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観客席から

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 忍者は眉をひそめた。

 隣で観戦しているユキに言う。

「まずいな、シャルローネがよみがえったぞ」

 ユキは背筋をのばして観戦していた。忍者とは正反対だ。

「よみがえっただなんて、まだ早いよ忍者。まだコリンが被弾しただけ。敵将の調子が上がってないのは確かだよ」

「と、思うじゃん?」

 忍者のことばを証明するように、氷柱が地面からのびてコリンの幼い肉体を串刺しに貫いた。

 コリン、撤退である。

一番撤退(ファーストブラッド)だな」

 忍者の言葉に、ユキは唇をとがらせた。

「マヨウンジャーに入れ込むのはわかるが、入れ込みすぎると真実が見えなくなる。事実は事実として受け入れろ」

「まだまだ! マミヤさんがいるし、他のメンバーも健在。忍者こそ吠え面かく準備はしておいてよね」

 善戦しているのは事実だ。しかし戦力差を考えると、最初の突撃でキルをひとつでも取れなかったのは、痛い。痛すぎると、忍者は言った。

「それこそマイク・タイソンさ。相手が暖まっていないうちに、好き放題に殴りまくる。それができなかったのは痛いぞ。序盤のシャルローネは、間違いなく調子を落としていた。そこを突けなかったばかりか、エンジン掛けさせちまったからな」

「でもでも忍者、まだキルを取られたのはコリンだけ。マヨウンジャーは敵陣に迫ってるから、飛び込むのは時間の問題でしかないよ。………ほら、マミヤさんが飛び込んだ!」

 飛び込まされたのさと、忍者はあくまで否定的。

「まずここで、それぞれの配置を考えてみようや。シャルローネはマミヤさんと一対一(タイマン)。蒼帝と春雷でアキラに対応。爆炎と斬岩のコンビでホロホロ、ベルキラ、モモを抑えている」

「あ! 回復役の手が空いてる!」

 違う、そこじゃない。

 忍者の目は、別の場所を見ていた。

「回復役の紫雲が浮いていると見せかけてもう一人、手が空いている人間がいる」

「?」

「よく見てみろ。ホロホロたち三人の対応は、ほとんど爆炎一人でやらされているんだ」

「………本当だ。斬岩って盾にする岩を生やしただけで、たまにしか働いてない」

 つまりどういうことか。

 場を把握しているのが、斬岩。その情報を元に指揮しているのが、シャルローネ。

「………いや、もしかしたら、作戦を立ててシャルローネに進言までしているかもしれんな。それくらいに奴は、表の仕事から離れてるよ」

 その斬岩がシャルローネに、マミヤさんと撃ち合えと指揮したのさ。忍者は面白くなさそうに言った。

「なんのために? なんのためにシャルローネさんとマミヤさんを、撃ち合わせるの?」

「それは、私の考えがハズレてなければ………そろそろマミヤさんが退場するはずだ」

 忍者の読み通り、シャルローネの(とげ)つきメイスがマミヤの脇腹に決まり、二人目の退場。

「………忍者、もしかしてこれは?」

「そう、これから先の展開を見越した、各個撃破の態勢を作ってるのさ」

「そんなことされたら、マヨウンジャーに勝ち目なんてなくなるじゃない!」

「だから勝ち目を無くしてるんだってば。………ラウンド序盤から範囲魔法で、バンバン飛ばしていくのかと思ったけど、手堅く手堅くまとめてやがるからな。これはマヨウンジャー、俄然不利だぞ?」



鬼将軍シート


「さて、各個撃破の形に入ったようだね、かなめ君」

 鬼将軍は特別シート。背もたれが他人の迷惑になりそうなほど高い椅子に、脚を組んで座っていた。

「これはまったくもって面白味も美学も無い、ただの『勝てばいい』というだけの戦いだと、そうは思わないかね?」

「お言葉ですが総裁。この作戦は斬岩の大牙、ダインの策略かと思われます」

「ふむ?」

「つまり、面白可笑しさを求めるべき相手ではないと」

 そういうものかねと、鬼将軍は肘掛けで頬杖をついた。

「総裁でしたらカラフルワンダー、どのように指揮を執りますか?」

「まずは突撃! 魔法などには頼らず、攻めてっ攻めてっ攻め抜いてっ!」

「カラフルワンダーは魔法を使って、攻めて攻めて、攻め抜いています」

 ふむ、と言って鬼将軍は、またもや頬杖。面白くも可笑しくもなさそうな顔をしていた。

「………総裁?」

「なにかね?」

「もしや、期待されてますか?」

「わかるかね?」

「秘書ですから………」

 事実、面白くなさそうにはしているが、鬼将軍の眼差しは輝いている。逆説的と言っていいのだろうか? カラフルワンダーが面白くも可笑しくもない戦法を執れば執るほど、マヨウンジャーの戦法に期待をかけている。そんな反比例が生じているかのようだ。

「総裁、ベルキラが撤退。コリンが復帰しました」

「まるで時計で計ったような正確さだね。同志ベルキラにフィニッシュを入れたのは?」

「斬岩です」

 やはりそうかと、鬼将軍は笑う。笑うと常人よりも長く鋭い犬歯が目立った。

「………かなめ君、シャルローネがアキラ攻めに加わったみたいだね?」

「次の犠牲者を決めたものかと。その次はおそらく、モモさんかと」

「なるほど、同志ホロホロから翼をもぎ取る作戦………いや、マヨウンジャーの頭脳が機能しない時間を確保するのか」

 ホロホロが単独(ひとりぼっち)の時間を十五秒とするなら、撤退から復活までの時間も十五秒。ホロホロが頭脳として機能しない時間は、連続三〇秒となる。

「その三〇秒間、マヨウンジャーは指揮官不在で、鴨や七面鳥になり果てると踏んでいるのでは?」

 クスクスと、鬼将軍は笑った。

「かなめ君、作戦を伝える上で注意点は何かな?」

「はい、目的を明確に。手段は簡略に伝えるべきかと」

 美人秘書もまた、微笑みを隠せないようだ。

「………面白いものだね、かなめ君。戦いというものは………。優勢な者が優勢なままに、勝手に不利な策略を実行してくれるのだから」

「斬岩のダインが愚策を執ったと?」

「いや、良策だ。まったくの良策だよ。だがしかし彼は良策を執り続ける限り、苦しみから逃れることは無いだろう。良策が彼を苦しめるのさ、愉快痛快だね」

 良策が彼を苦しめる。

 不可解な理論ではあるが、美人秘書は同意するように微笑み続けていた。

「参謀! 参謀はいるかね! あの斬岩のダインは君の実弟と聞き及んでいるが、小生意気なのであろう! 小賢しいのであろう! これから君の実弟が、もがき苦しむ姿が見られるぞ! 楽しみだなぁ、これはっ!」

 鬼はなおも、笑っていた。

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