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参謀たちの視点

そして視点は移動する

陸奥屋本店、参謀視点


 総裁付き美人秘書のかなめさんに呼び出された。総裁がお呼びだという。

 時計を見れば、残り時間は間もなく半分。

 平和な試合観戦で終わると思ったのだが、やはり参謀職に平穏は無いようだ。これから三分以上、あの『とんでも理論』に付き合わされるとは………。


「参謀、大矢健治郎です」

「うむ、よく来てくれた」

 奴は試合から目を外さず、返事だけよこした。

「どう見る、参謀? マヨウンジャーたちの戦い振りを」

「愚策です」

 即答した。

「長距離攻撃の可能な相手に肉弾戦など、愚の骨頂。いたずらに兵を損失するばかりです」

「では君なら、マヨウンジャーの頭目として指揮を執るならば、君ならどうする?」

 俺が指揮を執るなら?

 答えは明白だ。

「まず各個突撃をやめ兵をまとめて………」

「まとめて餌食になる、というのかね? 敵は火力で勝っている。いい標的だよ」

「ならばいつものマヨウンジャー通り、同志ホロホロと同志マミヤによる長距離攻撃から………」

「その長距離攻撃が貫通しないのだ。花火にもならんくらいにね」

「同じ突撃でも、序盤のようにまとまった人数で突撃させます!」

「その結果が、現在の個別突撃だ。君はそれを愚策と論じたじゃないか」

「………………………………」

 クソッ、だったらどう言えばいいんだよ!

 こんな個別突撃を繰り返して、なんの意味があるっていうんだ!

「………参謀、君はひとつ………戦いにおいて重要な要素を忘れている」

 ?

「いいかね参謀、戦いの場において絶対の強者は存在しないのだ。圧倒的勝利を得たとしても、背中を見れば傷だらけ。完敗といっても、敵は首の皮一枚ということもある」

 何が言いたい?

「勝利というものに『完璧(パーフェクト)』というものは存在しないのだ。つまり、勝負というものは常に逆転の要素をはらんでいる」

 まだ逆転の目があるというのか? この情況で。まだ諦めていないのか、この男は?

「見たまえ、参謀。マヨウンジャーが戦法を変えてきたぞ。同志ベルキラが、同志アキラとタッグを組むつもりだ」

 うん、この二枚看板ならどうにか………いや、カラフルワンダーの火力は絶対だ。この二人を飛び込ませるためにも、まとまった戦力で………。

「参謀、君は今回の突撃に否定的だったね?」

「はい、愚直すぎます」

「まあ、そう否定ばかりせずにだ。………たとえばそう、この突撃に肯定的な要素を見出だすなら、何を挙げるかね?」

 だから今、愚直すぎると言ったばかりなのに。なにを訊いてくるんだ、このオヤジは。

「………この突撃に、肯定的な要素を、ですか? ………思い付きません」

「いかんなぁ、もっと頭を柔らかくしないと。君の実弟は今まさに、この突撃の効果を実体験しているというのに」

 無茶だ。あんたレベルまで頭を柔らかくしたら、実生活を送ることが困難になってしまう。俺はそんな社会不適合者にはなりたくない。

 とはいうものの、この突撃に肯定的な要素などあるのだろうか?

「休む暇が無いのさ、バンザイ突撃には」

 いや、それは次から次へと敵が現れた場合であって、この少人数では効果が薄いだろう?

「そう思うかね?」

 鬼将軍の目が、ギラリと輝く。

「参謀、突撃において必須なのは数であると、君は言うのだね?」

「当然です! 戦闘において必要なものは、最初に数です! すべてはそこからはじまります!」

「戦さの勝ち負けは数ではない! 気合である! やることだ、やり抜くことこそが必要なんだよ! 攻めて、攻めて、攻め抜いて! 戦さの勝ち負けは、数の大小ではないのだ! 戦いというものはだ………」

 ゴチンという音がした。

 鬼将軍は昏倒している。

 そして奴の背後には、美人秘書の御剣かなめさんが立っていた。原始人の棍棒を片手に………。

「お疲れ様です、参謀。こんなことに付き合わせてしまって、申し訳ありませんでした」

「あ、いえ、役割ですから」

「ですが参謀、あまり総裁の悪い影響は受けないでくださいね?」

「はぁ………」

 とはいうものの、総裁の言わんとするところも、分からないでもない。

 事実、弟は………斬岩の大牙を名乗るダインは、非常にやりにくそうではある。

「………後手を踏まされているな」

 そうだ、カラフルワンダーは先程から、自分たちのぺースで戦うことができていない。

 迎撃というのはそういうものだ。だがしかし、後手がすぎるのではないか?

 撃墜率は一〇〇パーセントである。だがしかし、そうじゃない。

 なにかモヤモヤする。

 そしてこんな弱気な時に限って、鬼将軍の言葉がよみがえってしまう。

 完璧な勝利など、有りはしないのだ。

 鬼将軍。

 参謀職にとっては、本当に嫌な男である。



チーム『まほろば』

参謀・出雲鏡花の周辺


 チーム『まほろば』が陣取る観客席。

 主砲の御門芙蓉は楽しげに、マヨウンジャーへと声援を送っていた。そしてメンバーが魔法で吹っ飛ばされるたびに、拍手しながら大笑いした。

 三条葵と歩、それから近衛咲夜は魔法が炸裂するたびに、口を『O』の字にあけて感嘆の声をもらしていた。

 頭目・天宮緋影は、その一方的な試合展開に、ただただ感心していた。

 そして参謀・出雲鏡花は、眉間にシワを寄せて深々とため息をついている。

「いかがなされた、鏡花どの」

 剣士にして白兵戦の主力、白銀輝夜がたずねる。その声色は、心底身内の参謀を気づかうものだった。

「なにか具合の悪いことでも?」

「………不細工ですわ」

「なんと?」

「不細工と申したのですわ」

 出雲鏡花は(おもて)を伏せる。このような醜悪なもの、見るに耐えませんわ、と言った風情だ。

「確かに、マヨウンジャーの愚直な突撃は鏡花どのの好みには合わぬものと存じますが、私は少なからずあの愚直さ、好んでおりまする」

「マヨウンジャーの方ではありませんわ、カラフルワンダーの方でしてよ」

「ほ?」

「輝夜さんの仰るとおり、マヨウンジャーの突撃はあまりに愚直。ですがその愚直に対して、何を手間取っているものやら、あのオタンチンは」

 マヨウンジャーのドワーフは、すでにアキラと合流していた。そして今は、カラフルワンダーの眼前で砂埃をおこし、視界を遮っている最中である。

 つまり、姿が見えないからといって魔法攻撃をためらっていたら、じり貧になってしまったという情況である。

 それは白銀輝夜にも理解できたようだ。

「確かに、私ならば砂埃などに臆せず突入して、その元であるドワーフを斬っているでしょうか」

「ところがドワーフさんの後に控えているのは、輝夜さんの一太刀(ひとたち)をかわしてみせた、あの拳闘士ですわ」

「なんの、私なら………」

「そう仰いますが輝夜さん、カラフルワンダーに白銀輝夜は在籍してませんのよ? 砂埃の中に飛び込んでドワーフさんを葬ったところで、拳闘士の手により確実にキルを取られますわ」

「………………………………」

「カラフルワンダー、年寄り剣士を欠いたのは、痛いですわね」

 剣士としてだけではない。風魔法の使い手としても、この場面で必要なところだ。

 が、風が起こった。

「ふむ、面妖な」

「驚くことはありませんわ。カラフルワンダーの中の誰かが、風魔法を使ったのでしょう?」

 砂埃がみるみる晴れてゆく。風にながされてゆく。

「ですが、少々遅かったですわね」

 ベルキラの背後で砂埃が立つ。次に復帰したモモ、その後に続くホロホロの姿を隠しているのだ。

 そして………。

「突撃しますわよ。輝夜さん、今度はマヨウンジャーの刃が届きますかしら?」

「気合次第かと」

「その答え、肝に命じておきますわ」

 なんのためにか?

 それは分からない。

 しかしベルキラは突撃を始めた。斜め四五度の角度からだ。ベルキラに注目が集まったところで、アキラが突撃する。

 ベルキラ、撤退。

 しかしアキラの拳が届く。

 だがそれは斬岩の隠れる岩の盾だ。盾が砕ける。二の太刀で左フックが飛ぶ。斬岩の顔にヒット。大きく体力を削った。右フックに繋げる………ところで、爆炎の攻撃が命中。春雷が繋ぎ蒼帝がとどめを刺して、アキラ撤退。

 またしてもマヨウンジャーの刃は、カラフルワンダーに届かなかった。

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