私、ろくでもない一戦に参加する
陸奥屋本店の言い分は、「カラフルワンダー七人と陸奥屋本店六人の戦いで良い」というもの。しかしカラフルワンダーも、「それでは申し訳が立たない」という。
ならば、ということで折衷案だ。
「陸奥屋サイドには、同志マミヤに参加してもらおう」
いや、待ってください。つーかほんとに待て。私は集中に集中を重ねて疲労困憊。精神的にボロボロな状態なんだぞ?
「やってくれるね、同志マミヤ」
「いや、ですから私は今、膝を着くほどに疲労してですね………」
「そこを立ち上がるのが精神力だよ」
「その精神力が限界で膝を………」
「同志マミヤ」
奴は私の肩に手を置いた。そして真っ正面から、私の瞳をのぞき込んでくる。
「同志マミヤ、ベトナム戦争のアメリカ兵は、八〇日間休み無しで戦闘していたそうだ」
「私はアメリカ兵でもなければベトナム帰還兵でもありません許してください勘弁してくださいお願いですから」
「しかも昼戦って基地へ帰ったら、夜も出撃という有り様だったそうだ」
「人の話を聞いてくれないのは相変わらずですね。というか、かなめさん。陸奥屋というのはいつからグリーンベレーになったんですか?」
救いを求めた相手が悪かったのだろうか。かなめさんはニッコリ微笑んで、かくのたまった。
「マミヤさん、陸奥屋本店の返答に、『ラッセーラー』以外はありません」
なるほど、そういうことか。陸奥屋という組織は、そういう集団なのだな?
迷うならば主に祈れ。なんとはなれば我に、我らが主義を否定する者どもの、歯を折りアゴを砕くべき武器を与えたまえと。戦う意思を神に誓い、得物を与えられ、なおかつ得物を与えたもうた神を打ち砕くという、そこまでやらかす集団なのだろう。
いかなる国のいかなる兵であろうとも、その建前は『祖国の平和と独立』のために銃を執るものだが、陸奥屋は違うのだろうな。
我々は戦う
敗れて後も
なおも戦う
それが我々の生きざまなのだとマントをひるがえし、貴様は高らかに宣言するのだろう。
あぁそうさ、そして私もまた、その陸奥屋という集団の一員なのだ。
それが証拠に、見ろ。私の両足はくじけていない。私の手は得物を握りしめている。そして私の顔は昂然と、神を睨みつけているではないか。
私は言う。
「ラッセーラーッ!」
先の一戦、ただ負けただけでは済まさんぞ。
ここはひと花、私も咲かさなければならぬ。
「話はまとまったな。それでは諸君、仕度に取りかかるとしよう」
私たちは戦場へとインした。
まずはブリーフィング。
総大将・鬼将軍。これは動かない。
先鋒は美人秘書の御剣かなめと執事さんのツートップ。
中堅に私と第二秘書の、秋月冴さん。これがトップ二人を援護、あるいは突入後に傷口を広げる役割。
そして守備は、参謀と小柄なメイドさん。二人で『なにもしない鬼将軍』を守る、というシフトだ。
通常のチーム、通常のメンバー編制ならば文句が出るところだが、しかし我々は陸奥屋。なにもしない鬼将軍というのは標準装備なのである。というかコイツが動いたり働いたりすれば、後々リンダの説教が怖いので、『これでヨシ』とするしかない。
「それでは諸君、開幕であるっ!」
目の前に戦場が広がる。
開幕の銅鑼が鳴った。
執事さんが指を鳴らす。
白手袋をはめているのに、何故か高らかにスナッブが響いた。
途端に………。
ドンドンドーーン!
カラフルワンダー陣地で、火柱が上がった。
爆炎くんが宙を舞っている。
蒼魔くんが吹っ飛ばされている。
カラフルワンダーの全員が、華麗な爆発に巻き込まれていた。
「出過ぎた真似をお許しください、お館さま」
執事さんがうやうやしく頭をさげた。
「先ほどの話し合いの最中、私めがコッソリと爆薬を仕掛けておきました」
鬼将軍は、うむとうなずく。
「よい仕事だ、セバスチャン。誉めてつかわす」
「ありがたき幸せに存じます」
いや、ちょっと待て。
いいのかそれは?
そして、いいのかそれで?
ルールも何もあったもんじゃないだろ? つーかまともにやる気あんのか、お前ら?
見ろ! 自由落下の果てにカラフルワンダー、地面に叩きつけられて全員一発撤退だぞ!
「さすがは執事さん、早速7ポイントをゲットですか。秋月冴もがんばらないと、ですね!」
いや、第二秘書さん。そこで鼻息をフンスとされても。
「行きましょう、マミヤさん! このままでは先輩と執事さんの、二人でビッグショウになっちゃいますよ!」
「あ、ちょっと待ってくださいってば! 私も悪役に身を堕とす覚悟と心の準備が………」
ツートップ二人を置き去りに、冴さんと駆け出した。
しかし、カラフルワンダーも復活。私たちに魔法の杖をかざすが………。
チュド~~ンッ!
またかっ?
また吹っ飛んだのかっ!
今度はなんで? 誰がなにをしたのさ!
するといつの間にか隣にいた御剣かなめが、涼しげに言うではないか。
「執事さんにばかり、いい格好はさせられないわ………フフッ」
つーかかなめさん、あなたの仕業でしたか。
「さあマミヤさん、先輩の爆弾でカラフルワンダーは虫の息です! やっつけてやりましょうね! フンスっ!」
という次第で、私は悪の道へと足を踏み外してしまった。
「ハーーッハッハッハッ! 同志マミヤ、開幕即攻撃とはこうあるべきものなのだよ! 覚えておくが良いわっ!」
全部このろくでなしのせいなのだが。
しかし、開幕即攻撃。それもかなり強力な一発というのは、戦力としてとても頼もしいという意見には同意する。
ここまで外道な戦い方は必要ないが、一発があるというのは羨ましくある。ただ、自分たちで取った戦法のせいか、敵の攻撃を耐えて耐えて耐え抜いて、その上で行う突撃に愛着を感じているというのがある。
この辺りは、仲間たちと相談の上で、マヨウンジャーの方針を決定してもいいだろう。
とりあえず、カラフルワンダー対マヨウンジャー。20対1の圧倒的敗北。そして陸奥屋本店対カラフルワンダーは、29対0の圧勝であった。