれば、確かにそうだ。嗅いだこともないマイティ・チンプの匂いを探せと言われても、それは無理というものだろう。

 私はホロホロを見た。

 困った時は、まずホロホロだ。

「これは予想外だったね、アッハッハッ」

 いや、ホロホロさん。笑い事ではないのですが。

「でもまあ、チンプ類の生息圏はC5辺りからだって図鑑に出てたから、まだしばらくは出会わないと思うよ」

 それよりも今は、まずこの籔をどう乗り越えるかだと、ホロホロは言う。

「どこかに人の通った道は無いか、それを探した方がいいと思うんだ」

「まあ、楽はするに越したことは無いな。ということで、まずはC6への道が無いか探してみようか」

 いきあたりばったりとは、まさにこのことだろう。しかし私たちは、探索に慣れていないのだ。仕方のないことだと言える。


 獣道か、はたまた人が踏みしめてできた道かは分からないが、とにかく道はすぐに見つかった。

 先頭チームはアキラとたぬきのタッグに、痕跡(こんせき)を解読するためにホロホロ。さらにはいざという時のためにベルキラ。私、コリン、モモの三人は後衛である。

 無視できる程度のモンスターが、ちょろちょろと細かな出会いを与えてくれる。しかしそれは無視。向こうも戦力比較をしてか、私たちに襲いかかってくることは無い。

「この辺りから、C4だよ」

 ホロホロが言う。

 私たちにとっては、未開のエリアだ。

 早速籔がガサガサと鳴る。全員が戦闘体勢に入った。私もマシェット付きの長杖をかまえる。

 籔のむこうから大蛇が顔を出した。口を開いてこちらを威嚇して来る。

 まずはアキラの水弾、大蛇の口に叩き込んだ。そこにコリンが雷魔法を撃ち込む。動きを止めたところでホロホロの弓矢。残る私たちが長杖で突撃。

 大蛇になにもさせることなく、素早く討ち取ることができた。

「驚いたな、こんなモンスターが隠れてるとは………」

 私は帽子の下の汗を拭う。しかしここはゲーム世界。額に汗など一粒も浮かんでおらず、ひとり苦笑いを浮かべた。

「こんなモンスターだけど、大蛇はレベル4しかないみたいだよ? 意外と見かけ倒しだね」

 ホロホロが図鑑にアクセスして、情報を提供してくれた。その図鑑によると、大蛇の牙やウロコ。あるいは皮や肝がアイテムとして高価らしい。

「回収するの? それだけのアイテム。アタシたち鞄も荷袋も持ってないわよ?」

「そうですねぇ~~………大蛇の皮だけでも、大荷物ですよぉ?」

 コリンとモモの不平に、ホロホロはフッフッフッと気味の悪い声で笑う。

「ふたりとも? このホロホロさんがなんの準備も無しに、アイテム回収の話題を振ると思う?」

 私は思わない。

「この手のゲームでは、アイテム回収や運搬に便利な、御都合グッズがあるものなんだよ?」

「なるほど、アイテムボックスか」

「あれは便利ですよね」

 ベルキラとアキラは、すでにその便利なグッズの目星がついているようだ。しかし一年経ってもこのゲーム以外に世界を知らない私としては、どのようなグッズが出て来るか、興味津々であった。

「まあ、アイテムボックスみたいな格好のいいモノじゃないけど」

 ホロホロはコートのボタンを外す。コートの合わせから、いつもの服がチラリと見える。そしてFBIの射撃訓練のように、勢いよくコートの裾を跳ねあげた。

 ポシェットのように、肩から斜めに提げている。

「これがアイテムポシェットだよ♪」

 両手で私たちに差し出したグッズは、唐草模様のガマ口だった。

 『がまろ』ではない。『がまぐち』である。いまどきの若者はガマ口を知らないだろうが、クラシカルな財布、あるいは小銭入れのことである。一応、格好悪いデザインに分類されるアイテムだ。

 ガマ口を御存知なく、興味をひかれた方がいらっしゃったら、是非とも画像検索していただきたい。ポシェットや財布と称した奇っ怪な物体が、あなたの心を鷲掴みにすることだろう。

 そして私たちマヨウンジャーの乙女たちは、ホロホロが差し出したガマ口に微妙な表情という、実に正しいリアクションをとっていた。

 しかしホロホロにとってはこのガマ口、年間グッドデザイン賞なのだろう。微笑みを絶やすことなく、かつ自慢気にガマ口を開いて、「これにいくらでもアイテムが入るんだよ♪」と御満悦の様子であった。

「よし、それじゃあ解体するか」

 一番最初に立ち直ったのは、恋人のベルキラである。さすがと褒めたいところだが、瞳からハイライトが消えている。もしかしたらホロホロお気に入りであろうガマ口のデザインと、自分の存在とを比較してイコールで結んでしまったのかもしれない。つまり、ガマ口のデザイン、イコール私。という具合に。

 だとしたら、瞳からハイライトが消えるのも道理である。

 私としては、「ベルキラ、君に幸あれ」と切実に祈るより、他にできることがない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ