私、狩りの季節に入る
さて、いつまでも燃え尽きている訳にはいかない。というかアキラなどは、一人黙々と稽古に励んでいるのだ。私たちも動きださなければ。
じゃあ具体的に、何をしようか?
「特別、コレ! ってイベントがある訳じゃないけど、みんなこれ見てくれる?」
我等が拠点『下宿館』。テーブルを囲んだ私たち。そこへホロホロがモニターを向けてくる。
「………北海道で、狩猟解禁?」
「そ! 狩猟解禁。十月一日かららしいのね」
「私たちが狩るとすれば………モンスターかな?」
私が訊くとホロホロは、「さすがマスター、話が早い!」と喜んだ。
「だがホロホロ、私たちは闘技場でこそ名を売ってるが、探索はイマイチ………イマニ、イマサンくらいに力を入れていないぞ?」
「チッチッチッ………」
ホロホロはベルキラに人差し指を立てて、小さく横に振ってみせる。
「ベルキラ、ホロホロさまの職種を言ってごらんなさい?」
「盗賊」
「そ、盗賊。罠を見抜く盗賊さまからすれば、モンスターの足跡やら痕跡やらなんて、ペロッとしたものよ?」
「ペロッとしたものかい。まあ、それは信憑性があるとして、たぬきもあれで猟犬のかわりになりそうだしな」
私は賛成に一票。
「山や森を歩くんですね? ボクも賛成です!」
アキラは即断。
「アタシもレベルを早く上げて、水龍の槍を使えるようになりたいわ」
ということでコリンも一票。
「私もぉ、森の中は好きですぅ♪」
ちょっと的外れな意見だが、モモが賛成票。
残るはベルキラだ。
「………マスター、ちょっと」
席から外れて、離れた場所へ連れ出される。
「………マスター、流れはモンスター狩りに向いてるけど、気をつけて下さいね」
「というと?」
私が訊くと、ベルキラは神妙な面持ちで答える。
「ホロホロのやつ、さもさも考え抜いての企画であるかのように言ってますが、十中八九、ただの思いつきです」
ということは?
「かなり穴だらけの計画な上に、勢いまかせな行動に出るものと予想されます。私たちでフォローしないと………」
なるほど、企画だけはよくても内容がズブズブか。市役所職員の私としては、見過ごせない事態である。
「わかった、ホロホロの企画を地に足着いたものにするよう、努力する」
「お願いします」
ということで席に戻り、無茶をしないという条件つきで、ベルキラも賛成。
「ではホロホロ、具体的に何を狩るか。ここを決めようじゃないか」
「オッケー♪ 実はねぇ、前々から目をつけていたモンスターが………いたいた♪ これなんてどう?」
モニターを私たちに向ける。
ドラゴンだ。
いきなりドラゴンである。
しかも金ぴかに輝いた、首三本の空を飛ぶやつである。
画像の下部には、版権を示すマークが添えられていた。
「………………………………」
私は無言でホロホロに、モニターを向けた。
「「「却下」」」
ホロホロをのぞく全員が声をそろえた。ホロホロは「エ~~ッ!」と声を上げて、かなり不服そうだ。
「なんでなんでなんでっ! いいじゃない、ゴールデンなドラゴン!」
「待て待てホロホロ、このゴールデンなドラゴンがどんな奴か、知ってるのか?」
「知ってるよ? 金星を三日で壊滅させた………」
「知ってて言うんかいっ!」
「まあ、これは冗談として………」
性質の悪い冗談だ。できればこんな悪ふざけは止めてもらいたい。
「あ、ホロホロ」
私は本命のモンスターを検索するといって、キーボードをあやつるホロホロに声をかけた。
「断っておくがホロホロ。白熱光を吐くたびに背びれが青白く光るドラゴンも、却下だからな?」
「ギクッ」
………よかった。
予防線を張っておいて、本当によかった。
「で、軍師ホロホロさんが推します、私たちの獲物が………こちらっ! ちゃらん♪」
モニターが向けられた。
「………これは?」
「カマキリですねぇ」
「………それにしちゃ、デカくないか?」
「イヤな顔してるわねぇ」
「………アゴ先の急所、チンが弱そうですね」
ホロホロは胸を張って言う。
「巨大カマキリだよ。体長三メートルの大物」
ちょっとだけ頭の中でシュミレートする。
頭部をねらった火の玉改が外れる。ホロホロの弓矢もかわされる。
コリンが槍を伸ばすが、巨大なカマで押さえつけられ、足で固定される。
アキラが飛び込み、ボディへ連打。しかし体格差のため、まったく効かない。モモのヌンチャクもダメ。ベルキラが戦斧をふるっても、硬い外殻に弾かれる。
………結局、いいとこ無しで撤退。
うん、私は悪い方向にばかり、頭を働かせすぎなのだろうか?
そんな疑問を持ったが、ベルキラが質問をぶつける。
「ホロホロ、この巨大カマキリはレベルどのくらいのモンスターだ?」
「えっとね………レベル10だね」
「次にいこう」
私は容赦なく言った。
「あららマスター、カマキリが怖いのかな?」
ほう、挑発してくるのかな、軍師どの。
「いくらデッカくても、相手はカマキリだよ? これくらいの獲物は、ねぇ?」
「いや待てホロホロ、ここは手堅く行こう。私たちは探索ではイマヨンくらいのレベルだ。せめてこう、同じくらいのレベルのモンスターで………」
「じゃあこれは?」
またもやモニターを向けてくる。
「………お猿さんですかぁ?」
「いや、モモさん。これはチンパンジーですね」
「アタシ、生の猿は見たことないわ」
「………念のため聞くが、ホロホロ。このチンパンジーが体長三メートルとか、そんな話は無いだろうね?」
「無い無い、これはレベル6のモンスター。マイティ・チンプ。身長が一六〇センチ程度で、結構な力持ち。樹から樹へ飛び移る能力があるけど、地上ではノロマ」
「打たれ強さは?」
ベルキラが訊く。
「いわゆるモンスターだからかなり強いね。でも私たちの攻撃が通らないほどじゃなさそう」
「確か探索では、それなりのレベルのモンスターが出るとか言ってたが、今回はどうなんだろうな?」
私も訊いてみる。
「同じレベルだから最大六頭現れる可能性はあるね。だけどそこはプレイヤーの叡知、罠とか集団戦法があるからね♪」
ならばまずは、このマイティ・チンプ君の戦い振りを、動画で確認するとしよう。