私たち、ゴリゴリと稽古する
走れ、走れ、走れ。
走ることはカラフルワンダー対策の要である。それで実際に走る速度が上がる訳ではない。タイムを縮められることは無い。しかし私たちにとって走り込むことは、大切な裏付けであった。具体的な裏付けではない。ただ、これだけ走り込んだのだから何かができるという、その『何か』の正体もわからぬまま自信の裏付けとして走り込んだ。
そんな走り込みだがしかし、それなりに効果はある。
「よーし、火の玉改。いくぞーーっ!」
「雷魔法もいくから、ちゃんと避けなさいよーーっ!」
コリンとタッグを組み、魔法攻撃である。そしてアキラが、これを回避する訓練だ。
まずはコリンの雷魔法。アキラはこれを発射前から、モーションを盗んで回避。避けたその場所を予測して、私の火の玉改。これも体さばき(ボディーワーク)でかわす。
「私も参加するね♪」
ホロホロが矢を放ってすぐに風魔法を撃つが、軽くよけられて接近を許してしまう。
ピッと、鋭い拳。
すでにアキラは超近距離。簡単に接近を許し、踏み込まれていた私たち。コリンのアゴ先を左アッパーで捕らえられている。
「うん、走り慣れのせいか、余計なことを考えなくても足が動きますね」
アキラは軽いステップを踏みながら笑う。
「じゃあ次は、モモ。お前の好きなブルースのように、軽快な動きを見せてくれ」
「はい♪ モモ、いきますぅ~~!」
しゃがみ込んだと思ったら立ち上がり、立ち上がった時には半身を切って火の玉改をかわしている。右半身から左半身。まさしく蝶のように華麗なステップで、魔法をかわしている。
「ふふふっ………これがOh柳勝先生著、七星蟷螂拳入門でおぼえた三才歩ですぅ♪」
とにかくチョロチョロと動き回るので、魔法の的が絞りきれない。
ようやく捕らえられそうになった時には………。
「あちょ」
モモのサイドキックが、コリンの鼻先に伸びていた。
「ふっふ~ん………もう私のことを、ドン臭いとか呼ばせませんよぉ?」
しかもモモはサイドキックの姿勢で、ピタリと止まっているのだ。間違っても彼女のことを、悪く言うことはできない。
そして大柄なベルキラも、単純なゴー&バックだけで魔法をかわす。ゴー&バック。これだけでは本当に単純に聞こえるが、前進後退だけではない。右にゴーで左にバックまでやられると、いつどのタイミングで進路を変えるか、まるでわからないのだ。
「それ!」
遂にはホロホロよりも低い姿勢で弾丸タックル。簡単にバックをとられる始末だ。
走り込みの効果は絶大と言えた。あるプロレスラーが言っていたのだが、走り込みには速度アップと脚力の強化。持久力の増強に減量効果と、一石二鳥にも三鳥にもなるそうだが。私たちはさらに、集中力や観察力の育成。判断力の強化といった効果も得ていた。
これらはすべて現実世界では、持久力から来るものだと思う。しかしこのゲーム世界では、ルーチンワークをこなすことで慣れを生み、考えるという作業を省くことに成功していると考えられた。つまり私たちは、止まった状態から敵の魔法攻撃をよけるのと同じように、走りながら敵の魔法攻撃を観察。その上で回避できるようになったのだ。そう、片手で煙草を吸いながら書類作成するよりも、もっと簡単にである。
「それじゃあ次は、範囲魔法をかわしてみようか!」
「ちょっと待ってください、マスター」
アキラがニコニコと笑っている。
「まだマスターの回避訓練が済んでませんよ? ここはひとつ、マスターの格好いいところを見てから、次の訓練に移りたいなぁ、ボク」
「そうね、アキラ。アタシもアキラの意見に賛成だわ。さ、マミヤ。アタシの雷魔法をかわしてみなさい!」
「コリンも稽古するんだよ? さあ、スタートラインに行った行った♪」
もちろん私の技量も上がっている。簡単にヒットは許さない。だが………。
「食らえっ! 必殺の礫魔法っ!」
「ベルキラ姐さんナイス! モモさん、左に追い込むからねっ!」
「白血球部隊っ、かかれぇ~~いっ!」
「猪口才だね! だけど風の刃からは逃げられないよ!」
こらこら、君たちの時よりも一人多いぞ。
「御主人様、お覚悟をっ! 必殺たぬきの置き土産っ!」
たぬき、おめーもかよ?
しかし私の足さばきは、アキラほど速くはなくモモほど華麗でもない。ましてベルキラの突進力など、望むべくもない。
私の役割というなら、突撃よりも撹乱だろうか? 敵の目を引き付けたり注意を主砲から逸らしたり。そんな役割が似合っているだろう。
まあ、なんとかたぬきの頭に、ステッキを振りおろすことは出来たのだが………。
稽古を重ねる日々は続き、稽古が終わればディスカッション。その日の稽古の良い点、悪い点を話し合う。もちろん自発的に、稽古のレベルアップについての話題もあがってくる。
「稽古のレベルアップかぁ………。かなり厳しい条件をつけることになるよ?」
「ホロホロ、心配など無用だ。私たちは今、まさに昇り調子なんだぞ」
ベルキラの言葉は勇ましい。が、確かに。今の私たちならばどんな稽古でも、乗り越えられそうな勢いであった。
ドンと来いである。
「そっか………じゃあ悪いんだけどアキラ、ちょっと協力してくれる?」
「?」
「カラフルワンダーに近づいたところで、白兵戦で圧倒できなきゃ意味が無いよね?」
「そうですね」
「だから一対一のガチンコ・スパーリングて、みんなをシゴイてほしいんだ」
なんですとーーっ!