私たち、ズンダレる
とりあえず、カラフルワンダーとの一戦はこれで終わった。もちろんこれで終了などということは無く、去り際にシャルローネさんは「またやりましょうね♪」などと言ってくれたりした。
つまり、その時までに腕を上げておけということだ。
少なくとも、私たちの刃は届いたのだ。わずかに撤退1という成績でしかなかったのだが、それでもあのカラフルワンダーの猛攻をかいくぐり、撤退1を得ることができたのだ。
そして彼女自身、正直に告白もしてくれた。
マヨウンジャーが何を仕掛けてくるか、怖かったと。
そして予想外の突撃であり、その効果は『イヤ』そのものであったと。
叩けよ、されば開かれん。の例えではないが、とにかくやってみなければわからない。ネットゲームというものはそういうものだと、シャルローネさんは教えてくれたのだ。
ならば新しい戦法だ。
そして新しい技も必要である。
稽古を再開するか!
という気には、まだなれなかった。
「くで」
ホロホロがソファで横たわっている。
「のて」
ベルキラはテーブルに突っ伏していた。
「フッ………みんなだらしないわね。カラフルワンダーとの戦いが終わったからって、ダレ過ぎじゃない?」
「そ~ゆ~コリンちゃんもぉ~、チェアでズンダレまくりですねぇ~」
「アンタだって同じじゃない」
そう、我々マヨウンジャーは大きな試合を終えて、絶賛ズンダレまくりなのであった。
道場で一人黙々と、ロープを跳んでるアキラをのぞいて………。
「………アキラ、元気だねぇ。ベルキラは稽古しないの?」
「………アキラは現役、私は元柔道部員。今はダレさせてもらう………」
「本来ならばアキラこそ、椅子に腰掛けて『………真っ白だ………燃えつきたぜ』って言わなきゃならないのにね」
「言わなきゃならないって、ホロホロ。そんな法律はどこにもないわよ?」
コリンの苦情にも力が無い。
「私ホロホロが、内閣総理大臣に就任した暁には! カラフルワンダーとの一戦を経たボクサーは! 燃えつきなければならないという義務を法令化すると! 公約に掲げます!」
ズンダレたまま拳を突き上げても、信憑性や迫力というものが、まるで伝わって来ない。ホロホロ議員は落選することだろう。
「内閣総理大臣ですかぁ~~………私が総理大臣になったらぁ、日本の国技をジークンドーに指定しますかねぇ~~♪」
「国技といえば、この間お相撲さんが一人、辞めちゃったわね? あれってどゆこと?」
コリンがキビシイ話題を振ってきた。とりあえず私は気配を消すことにする。この手の話題で意見を求められたら、私に返答するだけの能力が無いからだ。
「お相撲さんじゃないよ、コリン。あれは親方、相撲ジムのお師匠さん」
ホロホロが拾った。
とりあえず私が答えを出すという流れは、これでなくなったようだ。
「私も動画サイトでぇ、それなりに情報を拾いましたけどぉ。コメント欄が親方の味方ばかりでしたねぇ~~♪」
「そんなに味方が多いのに、なんで辞めちゃったのよ?」
「んーー………マスター、わかります?」
こらホロホロ、そこで私に話を振るかい?
仕方ない、当たり障りのない意見で逃げるとするか。
「まあ、簡単に言うと味方をしてくれる人たちが、親方にお金を出してくれる人たちとは違う。というところかな?」
「出たわね、大人のお金で解決する理論」
「まあ聞きなさい、コリン。相撲ジムと言ってたけど、正しくは相撲部屋だ。ここでは関取も若い衆も、住み込みで稽古してるものだと考えてくれ」
住み込みで、という部分がポイントだ。つまり寝食を共にしている。食べることも稽古のうちという力士たちが、何人も共同生活をしているのだ。
「当然食費がベラボウにかかる。それを協会からの給付金でまかなうんだけど、それだけじゃあ足りないんだ」
「ふむふむ」
「そうなるとスポンサー………後援会というものが必要になってくる。ここでお金が必要になる理由がわかるね?」
「つまりいくら『ガンバレ!』って言っても、お金がないとどうにもならないってこと?」
キミ、答え難いことを平然と訊くねぇ。
「だとしたら変ねぇ、後援会ってお金出すばっかりで、メリットが無いじゃない」
コリンのおでこで脳髄が働く。今回はこの回転の早さのおかげで救われた。
先ほどの疑問に立ち返らぬうちに、私は話題を拾った。
「そうでもないぞ、コリン。後援会は優先的に、相撲のチケットを手に入れたりできるもなんだ。あるいはパーティーを開いた時に、ゲストとして力士たちが花を添えてくれたりする」
あ、パーティーって表現は分かりにくかったかもしれないな。おそらくコリンの頭の中では、お誕生会とかホームパーティーとか。そんな小規模なものしか描けてないかもしれない。
「まあ、わかりやすく言うなら、後援会はお金を出してくれる貴重な存在。お金を出してでも、より良い取組を見たい人たちなのさ」
「それじゃあ私たちがいくら『ガンバレ』って言っても、どうにもならないわね」
おっと、一番イヤなところを踏まれてしまったよ。
だが、私としてもここが土俵際。踏ん張らない訳にはいかない。
「それに関してはだね、コリン。私たち一般ファンの出番がまだだってことさ」
「出番がまだ?」
そう、そして責任というものも生じてくる。
私は以前、闘牛について読者諸兄に語ったことがある。
闘牛廃止運動が盛んだが、存続の意見も多数ある。私としては存続派である。しかし迂闊にそれを口にすることはできない、と言ったはずだ。
それは闘牛を存続した世界に、責任がとれないからである。私が毎年毎年闘牛を観るために海を渡る。そんな真似ができないのだ。
だから私は意見を差し控えさせていただいた。
しかし今回は国内の出来事。
もしもコメンターの言う通り、親方が『新相撲協会』を立ち上げたとしよう。もしもそうなったならば親方ガンバレと声援を送った者たちは、責任持って会場へ足を運びテレビのチャンネルを新相撲に合わせして、親方を応援するべきである。
「実は私もその動画やコメントは拝見したけど、親方が新しい団体を立ち上げた時。その時こそ私たち一般ファンが力を尽くすべきだと思う」
そう、新団体を立ち上げるために資金繰りをするのは、親方。その場面では、私たちの出番は無い。
もっとも、コメンターの意見というのは無責任なもので、親方が新団体を立ち上げる日など永久に来ないのだが………。