私たち、ボルサリーノでキメる
ベルキラの戦斧とマシェットを合体させるにあたって、ホロホロはもう一度似てないモノマネをした。
「なんでもアタッチメント~~♪」
などと言っていた。
要はゲーム世界内に存在する、便利なグッズといったところのようだ。もうひとつ言うならば、「何がどうなって合体するのか?」という原理は、問いかけてはならない代物らしい。
とりあえずベルキラの戦斧にガッチョンと嵌めて、マシェットをガッチョンと嵌め込んで完成。ちょうど銃剣を取り付けたような形になっている。あるいは変形の薙刀とでも言おうか? とにかく長得物で薙ぎ払う形である。
「ベルキラの得物は戦斧だから、石突きの側にマシェットをつけたけど、マスターやコリンの得物なら穂先でも石突きでも、どっちにも付けられるからね」
「なるほど、この薙刀で草木を払いながら進むのか」
「ホロホロさん、だとしたらボクたちも長い杖を持てば、全員で草刈りしながら前進できますね」
そうだねと言いながら、ホロホロはフフンと笑った。
「だけど私とアキラは、草刈り不参加だよ?」
「どうしてですか?」
「私は弓矢でみんなを護衛、アキラはいざとなった時の主砲だから。私たちは温存ね?」
しかしベルキラの戦斧にコリンの槍。それと比べれば私のステッキは、あまりにもリーチが短いのではないか?
その疑問をぶつけるとホロホロは、「そこ!」と私を指差した。
「マイティ・チンプとの戦いは森の中になるから、火炎魔法のマスターはほぼ戦力外になっちゃうんだよね………。そうなると魔法のステッキは腰に差してもらって、長杖マシェット装備を得物として、たぬきと二人で頑張ってもらいたいんだよねぇ………」
ホロホロ? いつから君は『男におねだりする女の上目使い』をマスターしたんだい?
「御主人様と二人きりですかっ? おまかせください! このたぬき、身命にかえてでもお役に立ちます! ということで御主人様、あちらに床を用意しておきましたので、さささ………」
籔の中からたぬきが現れた。
見るとたぬきの寝床らしく、一部草が踏みつけられたような場所があった。
しかしホロホロはたぬきの子作りなど期待していない。私もそのような展開を、このゲームに期待していない。さらに言うならば、迷走戦隊マヨウンジャーは未成年のメンバーが多い。
それらの理由から、たぬきの頭にステッキの一撃。たぬきは死んだ。それから指環に収容する。
「まあ、長杖マシェットの件は了解だ。火の玉やボム。火柱魔法が使えないなら、そんなところで役に立つしかないからね」
「だけどマミヤ、これはいい道具かもしれないわよ?」
コリンは早速マシェットを装備。槍の穂先とマシェットの尖端が、同じくらいになっている。
「槍は突く、叩くがメインだったけど、これを装備すると『深く斬る』こともできそうだわ」
どうやらコリンは、マシェット装備を気に入ったようだ。
「私の戦斧も同様だ。今までは『力任せの斬撃』しかなかったが、石突き側のマシェットのおかげで小技が使えそうだ」
ただベルキラの場合、斧部分が邪魔くさそうではあるが。
ピロリロリン♪
今さらながら、チャイムが鳴った。スキルを獲得しましたと、メッセージが届いている。
ウィンドウを開いてみると、『薙刀スキル・脛技を身に付けました』とあった。
「………馬鹿にする訳じゃないけどさぁ」
コリンが呟く。
「アタシたち、今さら運営の用意した技なんて、使わないわよね?」
まったくその通りだ。
私たちにはジャック先生から授かった技がある。剣技中心の技である。しかしその技は戦斧を持てば戦斧の技に変化し、槍を持てば槍技に変化するものである。
正直、今さら薙刀技を与えられても、下手な薙刀使いよりもはるかに強いと自負している。
「まあ、スキルは捨てることができないし、荷物にもならないから。ありがたく受け取っておこうね?」
これまたホロホロの言う通りだった。
では、道具を揃えて出発準備だ。
これまで磨きに磨きをかけてきた革の防具に、探索用のコート。ニッカズボンとハイソックスで、足元はこれまた探索用のくるぶしまで隠れるブーツ。小道具をデイパックに詰め込み、ロープをかついで長杖を手にすれば、もう一流の冒険者気分である。
「ちょっと待って。アタシたちの探索には、これが必要でしょ?」
ダークグリーンのフェルト帽子。いわゆるボルサリーノはお揃いで、コートの色にも合わせてある。
「よく気づいたな、コリン。これで完璧だ」
「この帽子を頭に載せると、なんだか………」
コリンはポケットから小瓶を取り出し、琥珀色の液体を口に含む。
それから天井を見上げ、片手で帽子を押さえながら、琥珀色の液体を霧状に吹き出した。
「………なんだかこんなことしたくなるのよね」
「わかるよコリン、ボクもなんだ。ムタやカブキでもないのにね」
アキラはコリンの頬を、軽くペチリ。バックハンドで、もう一度ペチリ。
おそらくはまた、若年層を無視したネタなのだろう。このゲームを一年もプレイしていれば、なんとなく分かるような気がする。