表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
372/506

私たち、ゴリゴリと稽古する


 走れ、走れ、走れ。

 走ることはカラフルワンダー対策の要である。それで実際に走る速度が上がる訳ではない。タイムを縮められることは無い。しかし私たちにとって走り込むことは、大切な裏付けであった。具体的な裏付けではない。ただ、これだけ走り込んだのだから何かができるという、その『何か』の正体もわからぬまま自信の裏付けとして走り込んだ。

 そんな走り込みだがしかし、それなりに効果はある。

「よーし、火の玉改。いくぞーーっ!」

「雷魔法もいくから、ちゃんと避けなさいよーーっ!」

 コリンとタッグを組み、魔法攻撃である。そしてアキラが、これを回避する訓練だ。

 まずはコリンの雷魔法。アキラはこれを発射前から、モーションを盗んで回避。避けたその場所を予測して、私の火の玉改。これも体さばき(ボディーワーク)でかわす。

「私も参加するね♪」

 ホロホロが矢を放ってすぐに風魔法を撃つが、軽くよけられて接近を許してしまう。

 ピッと、鋭い拳。

 すでにアキラは超近距離(クロスレンジ)。簡単に接近を許し、踏み込まれていた私たち。コリンのアゴ先を左アッパーで捕らえられている。

「うん、走り慣れのせいか、余計なことを考えなくても足が動きますね」

 アキラは軽いステップを踏みながら笑う。

「じゃあ次は、モモ。お前の好きなブルースのように、軽快な動きを見せてくれ」

「はい♪ モモ、いきますぅ~~!」

 しゃがみ込んだと思ったら立ち上がり、立ち上がった時には半身を切って火の玉改をかわしている。右半身から左半身。まさしく蝶のように華麗なステップで、魔法をかわしている。

「ふふふっ………これがOh柳勝先生著、七星蟷螂拳入門でおぼえた三才歩ですぅ♪」

 とにかくチョロチョロと動き回るので、魔法の的が絞りきれない。

 ようやく捕らえられそうになった時には………。

「あちょ」

 モモのサイドキックが、コリンの鼻先に伸びていた。

「ふっふ~ん………もう私のことを、ドン臭いとか呼ばせませんよぉ?」

 しかもモモはサイドキックの姿勢で、ピタリと止まっているのだ。間違っても彼女のことを、悪く言うことはできない。

 そして大柄なベルキラも、単純なゴー&バックだけで魔法をかわす。ゴー&バック。これだけでは本当に単純に聞こえるが、前進後退だけではない。右にゴーで左にバックまでやられると、いつどのタイミングで進路を変えるか、まるでわからないのだ。

「それ!」

 遂にはホロホロよりも低い姿勢で弾丸タックル。簡単にバックをとられる始末だ。

 走り込みの効果は絶大と言えた。あるプロレスラーが言っていたのだが、走り込みには速度アップと脚力の強化。持久力の増強に減量効果と、一石二鳥にも三鳥にもなるそうだが。私たちはさらに、集中力や観察力の育成。判断力の強化といった効果も得ていた。

 これらはすべて現実世界では、持久力から来るものだと思う。しかしこのゲーム世界では、ルーチンワークをこなすことで慣れを生み、考えるという作業を省くことに成功していると考えられた。つまり私たちは、止まった状態から敵の魔法攻撃をよけるのと同じように、走りながら敵の魔法攻撃を観察。その上で回避できるようになったのだ。そう、片手で煙草を吸いながら書類作成するよりも、もっと簡単にである。

「それじゃあ次は、範囲魔法をかわしてみようか!」

「ちょっと待ってください、マスター」

 アキラがニコニコと笑っている。

「まだマスターの回避訓練が済んでませんよ? ここはひとつ、マスターの格好いいところを見てから、次の訓練に移りたいなぁ、ボク」

「そうね、アキラ。アタシもアキラの意見に賛成だわ。さ、マミヤ。アタシの雷魔法をかわしてみなさい!」

「コリンも稽古するんだよ? さあ、スタートラインに行った行った♪」

 もちろん私の技量も上がっている。簡単にヒットは許さない。だが………。

「食らえっ! 必殺の礫魔法っ!」

「ベルキラ姐さんナイス! モモさん、左に追い込むからねっ!」

「白血球部隊っ、かかれぇ~~いっ!」

「猪口才だね! だけど風の刃からは逃げられないよ!」

 こらこら、君たちの時よりも一人多いぞ。

「御主人様、お覚悟をっ! 必殺たぬきの置き土産っ!」

 たぬき、おめーもかよ?

 しかし私の足さばきは、アキラほど速くはなくモモほど華麗でもない。ましてベルキラの突進力など、望むべくもない。

 私の役割というなら、突撃よりも撹乱だろうか? 敵の目を引き付けたり注意を主砲(メイン)から逸らしたり。そんな役割が似合っているだろう。

 まあ、なんとかたぬきの頭に、ステッキを振りおろすことは出来たのだが………。


 稽古を重ねる日々は続き、稽古が終わればディスカッション。その日の稽古の良い点、悪い点を話し合う。もちろん自発的に、稽古のレベルアップについての話題もあがってくる。

「稽古のレベルアップかぁ………。かなり厳しい条件をつけることになるよ?」

「ホロホロ、心配など無用だ。私たちは今、まさに昇り調子なんだぞ」

 ベルキラの言葉は勇ましい。が、確かに。今の私たちならばどんな稽古でも、乗り越えられそうな勢いであった。

 ドンと来いである。

「そっか………じゃあ悪いんだけどアキラ、ちょっと協力してくれる?」

「?」

「カラフルワンダーに近づいたところで、白兵戦で圧倒できなきゃ意味が無いよね?」

「そうですね」

「だから一対一のガチンコ・スパーリングて、みんなをシゴイてほしいんだ」

 

 なんですとーーっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ