表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
384/506

私、事後の余韻にふける


 終戦。とたんに尻餅をつく。

 目の前のコリンも、へなへなと膝を着いた。

 敵陣の最中(さなか)にあったメンバーたちも、力尽きたように大の字になったりしている。

 勝った、という歓喜の声は湧かない。カラフルワンダーの面々もまた、得物を放り出し両腕をダラリと垂らして、終戦の銅鑼を聞いていた。

 仕方ない、負けは負けだ。

 どっこらしょと立ち上がり、コリンに手を差し伸べる。コリンは「はぁ」と、ため息をついてから私の手をとり、立ち上がった。

「ありがと………」

「行こうか、みんなのところへ」

「………そうね」

 観客席から、陸奥屋とチーム『まほろば』も降りてきた。カラフルワンダーもマヨウンジャーも、のろのろと立ち上がって中央に集まってくる。

「お疲れさまでした」

「お疲れさん」

「冗談抜きで、本当に疲れたよ」

 これは爆炎だ。

 元気者の彼が、めずらしく憔悴していた。

「お疲れさま、マミヤさん」

「あぁ、シャルローネさん。今回はありがとうございました」

 社会人として、今回私たちのチャレンジを受けてくれた、カラフルワンダーに頭をさげる。

「いかがでしたか、カラフルワンダーの魔法は?」

「厳冬期イベントのような、天変地異まがいの魔法が来なくて助かりましたよ」

「あれはイベント用の魔法ですから。それにマミヤさんたちの突撃も、大変でしたよ? 圧力(プレッシャー)のキビシイことキビシイこと」

 身振り手振り、シャルローネさんは楽しそうに一戦を振り返るが………。

 やはり気にかかる。

 これだけは言っておかなければならないだろう。

「そんなにキビシかったですか、私たちのプレッシャーは?」

「それはもう、これまで感じたことが無いくらいに」

「でもシャルローネさん」

「?」

「いつまでもそんな顔、してるものじゃありませんよ?」

「顔?」

「シャルローネさん、貴女いま、鬼のような顔をしている」

 戦う顔、殺しの顔。それらを飛び越えて、シャルローネさんは鬼の顔をしていた。まだ興奮と緊張が冷めやらない。戦いの余韻が彼女を鬼に変えていたのだ。

 乙女としては失態だったのだろう。私に背中をむけて、「あらやだ、私ったら」と顔をマッサージしている。

「鬼の顔ってんならさ、マミヤさん」

 爆炎くんだ。

「マミヤさんだってすごい顔だぜ。六分しか経ってないのに、目の下に隈なんか作ってさ」

「そんなにヒドイかな?」

 コリンに訊いた。

「迫力があって格好いいわよ? 普段の優男顔より、ずっとワイルドでセクシーだわ」

 子供がなにを言ってますか。というものの、コリンもどことなし大人びているというか、『夢見がちなお姫さま』から、凛々しい『姫君』へと変わったように見える。

 一戦が私たちを成長させた。と言ってもいいのだろうか? そんな自覚は無い。むしろこの突撃作戦で私たちの脳は退化し、より頭の悪い作戦でも敢行してしまいそうな、そんな心配さえしてしまう。

 ふぉっふぉっふぉっという、有りがちな笑い声がする。

 緑柳のじいさんだ。

「いかがでしたかな、氷結どの。『戦い』というものの味、少しは御理解いただけたじゃろうか?」

「あ、伯士! もう、伯士がいないおかげで大苦戦でしたよ!」

 スコアボードは、そんなこと言ってない。

「見ている側は、ヒヤヒヤドキドキでしたぞ、氷結どの。………それというのも」

 ポクリと杖で斬岩の頭を叩く。

「この小童がキッチリと作戦立案、実行できとらんからじゃ!」

「ひどいなぁ、伯士。僕だってマヨウンジャーが、通常の戦法で来ると思ったんですよ?」

「通常とはなんじゃい」

 もう一発、斬岩にポクリ。斬岩は斬岩でよけようともせず、じいさんのお叱りを受けている。

「彼我の比較をしてみぃ。カラフルワンダーにとっては通常の一戦かもしれんが、マヨウンジャーにとっては一年の成果を試す晴れの日ぞ。それを考慮に入れておけば、マヨウンジャーがスペッシャルな手を打って来ると、わかりそうなもんじゃろ」

 ポクリ。

 ポクリ。

 ポクリ。

 あの、翁。もうそれくらいで。私たちとてカラフルワンダーの火力を前に、手の打ちようもなくバンザイ突撃を敢行したまでで………。そんな斬岩くんをボテくりコカしていいほど、上等な考えがあった訳でなし。

「しかしまぁ………」

 と言って翁は、ホロホロの頭を乱暴に撫でる。

「カラフルワンダー相手に、よくぞバンザイ突撃などという必死必殺の手を思いついたものよ。お前さんは戦いの本質をわかっておるぞ」

「あ、いえ、そんなんじゃありません、お爺さん」

 お? ホロホロがタネ明かしをするか? 我々には、他に手は無かったと。

 だがじいさんは、ギョロリと目を剥いてホロホロを睨んだ。

「今日のところはそうしておけ、若僧。だがな、儂が出ておったらこんなことにはなっとらんぞ」

 鬼だ。

 ここに鬼がいる。

 ジャック先生に打ち勝ち、白銀輝夜に教えを与える猛者が、ホロホロに敵意をむけていた。

「小娘。お前ぇは仲間の命ぃ質屋に入れて、それで勝利を手にしようとした鬼なんだぞ。その事ぉ肝に命じて、全部全部背負(しょ)って生きていくんだぞ?」

 昨日まで笑いながら、一緒に飯を食っていた奴。国に帰ったら嫁と子作りするんだって笑ってた奴。俺は将来こんな仕事してやるんだと、夢を胸に抱いた奴。

 みんなみんなお前ぇさんは、生きた(まと)にしちまったんだからな。

 グリグリグリグリ、何度も何度も翁は、ホロホロの頭を撫でくり回す。

 下品な表現だが、私は縮み上がった。ホロホロを鬼と呼ぶならば、ジジイ、手前ぇは大鬼だろうが! そう言いたくなるような睨みだったのだ。

 しかしこの場を、さらに大きな鬼が笑う。

「翁、同志ホロホロはまだ若い。そこから先の説教は、私が受けますので。どうぞよしなに」

「おう、そうかい? お前さんが言うなら、オイラぁもう矛を納めるぜ」

「さらに言うなら、私に垂れる説教はあそこにいる、出雲の御令嬢に垂れた方が有益です」

「確かにそうだわな」

 翁がアゴを撫でると、出雲鏡花は文字通り、尻尾を巻いて逃げ出した。

「ですが翁、合戦の興奮未だ冷めやらずと言ったところですなぁ」

「そうさな、オイラも血わき肉おどるの心境さ」

 ジャック先生がシャルローネさんの口をふさいだ。忍者が斬岩に頭突きを食らわせる。そうして反論の口を閉ざした。

 そして自爆王の爆炎が口を開いた。

「もう一戦くらいやりたいよな! 今日は日曜日だしよ!」

「ならばカラフルワンダー! 我々陸奥屋本店と立ち会いたまえ! その沸き上がる血、踊り狂う肉体を、私たちが受け止めてやろう!」

「よっしゃオッサン! 一戦かまそうぜ!」

「受けて立つぞっ、若僧っ!」



 にわかに、陸奥屋本店とカラフルワンダーの戦い、勃発である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ