私、説教をかわす
決戦の朝が来た。
いつものように拠点『下宿館』へ入ると、迷走戦隊マヨウンジャーの面々が、私を待っていた。
「おはよう、マスター」
「遅かったわね、マミヤ。このコリンちゃんは一番乗りだったのよ」
「私とホロホロはドベの方だ。朝食をゆっくり摂ってたからな」
「ボクは朝の走り込みをしてたからね、っていうかコリンは単純に、今日の対戦が待ち遠しかっただけじゃないの?」
「うっさいわね、そんなんじゃないわよ!」
「それじゃあ~コリンちゃんはマスターに逢うのが待ち遠しかったということでぇ………」
「ちょ! モモっ、待ちなさいっ!」
いきなりにぎやかな展開だ。決戦の朝なのだからもっとこう、緊迫感あふれるものと思いきや。
「そうでもないよ、マスター」
ホロホロが卓を指差す。砥石が転がっていた。そしてベルキラは戦斧を抱えている。
アキラも体操服に赤ブルマの戦闘態勢。しかも体操服は、しっとりと汗ばんでいた。アップをしていたのだ。
コリンの額も汗ばんでるし、モモのスカートの裾からは、トラックスーツの脚が見えていた。
「マミヤもさっさと準備したら?」
「ふっふっふっ、私ならすでに現実の方で、たっぷり柔軟体操をしてきたのさ」
「やるじゃない、マミヤのクセに」
「やるだろ? 私のクセに」
ホロホロがパンパンとふたつ、手を叩く。
「それじゃあみんな、マスターも揃ったことだし、待ち合わせの場所に行きましょうか」
本日の戦場はチュートリアルの部屋だ。しかし待ち合わせ場所は、いつもの闘技場である。それ意外に、『ここ!』という場所が思いつかなかったのである。
闘技場受付前で、カラフルワンダーと合流。チュートリアルの部屋へ一緒にインする、という予定だ。
私たちは、一路闘技場へ。
しかしロビーに入ると、集団が何者かに叱られているのが目に入った。
「………総裁たちじゃない、アレ」
ホロホロがポカンとしたように呟く。
「しかもリンダさんに叱られてるみたいだし」
アキラも、「なにやってんだか」という顔だ。
「なんで怒られてるのよ? 思い当たる節が多すぎて、どれだかわからないわ」
「まったくだな」
おそらくは私たちの応援に来てくれたのだろう。しかしそこで、リンダに捕まったに違いない。こればかりは普段の行いのせいである。私としては、いかんともし難い。
「おやぁ? あれはチーム『まほろば』の方々ですぅ。リンダさんを、なだめていますねぇ?」
「それで怒りがおさまれば良いのだが」
無理かもしれない。ベルキラは眉間のシワを押さえるばかりだ。
「とりあえず、ここから様子を見ることにしよう。朝っぱらからとばっちりは受けたくないからな」
「賛成。まだカラフルワンダーも到着してないみたいだしね」
するとコリンが、不吉なことを言った。
「カラフルワンダーが現れたら、リンダさん、余計に怒りだしちゃったりして」
「「「………………………………」」」
あり得る。
その思いが、私たちに口をつぐませた。
「ちょっと、なに黙り込んでんのよ? 冗談よ、冗談!」
「いや、コリン。………いまのはちょっと、あり得そうだったから」
一応返事はしておく。
コリンが不安そうな顔をしていたからだ。
そして遠巻きに眺めていると、カラフルワンダー参上。
と同時に、陸奥屋とカラフルワンダー、全員が正座させられて説教が始まった。一緒に正座させられたチーム『まほろば』も、いいとばっちりである。
「ですがマスター、リンダさんのお説教、長引きそうですよ?」
「そうだな、アキラ。このまま眺めていては、私たちが卑怯者の謗りを受けてしまう。ここはひとつ、私たちも叱られに行くか」
ということで、リンダに声をかけてみる。
「あら、マミヤさん?」
怒りの表情をおさめて、リンダはいつもの整った顔を私に向けた。
「マミヤさん、最近陸奥屋の忍者から隠蔽技術を学んでるそうだけど………」
あ、雲行きがあやしい。
麗しい微笑みのまま、リンダは殺気を放っていた。
「マミヤさん? あれは禁じ手にしてくださいね?」
さもなくば命は無いぞ、と言わんばかりの迫力だ。
「守れますよね? マミヤさん」
「守れるもなにも、私たちは忍者の技術を身につけてはいない、安心してくれリンダ。あれは人間業じゃない、そして私たちは人間だ」
「本当ですよね?」
「本当だとも。それにもしも身につけたとしても、使う相手は限定。ここにいるカラフルワンダー………あるいはチーム『まほろば』や陸奥屋くらいなものさ。あれは人間に使うべき技でもない」
そうだ。リンダが怒っているのは隠蔽技術そのものではない。『まともな人間』に対して使ったのが悪いのだ。しかも術者はリンダが目をつけているであろう、忍者である。これは説教のひとつも入ると言うものだ。
「………わかりました、マミヤさん。その言葉を信じますね」
リンダはニッコリ。
受付用のスマイルを投げかけてきた。
「だけどもしも約束を破ったら、わかってますね?」
「わかってます、ハイ。わかってますともリンダさん」
嫌な汗が流れてしまう。それくらいにリンダの迫力は、本物だった。
「ところでリンダさん、陸奥屋とカラフルワンダーが説教されてるのはわかるんですが」
アキラ、それはシャルローネさんたちに失礼………でもないか?
「チーム『まほろば』まで説教されてるのは、なんでですか?」
「うん、アキラくん。世の中にはね、知らなくてもいいことがあるのよ? わかってもらえると思うけど」
さりげなく「分かれよ」と言っているあたり、リンダも海千山千だ。
「アキラ、きっとチーム『まほろば』にも、いろいろあるんだろうさ」
なにしろ三条歩は、忍者同様に隠蔽技術を使いこなしているのだから。
「それじゃあリンダさん、私たちはチュートリアルの部屋に行きますので」
ホロホロが無理矢理、話を中断する。そうだ、そうしなければ私たちは、今日の一戦をむかえることができないのだから。
「カラフルワンダーと対戦だったわね? 気をつけてね、みんな。カラフルワンダーは頭が悪そうに見えるけど、これでも実力者だから」
「ありがとうございます、リンダさん」
ということで、どうにか全員釈放。
チュートリアルの部屋、チユちゃん部屋へと旅立つ。