私、決着する
マミヤ視点
突撃、攻撃、撤退。
もうどのくらい繰り返したのか、自分でもわからない。残り時間を見るために、時計へ目をむける暇すら無いほど、魔法は降り注いでいた。
撤退から復帰。その瞬間が一番あぶないと、事前にホロホロが言っていた。しかし今回は前線の仲間が奮闘してくれていたせいか、復帰即撤退の憂き目には一度も逢っていない。
復帰の時には頭を低く、できればクラウチング・スタートのような構えで。復帰、即突撃を忘れないように。
カラフルワンダーの範囲魔法は、斬岩の壁辺りで集中していた。
順番通り撤退させられていたのなら、おそらくあそこではコリンが足止めされているはずだ。
真っ白なワンピースに白のブーツ。そして乱れたハニーブロンドが目に入る。コリンはその小柄な体型を活かし、うつ伏せで爆撃をしのいでいた。
カラフルワンダーの攻撃が、別の場所に移る。彼らからもコリンの姿が見えないのだ。その隙に死角からコリンに駆け寄った。
「待たせたね、コリン」
彼女を必ず敵陣に送り込む。そんな約束を戦前にした。だからこのように言ったのだ。
「遅かったわね、マミヤ。レディを待たせるなんて、感心しないわ」
「コリンさん、よくぞ御無事で」
たぬきだ。相変わらず勝手に指環から出てくる。
「たぬきもいたのね? これで戦力は三人分。………どうする? マミヤ?」
時計を見た。
試合時間は残り一分だ。
後方を見れば、ベルキラが復帰している。
「八畳敷をかぶって、もう一度隠蔽を使う」
「わかったわ、アタシは囮ね?」
「いや、コリンもマントの中に隠れてもらう。たぬき、できるな?」
たぬきはハイとうなずいた。
「たぬきの八畳敷は伸縮自在です。なんならベルキラさんも包みましょうか?」
さすがに時間がない。ベルキラは後発だ。
「そういうことで、まずは蒼帝をねらう。余裕があれば、その次にねらうのは爆炎だ。彼は射程距離がある」
話を短くまとめたところで、八畳敷を頭からかぶる。コリンはマントの裾を引っ張って、自分の体を隠した。
かなり密着した状態だ。コリンの若々しい筋肉と、ミルクのような香りを感じる。
「よし、走るぞ」
足並みを揃えて敵陣へ乗り込む。上手い具合にカラフルワンダーは、明後日の方角を攻撃していた。
ここからだ。
ここからシャルローネさんに気づかれるのだ。
「コリン、シャルローネさんがこちらを向いたら、一気に飛びかかるぞ」
「まだ距離があるわよ?」
「彼女はそれでも気づくのさ」
果たして彼女は私に向き直った。
「突撃ーーっ!」
マントを跳ね上げる。
コリンが飛び出した。
たぬきも走る。
私もステッキを握り直し、蒼帝に襲いかかった。
まずはコリンの弱魔法。油断していた蒼帝の動きを軽く止める。そこへたぬきの一撃。私も火の玉改を撃ち込んだ。蒼帝は完全に動きを止めている。コリンの槍がその胸に吸い込まれた。
私はステッキでボディブロー。たぬきの杖も叩き込まれる。
一方的な滅多打ちだった。ひと呼吸の間に、どれだけ撃ち込んだものか。
「僕が行きますっ!」
斬岩の礫か?
「待避っ、待避っ!」
鋭く命じるが、退いたのは私とたぬきだけ。
コリンは………。
コリンはニヤリと笑って私を見た。
龍尾槍の大技が、ふたたび蒼帝の胸を貫いた。
蒼帝の断末魔。そして姿を消してゆく。
ついに撤退1をゲットだ!
しかし蒼帝を貫いたコリンは、斬岩の礫魔法に飲み込まれて撤退する。
コリンが命懸けで稼いだ1ポイントだ。ここから傷口を広げなければ。
爆炎はどこだ!
私たちの第二目標、爆炎はどこにいる!
「行かせるものかっ!」
しまった、私の目の前に、春雷が飛び込んで来た。すでに体が帯電している。髪の毛が持ち上がり、火花を散らしていた。
「えいっ!」
たぬきが春雷に撃ち込んだ。しかし電撃を浴びて指環にもどる。
仕方ない、ここは火の玉改を………。
遅かった。
私は落雷を浴びて、一撃撤退の憂き目を見た。
死人部屋に入ると、他に誰もいない。当たり前だ。死人になっている間は他人と口を利けず、ただ黙ってスコアボードを眺めるしか無いのだ。
しかし。
カラフルワンダーは撤退1。蒼帝の枠に記されている。これは私たちが稼いだポイントだ。
そしてマヨウンジャーは………。
ロス、20ポイント。
一人あたり三撤退。プラス私とコリンの撤退である。
残り時間は三〇秒を切った。
まだだ。
勝負というのは、どう転がるかわからないものなのだ。決して途中で投げ出してはいけない。
いや、わかっている。
今からカラフルワンダー全員を撤退させても、復帰までに十五秒。これでようやく一巡、ポイントは6だけ。復帰と同時に全滅させても、12ポイントである。しかも残り時間が足りないのだ。
完敗だ。
さすがに気合と根性と精神力でも、ルールは覆せない。
肩を落として復帰する。
「なにしてんのよマミヤ! みんな闘っているわよ!」
コリンの声だ。
すでに駆け出している。
そして彼方には、範囲魔法にさらされながらも奮戦する、マヨウンジャーの面々が。
ゆくぞ、みんな。
急にスイッチが入った。
絶対に勝ってやると、その信念で足を励ます。
しかし無情にも、終戦を知らせる銅鑼が鳴った。
私たちの負けが宣せられる。
遠く敵陣で、ホロホロは弓をかまえていた。
ベルキラはシャルローネさんに斬りつけている。
アキラとモモの二人は、斬岩をしばいていた。
しかしそれでも、終戦である。
私たちは、負けたのだ。