私、お手本の見る
アキラは手裏剣が刺さった頭をかかえて、「ぬぉおぉ」と呻きながらうずくまっている。身体能力に勝るアキラが………いや、身体能力がブッチギリで勝っているアキラが、この有り様だ。この縄票という得物、とてもではないが私たちの手に負える代物ではない。
うずくまっているアキラの傍らに、モモがしゃがみ込んだ。治療をするのかと思ったら、アキラの後頭部から手裏剣をピスッと抜いただけ。
「そう使うんじゃありませんよぉ、アキラくん」
モモは手裏剣を右手、あまらせた縄を左手に構えた。
「私たち程度の腕前ならぁ、こう使うんですよぉ?」
手裏剣を投げる、的に刺さる。あまらせた縄を引いて手裏剣の抜く。縄でコントロールして、手裏剣を右手の中へ………。
「これならお猿さんにぃ、手裏剣を奪われることもないかなぁって」
なるほど、それは名案だ。しかしモモ、早くアキラの手当てをしてやれ。
ということで、マヨウンジャーの投擲武器は縄つき手裏剣。格好をつけて言うなら、縄票だ。これに決定する。
「そういうことでしたら………」
アキラが立ち上がった。まだ後頭部に穴が空いている。
アキラの構えは、やはり中国式の構え。それをデトロイト・スタイル………ヒットマン・スタイルのようにブラブラと揺らす。
フリッカージャブのように手裏剣が跳ね上がる。標的に向かって一直線。しかし縄のコントロールで、アキラは寸止めにする。宙に止まった手裏剣を縄で呼び戻し、右手でキャッチ………しない! アキラはサイドステップで手裏剣をよける。よけた手裏剣はアキラの背後へ。つまり後ろの敵に対する攻撃だ!
そこからさらに呼び戻し、これもよけて正面の的へ。手裏剣が刺さって、ようやく一連の流れが終了した。
「ねぇ、マミヤ?」
「どうした、コリン」
「縄票を使ってる時は、アキラのそばに近づかないようにしましょ」
「まったく同意だね」
だけどアキラ、と声をかけたのはホロホロである。
「縄票の弱点は、開けた場所じゃなきゃ使えないってとこだから、森の中では気をつけてね」
そうだ。私たちの獲物はマイティ・チンプ。サルである。つまり森の中へ分け入るのだ。あまり派手なアクションはできない。
そして周りに注意してねと、ホロホロは付け加えた。ある意味、それが最も懸念されるポイントである。
ここまで話がまとまったら、あとは手裏剣の練習だ。
最初のうちは縄つき手裏剣。縄の端を左手に握っていたが、これを右腰のベルトへ結わえる。そして投擲すると縄がスルスルほどけるように編み込んで丸める。これで携帯が楽になった。両手を空けることもできる。
そこから手裏剣を投擲。的に刺さる。右手を使い縄で呼び戻して、右手でキャッチ。
慣れると比較的簡単に扱えるじゃあないか。
「そうね、クセになりそうな面白さね」
言ってたコリンの額に、手裏剣が刺さった。
「油断するからだぞ、コリン。手裏剣はきっちりとキャッチして………」
能書きをたれてた私の側頭部にも、手裏剣が刺さる。いわゆる『お約束』であった。
「おう、縄票か」
さすがジャック先生は話が早い。私たちの新たな得物を見て、すぐに反応してくれた。
陸奥屋一乃組ジャック道場。やはり今日も彼らは、武術の腕を磨いていた。
「シャドウ、面白い武器だぞ。お前ならどう使う?」
魔法使いで息子………であろう、なおかつ現実までは剣士であるはずのシャドウくんに、話が振られる。
「フム………」
ホロホロが右腰から縄票をほどく。その姿をシャドウくんは興味深げに眺めていた。
受け取った得物に、まずは一礼。それからしげしげと眺める。縄の端を握って、軽く手裏剣を飛ばしては引き戻し、受け止めるを繰り返した。
「長寸はこんなものですか………それなら………」
縄票を握った右手を背後にまわす。得物を敵に見せない構えだ。
そこからヨーヨーでも投げるように下手投げ。一投目を引き戻したら、手裏剣にほど近い縄を摘まんで二投目。それを引き戻したら、今度は背後まで手裏剣を引いてからの三投目。
敵に手裏剣が飛ぶタイミングをズラした、リズムを変える攻撃だ。
さすが、シャドウくん。思わず私も唸ってしまう。
「なるほどね。ユキ、お前ならどう使う?」
「えっ? わ、私?」
同じ質問が娘………であろう、なおかつ剣術流派跡取り………と思われるユキさんに振られた。
「そうだねぇ、私なら………」
不意打ちの質問を演じていた割りに、ユキさんが縄票を手にする姿は、やたらと堂に入っていた。
ヒュンヒュンと鎖鎌のように、体の左右で縦回転。と思ったら、スリークォーターからの投擲。引き戻した手裏剣を、一度体に巻きつけて、ほどける勢いで飛んだ軌跡は、真横一文字。
直線のシャドウ、円運動のユキ、と言った差が出た。もちろんどちらが正しいとか、そういった話ではない。差は、単純に差でしかない。
「忍者、お前ならどうだ?」
いないだろ、忍者。
と思っていたら、天井裏から降りてきた。
その忍者は縄部分で私を拘束。最後に首を締めてから、手裏剣を私の胸に突き立てる。今までの使い方とはまったく違う発想だ。参考になる。
最後はドワーフのダイスケくん。
「じゃあそこの藁人形を」
と、縄票を振り下ろす。それも長身とガタイを活かして、力任せに。
藁人形が粉々に飛び散るだけでなく、道場の床板までブッ飛んだ。おそるべき破壊力である。
それを見てジャック先生は破顔一笑。
「これはダイスケくんの一本勝ちだな」
確かに。
この破壊力の前では、ケチな技など消し飛んでしまう。