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私、突撃する

視点・マミヤに戻る



 やってくれるなぁ、シャルローネさん。斬岩くんの生やした岩の壁。こいつをよじ登ろうとした途端に、範囲魔法が雨アラレだよ。

 しかし壁にへばりつくように、そして身を伏せていた私にダメージは無い。私の側に落下してきたのは、圧縮のファイヤーボール。有り体にいえばボムである。地面で炸裂する爆発物は、そのエネルギーを上に放出する特性がある。よって、伏せていればその被害を軽減することができるのだ。映画などで爆弾に対し、「伏せろーーっ!」と叫ぶのはそのためである。

 と、爆発物についての蘊蓄(うんちく)をたれている場合ではない。

 見たところ雑に放られた範囲魔法。この目的を考えなければならない。

 私なら何故、このような撃ち方をするか?

 簡単なことだ。シャルローネさん、あるいはカラフルワンダーからは私の姿が見えないのである。言わば潜水艦に対する爆雷攻撃。見えない敵に対して、見えるように動かすための攻撃。あぶり出しが目的だ。

 ならばどうする?

 選択肢のひとつとして、後から駆けてくるベルキラを待ち、二手に分かれて突撃するというのがある。………うん、ダメだな。二人そろったところで範囲魔法をボカボカ撃ち込まれたら、二人そろってオダブツだ。

 そしてもうひとつの選択肢。私が二人に分かれて突撃する。私にはそれができるのだ。たぬきに、私に化けさせればいい。

 いやいや、よく考えろ。

 私には本物の隠蔽技術(ステルス)があるじゃないか。

 指環に呼びかける。

「たぬき、いよいよ役に立ってもらうぞ」

「わかりました御主人様。ごはんにします? お風呂にします? それとも、わ・た・し?」

「ステルスを使う。それで敵陣に殴り込みだ」

「気をつけてくださいね、御主人様。あのシャルローネさん、たぬき並みに勘がするどいですよ?」

「わかった、彼女には近づかないようにしよう」

 ということで圧縮ファイヤーボールの準備をして、毛皮のマント………たぬきの八畳敷をかぶった。

「御主人様、その魔法は?」

「少しでも足音を消すためさ」

 壁越しにファイヤーボールを放る。爆発と同時にマントをかぶり、姿を消して駆け出した。

 ねらうなら、誰にする?

 今回は緑柳のじいさんがいない。ならば魔法の相性で中心となる人物を………蒼帝か。

 彼の水魔法は落雷と相性が良い。さらにはずぶ濡れのところにブリザードが襲って来れば、これまた撤退必至である。アイスバーン魔法に水を撒かれるのも厄介だ。乾いた氷は滑らないというが、濡れた氷では立つことすらままならない。

 よし、決定。

 恨みもなにも無いが、蒼帝くん。お命、頂戴つかまつる!



シャルローネ視点


 コリンちゃんの接近を許してしまった。そしていま、マミヤさんが接近しつつある。範囲魔法を放っても手応え無し。

 これは由々しき事態と言える。本来ならば私たちは、火力の差を考えればマヨウンジャーすべてを距離のあるうちに仕留めていなければならない。

 それがどうだ。

 彼等を距離のあるうちに仕留められたのは、序盤の一巡のみ。二巡目に入るや否や、いきなりコリンちゃんの接近を許してしまっている。そしてそれに続く、マミヤさんまで………。

「どうする斬岩? あなたが考えるベストを参考にしたいわ」

「なにも慌てることはありませんよ、氷結さん。僕たちは僕たちの戦いをするだけです。むしろコリンさんの接近を許したことで、狼狽えることの方が怖いですね」

「ということよ、みんな。多少のイレギュラーがあっても、私たちはそこからつけこませないだけの力を有しているの。プラン通りに働いて、イレギュラーがあっても慌てない。これでいきましょ?」

 と言った途端、蒼帝の顔面が吹っ飛んだ。まるで見えないハンマーで殴られたみたいに、大きく後ろにのけぞっていた。

 しまった! マミヤさんだ! 気配がそうだと知らせてくれる。

「マミヤさんよ! 蒼帝の前っ!」

 範囲魔法用意。標的、蒼帝。

 フレンドリー・ファイヤーの無いゲームだから、蒼帝を巻き込んでも大丈夫。

 だけど、蒼帝の前に現れたのは、たぬき尻尾の女の子だった。あまりの唐突さに、私たちは言葉を失って………。

 って、マミヤさんはどこヘブゥッ!

 下から叩き上げるような衝撃。アゴを持ってかれたわ。全身がしびれている。目に映るのは、マミヤさんの後ろ姿。マントを羽織っていない。そして蒼帝目掛けて突撃し、杖でシバかれている蒼帝にステッキで一発。それからもう一発。

 そこでようやく、爆炎と春雷の攻撃が入った。マミヤさん退場、蒼帝危機一髪といったところだった。

「紫雲、蒼帝の回復をお願い! 斬岩、次の相手はどこ?」

「それより氷結さん、あなたも回復魔法を………」

「大丈夫、現実世界でも口の中を切る程度だったから。それよりベルキラさんは?」

「大丈夫、まだ遠いです!」

 まだ遠い?

 ありえないわ。

 マミヤさんは範囲魔法で一度足止めをして、それから隠蔽技術を使ったりたぬき尻尾の女の子を呼び出したりだから、時間的ロスがあるはず。つまりベルキラさんとの距離は、もっと詰まってなくちゃならないのに。

「斬岩! ベルキラさんの次に撤退したのは誰?」

「あ」

 気づいたみたいね。

「アキラ君です!」

「警戒レベル・マックス! タンクとポイントマンが同時に来るわよっ!」

「まかせて、シロ。僕の雷魔法で、二人同時に撤退させてやるよ」

 頼もしいわね、春雷。

 でもダメだよ?

「くっ………砂埃か!」

 そう、マヨウンジャーのドワーフは、土系魔法で砂埃を立てたのだ。

 おかげで狙いを、つけ難いことつけ難いこと。


 こちらが奪ったキルは、一巡六人プラス二人の、合計八人。時計を確認すると、いつの間にか二分半を越えていた。

「残り試合時間、三分半か………」

 逆転は充分に可能な時間だ。

「どうしよっか? 春雷の落雷が使えないなら、次に射程距離があるのは………」

「爆炎さんですね」

「爆炎さんですねはイイけどよ、砂埃の向こうの相手は掴まえられないぜ?」

「また待つの、シロたん?」

 紫雲が割りと核心を突くようなことを言ってくれた。

 また、待つ?

 まるで私たちが後手を踏んでるみたいじゃない。

 って、事実そうか。

 私たちはキルの数でマヨウンジャーを圧倒しているのに、常に後手を踏まされていた。

 またまた伯士の言葉を思い出す。

 先手必勝。

 魔法に利あるならば、それ即ち先手必勝なり。

 あん、もうっ!

 なんで今になって思い出すかな! すっごく大切な教えじゃない! それが今さら………。

「来ませんね、氷結さん」

「つーか斬岩、この砂埃、いつ晴れるのよ?」

 爆炎の言う通り。いつこの砂埃がいつ晴れるのか。というか、これだけ砂埃が晴れないのには、理由がある。

「弱魔法を細かく使って、砂埃が晴れないようにしてるのよ」

 この砂埃が晴れたとき、いきなりベルキラさんが襲いかかってくるだろう。

 小さな隼・アキラを隠しながら。

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