私たち、危険な賭けに出る
走る走る基礎体力をつけ、範囲魔法をかわすという技術を身につけた。
そうなるといよいよ、戦略である。
「当初は隠蔽技術から始まった私たちの挑戦。結局忍者の隠蔽は身につかなかったけど………」
ホロホロは残念そうだが、それは無理というものだ。忍者は忍者で独自の思想を持ち、技術を構築しているのだ。いまさら素人の私たちが、簡単に得られる技術ではない。
それに………。
「私たちには私たちの隠蔽技術。相手の意識の外から襲いかかる、というのがあるから」
そう、ここぞという時にズバッと踏み込む力。そして度胸が私たちにはある。なかなか敵陣に踏み込めず、遠くから魔法をポチョポチョと撃っているようなチキンは、マヨウンジャーには存在しない。
「だけどね、この一手はこれだという時まで封印しようと思うの」
確かに。
我々からすればこの一手は、まさに秘中の秘。下手のポーカーみたいにその存在を、チラチラ見せては効果が無い。
「それじゃあホロホロ、今回は変わり手をつかわないの?」
「慌てないで、コリン。私たちの隠蔽技術、意識の外から殴りつける戦法には、壮大な囮が必要なの。わかるよね? この囮に、策を仕掛けようと思うんだ」
囮か………。
ついに私たちも、囮を使うようになってしまったか。これまでも度々、囮戦法というのは話題になった。もちろん局所局所でそのような展開になったこともある。ホロホロ自身は囮戦法というのを、あまり快く思っていなかったようで、大々的にその戦法が執られることはなかった。
あれって囮役にとって情況が厳しいし、孤立感たっぷりだからイヤなんだよね。
確かそのように言っていたと記憶する。
とりあえず、囮作戦だ。ここに策を講じると、ホロホロは言った。
「盛大に敵の目を引き付け、その集中砲火を生き延びる。そんな仕事は………アキラ、君にしかできないんだ」
「ちょっと待て」
私は椅子を鳴らした。
「アキラは主砲だぞ、それはあまりにも博打が過ぎないか?」
「だから効果があるんだよ、マスター。囮はチョロチョロ走っていればいいってモノじゃないの。本物のプレッシャーをかけて、囮でありながら敵に隙あらばズバッと斬り込む。………本物じゃなきゃ囮はつとまらない。これは私の考え、私の思想。そして私の、信念だよ」
「確かに、アキラに出て来られたら厳しい。こんなのに飛び込まれて大暴れされたらと思うと、想像でしかないのにゾッとする。………だが、いくらなんでも」
「言いたいことはわかるよ、マスター。でもね、アキラを囮にする以上、残る私たち全員が突撃要員だって言ったら、納得してくれるかな?」
クッ………そう来たか。
誰も彼もが無関係ではない。一人ひとりが重要なポイントマンである。アキラを囮にすること自体リスキーな作戦だが、そのリスクは私たち一人ひとりが背負わなければならないのだ。
「だけど彼我の戦力差を考えると、序盤から大量失も考えられるから、その時のためにもう一手」
つまり逆転のための秘策か。
「ここで私たちの隠蔽技術を使うの。ベルキラやマスターの背中に隠れて、どんどん敵陣に迫っていく役割。敵陣に飛び込んだあとの火力が必要だし、生き残るための魔法もあった方がいい」
誰が指名される。
少なくとも私やベルキラではない。
となると………。
「大逆転の駒は、コリン。………まかせたよ」
「ぅえ!? あ、アタシっ!? い、いいの? ってか無理よ無理無理!」
「さすが種族人間だよね。成長すればするほど、オールラウンドプレイヤーっぷりを発揮する。今や攻守のバランスでは、コリン以上のプレイヤーが私には思いつかないの」
コリンの苦情に、ホロホロはまったく耳を貸していなかった。
「そしてコリンが敵陣に飛び込んだら、アキラも突撃を仕掛けやすいでしょ?」
「そうですね。例えボクが撤退していても、コリンが開けた穴は復活と同時に広げてやります」
「ちょ、アキラ!」
「忘れちゃったのかい、コリン」
アキラはポンと肩を叩く。
「コリンはボクたちに、ドラゴン狩りの成功を与えてくれたんだ。勇敢に、熱心に、ただ一途に。これを忘れなければ誰が相手でも………」
アキラはニヤリと笑った。
「人間、勝負のときは必ず訪れるものだ」
ベルキラも肩を叩く。
「そして勝負を制する者は、すべて『自分より強い相手』を倒すものだ」
「一人じゃありませんよぉ、コリンちゃん」
モモだ。
「マヨウンジャーは六人でマヨウンジャーですぅ。モタモタしてたらこのお姉ちゃんが、コリンちゃんの役割をさらっちゃいますからねぇ♪」
いいことを言う。
「役割はそれぞれにあるが」
私もなにか言わなければ。
「しかしモモの言う通りだ。六人そろってマヨウンジャー。全員でカラフルワンダーに打ち勝つぞ」
「「「応っ!」」」
これで本当にいいのか?
これで本当に勝てるのか?
神ならぬ我が身では、答える術のあるはずもなく。
我、狂カ愚カ知ラズ
一路、遂ニ奔騰スベシ
対戦の日は、迫っていた。