私、子供たちを寝かしつける
防御魔法、コリンの雷魔法の仕込みが済んだら、やはりまた稽古だ。買ったばかりの魔法は防御範囲が風呂敷程度しかない。網目も粗く魔法がすり抜けそうだ。これをせめてマントサイズ、網目も密に精製したい。
そのためには、『努力と根性』である。
「ってなわけでマミヤ、拠点に帰ったら稽古に付き合いなさいよ」
「それはかまわないんだが、コリン」
「なによ?」
「そろそろ寝る時間だぞ?」
「え? ちょ、なによそれ!」
「仕方ないだろ、あまり学生さんに夜更かしはさせられん」
「いいじゃない、ちょっとくらい!」
「ダメ。若いうちにしっかりたっぷりと、睡眠はとっておきなさい。成長期の睡眠はすごく大切なんだぞ」
二十二時、つまり午後一〇時から午前二時の四時間というのは、回復ホルモンだか成長ホルモンだかが分泌されるゴールデンタイムなのだ。この時間帯に眠っているかどうか? それだけで大人でも、翌日の目覚めや仕事の効率が変わってくるのである。
まして子供のコリン。これから成長し大人になり、やがて妊娠出産という大事業が控えているのだ。あまり無理はさせたくない。というか年若いメンバーの多いマヨウンジャーは、閉店時刻を他よりも早めに設定しているのだ。
私たちはゲームをしている。これはあくまで遊びなのだ。死ぬか生きるかの戦争をしている訳ではない。睡眠時間を削ってまでしなければならない作業ではないのだ。
「たっぷり眠って、稽古は明日。その時はビッシビシしごいてやるから、体調を万全に仕上げて来るんだよ?」
「わかったわ、マミヤも早く寝なさいよね」
「あぁ、おやすみ」
「おやすみなさい」
拠点への道すがら、コリンは落ちていった。
これでマヨウンジャーは全員、鍛えるべき防御魔法を手にしたことになる。
だがしかし、これでカラフルワンダーに勝てるというのだろうか? あの強力な魔法をかいくぐって、目指す急所へと近づけるのか?
足りないのは足りない。
なにが足りないと言えば、すべてが足りない。
だが稽古不足を、開幕の銅鑼は待ってくれないのだ。
では私は何をするべきか?
「少しでも情報が欲しいな」
やはりそれである。
何の情報かというと、ズバリ言うならばカラフルワンダーの弱点である。それがダメなら、魔法特化ギルドの弱点を。それもダメなら、もう何でもいい。とにかく勝つための情報が欲しいのだ。
ではどこに行けば、私の欲するものが手に入るか?
「過去戦を見てみるか?」
正しくは闘技場である。
普通は図書館などに所蔵しているものだろうが、戦闘の記録は闘技場のライブラリーと呼ばれる場所に保管されている。以前、カラフルワンダーの負けた試合の動画を仕入れたのは、実は闘技場だったのだ。
闘技場二階のライブラリーに入り、『戦闘記録 カラフルワンダー』で検索する。やや間があって、カラフルワンダーの記録がズラリと現れた。その動画群の中からランダムに一本チョイスする。それから閲覧記録を確認。私は未見の試合である。しかしホロホロの名前があった。
彼女もまた、ここでカラフルワンダーの研究に励んでいるのだ。
戦闘開始。
まずは斬岩ダインが名乗りをあげた。同時に地面から岩が生えてきて、メンバーを高い位置に押し上げる。対戦相手と高低差がある。なるほどこれは、ナチュラルな防御方法だ。
爆炎が名乗りをあげ、敵陣にボムが落ちた。蒼帝の名乗りで水の塊が落下。春雷のキラが名乗りと同時に落雷魔法を使う。………この時点で敵は全員撤退。
さすがにため息が出る。これが私たちだったらと思うと、憂鬱な気分にしかならない。事実敵チームは、そのまま何もできずにハメに突入。復活と撤退を繰り返すだけだった。
ただこの試合でもカラフルワンダーは、一人一人名乗りをあげて順番に相性よく、魔法を発射していた。
相性の悪い者同士で魔法は使わない。
これは大原則だ。私もアキラの水魔法と一緒に、炎魔法は使わない。というか、アキラはほとんど魔法を使わないので、これまで私の一人舞台であった。
やはり、過去戦を眺めてもヒントは無い。失意のままに席を立とうとすると、声がかかった。
「あ、マミヤさん! 私たちの研究ですか?」
振り向くと、対戦相手の頭目シャルローネさん。
もちろんその通りなのだが、だからこそ余計に罰が悪い。
「実は私もマヨウンジャーの研究なんですよ」
「この時間からかい? 関心しないなぁ」
あまり本気ではないのだが、軽くとがめると彼女は小さく舌を出した。
「もちろんわかってますよ、マミヤさん。この時間帯はいろいろなホルモンが分泌されて、健康にいいんですよね?」
「だったら子供は早く寝なさい。ウチのコリンも、もう寝かせたんだから」
「マミヤさんって、案外古い考え方だよね。ときどき、おじいちゃんと話してる気になっちゃう」
「そんなこと言って就寝時間をひきのばそうったって、そうはいかないぞ。遊ぶときは大いに遊べ。寝るべきときには、ぐっすり眠れだ」
「ブーブー! だからって私を子供扱いは無いんじゃない?」
「いいから寝なさい!」
強く言うと、あっかんべーをしながら、シャルローネさんは消えていった。