私、の視点がまだ来ない
斬岩の大牙・ダイン視点
………コリン、撤退。マミヤさん、撤退。コリンが復帰するものの、ベルキラが撤退。
うん、僕の作戦は順調に進んでいる。コリンが前線に到着すると同時に、アキラ君を撤退させる。つまりいつまで経っても、マヨウンジャーは数的不利でしかなく、決して有利には運ばない。
何も問題は無いし、どこにも間違いが無い。完璧に予定が進んでいる。
なのにプレッシャーを感じてしまう。
蒼帝と春雷のタッグに氷結さんまで加わって、軽快かつ大火力のアキラ君は、そろそろ撤退だろう。
順調に事が進んでいるっていうのに、何だか不快感がぬぐえない。
「間もなくコリンさんが前線に到着します。氷結さん、アキラ君へのフィニッシュをお願いします」
「了解! さあアキラ君、いまお姉さんが楽にしてあげるからね♪」
きっちりしっかり、氷結さんは仕事をしてくれた。現在マヨウンジャーは、ホロホロさんにモモさん。そして現場到着を果たしたコリンさんの三人しかいない。うん、ようやくマミヤさんも復活したようだけど、現場到着までには時間がかかる。それまでにモモさんを撤退させようか。コリンさんの相手は、氷結さんチームにまかせておこう。
って、コリンさん。こっちに向かって来たの? これはイレギュラーだ。だけど岩を生やして、コリンさんを氷結さんの前に導いて………。
………強情な娘だなぁ。無理矢理岩をよじ登って、こっちに向かって来るよ。
だったら彼女の槍でも魔法でも、絶対に乗り越えられない壁を出して。………またよじ登って来るのかい! こっちに何があるというんだい?
確かに、こっちではホロホロさんとモモさんが苦戦している。救助に駆けつけるのは、有りといえば有り。無いというなら無い。いつでも二人まとめて撤退させられる情況に、救助が一人飛び込んだところで、それはナンセンスに過ぎないからだ。
あらら、とうとう前線まで到着しちゃいましたね。仕方ない………。
「爆炎、そろそろモモさんにとどめを刺しましょうか?」
「そうだな、頃合いだろう」
「氷結さんたちは、次に来るマミヤさんを迎撃してください。それと春雷はコリンさんを攻撃」
「わかったわ! マミヤさん、まずは足止めよ!」
「こっちはコリンを迎撃だっ!」
うん、これで良し。
多少のイレギュラーはあっても、充分に修正可能だ。なにも問題は無い。
僕は砂魔法でモモさんの動きを鈍らせる。そこへ爆炎の範囲魔法。うん、モモさん撤退。
「おい、斬岩! チビっこいのが突っ込んで来るぞ!」
おや、これはいけない。ホロホロさんにも礫魔法。第二波、第三波。
………なかなか当たらないなぁ。なんて、僕が焦ると思いましたか? さすがホロホロさん、これは不規則運動ですね。第二波を避けられた時点で、もうわかってます。これは不規則運動という『一定の法則』に則った運動です。
だから失中と見せかけて、実はホロホロさんに詰め将棋を仕掛けてたんですね。その甲斐あって、すでにホロホロさんは僕の術中………。
「コリン! あとはまかせたよーーっ!」
ほら、ホロホロさんも撤退。
「斬岩! マミヤさんがそっち行ったわよっ!」
ほ? マミヤさんまでこっちですか? たしかに、先ほど生やした岩の壁。その向こうに氷結さんたちが魔法を放っている。
「ダイ、ゴメン! 逃げられたっ!」
へ? って、春雷。コリンさんの接近を許したんですか?
「おかしいぞ、斬岩! こいつら馬鹿正直にこっちばっかり突っ込んで来て! 撤退の数を比べろってんだ!」
今は爆炎が魔法で対応してるけど、これがまた当たらない。チョロチョロと小柄な身体を活かして、だけど鬼のような眼差しを………。
「あぶないっ、爆炎っ!」
シャルローネ視点
コリンちゃん撤退。マミヤさん、撤退。それどころかマヨウンジャーは、全員一巡しての撤退。
星取りでは私たち、俄然有利。だってこっちは、ひとつも星を落としてないから。数字で言えば、六:〇のスコア。俄然有利どころか、圧倒的有利。
だけど何故だか、そんな気にはなれない。
コリン! あとはまかせたよーーっ!
ホロホロさんが残した、あの一言が何故か気がかり。
そう、あの一言は後に続く者が、必ず何かしてくれると信じた、信頼の一言。
事実コリンさんは、遂にその矛先を爆炎へと届かせた。爆炎は防御、すぐに蒼帝が水弾で打ちのめし、春雷の落雷で撤退させることができた。
だけど長距離での戦いにおいて、絶対的かつ圧倒的に有利な私たちが、マヨウンジャーの接近を許してしまったのだ。
………傲りだったのだろうか?
合戦前、斬岩と伯士の三人で、作戦の打ち合わせをした。
「私はマヨウンジャーが怖いです」
偽らざる心境を述べた。
「これだけ戦力差がありながら、それでも挑んでくるマヨウンジャー。………特に、あの冷静なマミヤさんがそれを言い出すなんて、絶対に何かあります!」
伯士ったら、そんな私を咎めるでなく、目を細めて笑っていた。
「のぉ、氷結のお嬢。だからこそ恐ろしい相手は、一発で仕留めやせんか?」
「伯士がいるなら、それだってかまいません! でも今回は、伯士が出ないって言うから………だから的確に弱魔法で動きを止めて、丁寧に仕留めていくべきだと思います」
そう。
私は伯士からいろいろ学んで、正直自分でも、かなり身につけたと自負していた。だけどそれは、後詰めや後ろ楯がしっかりしているからこそ。
伯士が抜けると私たちは、平均年齢がグッと上がってしまう。その若さ、未熟さが、私は恐ろしい。
魔族マミヤ。
陸奥屋一乃組頭目ほどではないけど、私よりはずっと経験豊富で色んなことを知っている、大人の男性。決断力があり、周囲を見る能力があり、道を誤らない公務員。
堅い手を打ってくるか、奇襲をしかけてきてもその奇襲には意味がある人。
その彼が愚直なまでに突撃を繰り返し、屍の山を築いて、遂にはその刃を本陣に届かせてきた。
私は間違っていた。
この場面は伯士の言う通り、全力の魔法攻撃で叩き潰すべきだった。
いや、それは今からでも充分に間に合う。なぜなら蒼帝の機転で、コリンさんを撤退させたのだから。
「蒼帝っ、私に合わせて! 春雷、もう手加減は無用よ! これからは全力でマヨウンジャーを迎撃します!」
「よ、氷結。オイラはどうすんだよ?」
「爆炎は私が凍らせた相手を、灼熱玉で粉々に砕いてちょうだい! 斬岩は観測と報告! 紫雲は味方が負傷したら、すぐに回復魔法を!」
標的、斬岩が拵えた岩壁に隠れたマミヤさん!
「範囲魔法全開、ヨーイ………てーーっ!」
正直言うと、障害物のおかげて丁寧な攻撃はできていない。だけど、今はそれでいい。
何故なら………。
「次玉準備っ! マミヤさんが姿を現したら、全力でぶちこむわよっ!」
これはいぶり出しに過ぎない。次の手がマミヤさんを仕留める、必殺の一撃だからだ。