私たち、試す
ついに届いた魔法増幅の指環。早速実験だがしかし………。
「誰が試してみるのかな?」
実験体に誰がなるのか? それが問題だ。
「アタシがなるわよ」
「コリンがか?」
「不満そうね、マミヤ」
不満もなにも、この実験は私が魔法を撃って被験者が防御魔法を展開。その効果を調べるものだ。
「だから防御下手のコリンでは、実験データを得られない」
「クッ………」
「もちろん仲間はずれなんかにはしないぞ。最終的には全員に、私の圧縮ボムを防いでもらう。………まあ、コリンはメインイベンターかトリってやつだな」
「コケコッコー?」
「その鶏じゃない。メインイベンターと言っただろ」
ということで、最初の実験はベルキラで。
「まずは通常の火の玉から」
ベルキラは砂を撒き散らして、これを防ぐ実験。
まずは成功。特にどうということはなかった。指環を嵌めていなくても得られる、当たり前の結果だ。
「次は改造版」
いつも私が発射する、ピストル弾のような火の玉だ。これは砂を貫き、ベルキラにダメージを与える。
「マスター、もう一度お願いします。………もしかしたらこの指環、気合や精神力で効果が変わるかもしれません」
「手応えがあったのか?」
私が訊くと、ベルキラは自信ありげにうなずいた。
火の玉改、再び。
ベルキラも砂の防御魔法。今度は砂に見えない濃厚な魔法だ。まるで砂色の壁である。これがチューンと、火の玉改を弾く。
正直に言うと、驚きの成果だ。しかし実験に一喜一憂は無用。心の乱れをおさえて、次の実験に移る。
「では、ファイヤー・ボール」
………………………………。
実験結果。砂の防御魔法で防げたものは、火の玉、火の玉改、通常ファイヤー・ボール。
防げなかったものは、圧縮ファイヤー・ボール。しかしこれは、岩魔法の壁でブロックできた。
「どうでしょう、マスター? マスターも魔法増幅の指環を嵌めている。気合や精神力をいれたら、攻撃魔法の威力が上がるのでは?」
「君のいいたいことはわかるよ、ベルキラ。しかし今は防御魔法主体の実験だ。客観的なデータを採取するのが目的だから、いつもの魔法をいつも通りに使ってみたいね」
続いてアキラの実験。
同じように霧魔法で、通常範囲魔法までは防げたが、圧縮ボムは防げない。少し高度な水柱か水壁でないと貫通してしまう。あるいは、霧魔法でも気合を入れると効果が上がった。
そしてそれは、ホロホロにも同じことが言えた。
「さて、次はモモなんだけど………」
モモと、モモそっくりなチーム白血球が並んでいる。いつものクラシックな看護婦さんスタイルが、本物のモモ。そして西洋風鎧兜に盾まで装備しているのが、白血球という名の防御魔法。
「魔法増幅の指環効果でぇ、白血球も気合が入ってますねぇ~~♪」
白血球の武装を、モモはそのように説明した。
そして気合が入っている分、効果は目を見張るものがあった。
白血球たちは圧縮ボムまで押さえ込んだのだ。
私が火の玉を撃つ。
盾で弾かれる。
火の玉改を撃つ。
これも難なく弾かれる。
ファイヤー・ボールを撃った。
白血球の一人が盾で受けるが、黒焦げになって死亡。
圧縮ボムを撃つ。
盾をかまえてスクラムを組み、モモを爆発から守って、白血球は全滅。
しかし、モモはまったくの無傷であった。
「なかなか有効だな、モモ。以前の右往左往がまったくの別物だよ」
「さすが指環効果ですねぇ。これならもしかするとぉ、白血球を戦闘にも使えるかもしれませんよぉ♪」
繰り返しになるが、今回はあくまで防御の実験。それが済んだらカラフルワンダー対策として、受け流しの練習。戦闘行為に魔法を持ち込むのは、まだ先のことである。
それに………。
金髪おでこのお姫さまが、私の魔法を今か今かと待ち構えているのだ。
メインイベンターのコリンである。ちなみに指環前の稽古では、防御魔法は点数のつけられない有り様だった。
「さ、早くしなさいよマミヤ! アタシの槍はうずいてるんだから!」
ヤル気満々なのはかまわないが、どんなことになるものやら。
私は通常の火の玉を撃つ。
コリンが槍から雷を放つ。
失中。
火の玉改。
失中。
ファイヤー・ボール。
失中。
圧縮ボム。
もちろん失中。
まったくいい所が無い。
「………おのれ、猪口才な」
黒焦げコリンが歯ぎしりした。
「マミヤ! 魔法屋に行くわよ! こうなったら魔法屋で防御魔法を仕入れてやるんだからっ!」
まあ、この場合はその方がいいだろう。
そして何故かお姫さまのお買い物には、私が同伴することになる。