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私、お姫さまのお買い物につき合う


 そして何故かお姫さまのお買い物には、私が同伴することになる。


 ほら、なった。

 ということで、コリンとお出掛け。いつものというか最近ではとんと御無沙汰な、例の魔法屋である。

 古ぼけた扉を押して中に入ると、陰気臭いオヤジが私たちを出迎える。

「いらっしゃい………って、久し振りだな」

「お邪魔しますよ………ってゆーか、覚えててくれたんですか?」

「まあな、一度来た客は忘れねーよ」

 一度来た客は忘れないというよりも、あれ以来客が来てないなではないのだろうか? そう思った私は間違っていないと思う。

「今日はなんの用だい?」

「この娘の防御魔法をね、雷系のやつを」

「いろいろあるがどんなのがいいかな? ………ふむ、コイツはもう、近接戦闘用の防御魔法を持ってるみたいだし」

 オヤジはコリンのステータスを確認する。

「対魔法、カラフルワンダーを相手にするんでね」

 オヤジの眉がピクリと動いた。

「………御存知なのですか、カラフルワンダーを?」

「御存知もなにもお前、魔法屋やっててカラフルワンダーを知らない奴ぁ、モグリだろモグリ」

 なるほど、改めてその知名度を知らされる。

「そうなると、対カラフルワンダー用に魔法を購入した人間も………かなり?」

「いた。………だがみんなゲームを辞めちまったよ。あまりにも力量の差がありすぎでな」

 震え上がるような話だ。

 だが、穴のある話だ。

「彼らはかなり高度な魔法を購入したんですか?」

「あぁ、最高級品をな。それでもダメよ。………ってお前さん、何してんでぃ?」

「ちょっと試射場を借りますよ」

 私は土間の試射場に入って、藁人形に火の玉改を撃った。胸の辺りを黒く焦がして、火の玉改は貫通。その向こうに盛られた弾止めの土山に、砂埃をたてる。

「耳をふさいでいてください」

 オヤジに注意。

 今度はボムまがいに圧縮したファイヤー・ボールだ。

 建物を揺るがすようにして、ボムが炸裂する。当然のように、藁人形は木っ端微塵である。

「………基本的な火の玉と、ファイヤー・ボール………だよな?」

「えぇ、初級魔法です」

「よくぞそこまで育てたもんだ」

 私は声をひそめて答える。

「………気合と根性と精神力。もっともこれは、カラフルワンダーからの授かり物ですがね」

「なんでぇ、カラフルワンダー直伝かよ。期待して損しちまったぜ」

 と、口では言っているが、どこか嬉しそうだ。

「だがよ、これだけじゃあカラフルワンダーには勝てないぜ」

 そら見ろ、期待して損した奴が忠告なんてする訳が無い。

 だが私は、役人特有の無表情(スカーフェイス)を保つ。

「心得ています。そのためにも彼女(コリン)の防御魔法と………できればアドバイスなどを」

 オヤジは私の指環を見た。

「魔法増幅の指環か、間違いじゃ無ぇ。いや、それっくらいは当たり前の装備よ。………それとこいつは、たぬきの指環か?」

 そうだ、彼は以前たぬきを称して、魔法だか術だかわからんものを使う、とか言っていた。

「こいつはダークホースだな。使い方次第で、文字通り化けるぜ」

「具体的には?」

「魔法屋を凌駕する非常識集団に、理解不能の塊をぶつけるんだ。俺の手には負えないぜ」

 なるほど、言われてみれば確かに。

「それによ、カラフルワンダーだって人の子よ。神の子なんかじゃ無ぇ。魔法封じは意外と、簡単にできるかも知れないぜ」

 少なくとも道はある。

 オヤジの目は、そう言っていた。

「さあ、それじゃあレディがお待ちかねだ。早速仕事に取っ掛かろうぜ」

 来店したときよりも、ずいぶんとオヤジの機嫌がよくなった気がするのは、私の勘違いだろうか? いやむしろ、瞳が輝いている気がする。


 コリンに与える魔法はいくつかあった。そのひとつひとつを試してみる。

 というと『いかにも』な感じだが、実際はそれほど代わり映えが無い。ネット状の雷が頭上に張られるか前に張られるか、あるいは頭上から前に降りてくるか前から頭上に張られるか。その程度の違いでしかない。

 コリンはすでにレベル6。望めばもっと良い防御魔法を買うこともできるのだが、低級のものばかりチョイスしていた。

「だってその方が魔法と一緒に成長できるから、愛着が湧くじゃない?」

 この言葉には、オヤジも目を細める。

「それにアタシだってマミヤたちみたいに、魔法を成長させて活躍したいわ!」

 なんとも、『種族・人間(ヒューマン)』を越えるような発言だ。コリンの選んだ種族・人間は、どうしても特化した能力の無い、『便利屋』とか『オールラウンドプレイヤー』とかいうポジションに座りやすいのだ。別名『器用貧乏』とも呼ばれる。大器晩成といえば聞こえはいいだろうが、『帯に短し襷に長し』といったマイナス面の表現が似合ってしまう。

 そんな人間(ヒューマン)が同じレベルの魔族や妖精に、魔法で肩を並べようというのは難しい話である。

 しかし魔法屋のオヤジは、小娘のたわごとなどと笑ったりはしない。小さな肩に手を置き、コリンの瞳をのぞき込んで、力強く言う。

「生半可ではないぞ? 人間が他の種族と肩を並べるのは」

「努力と根性よ」

「投げ出したりするんじゃないぞ?」

「そんな気になる時もあるでしょうね。でも………」

 チラリと私を見た。

「大丈夫よ!」

「じゃあ、試してみようか」

 私が魔法を撃ち込む。

 それをコリンが借り物の防御魔法で防ぐ。

 どの魔法も、なかなか器用に使いこなす。

「それだけじゃないぞ。この雷網魔法と、相性がいいんじゃろ。普通は頭上の網を動かすことなど、できないんだからな」

 そう、コリンは頭上に張られる魔法を、自分の意思で自由に操っていたのだ。それも密度の濃い網目に変化させてだ。

「相性なんかじゃないわよ、オヤジさん。これがアタシたちの、努力と根性なのよ」

 魔法屋のオヤジは、これなら一泡吹かせるかもしれんなと、小さく呟いていた。

先日以来急激に多数様の御来場をいただきまして、まことにありがとうございます。日刊ランキングでは最高14位…自分しらべ…を記録したことを報告させていただきます。まことにありがとうございました。

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