私、指環を手に入れる
しかし問題はまだある。
「必殺の体勢から入れ替わり立ち替わり、次々と攻撃するのはいいんですけど、どうやってちかづきます?」
これは原始的だが、いつの時代でもどのような戦いでも、問題視される点である。
リーチの短い者が、リーチの長い者をいかに制するか?
ホロホロは答える。
「………ひ」
「ひ?」
「左を制する者は、世界を制する」
「その左は、カラフルワンダーの方が長いんです。それも、ストレートみたいに威力がある」
「………あ」
「あ?」
「頭を振って的を散らす」
「範囲魔法を一人一殺で撃たれたら、数秒で全員撤退です。いや、蒼帝に水魔法を使われて水びたしのところに、雷魔法を入れられたら一発ですね」
ん? そういえば合体技に相性があったか。以前ベルキラの砂だか礫だかを、ホロホロの風魔法で加速していたはずだ。
だとすると?
「だとすると、相性の悪い者同士で合体魔法は飛ばさない。………いや、一度に六人全員が、範囲魔法を撃っては来ないな」
「逃げ道があるかもしれませんね、マスター」
ベルキラもまた、何かの答えにたどり着きそうな様子だ。
「逆にぃ、あらゆる魔法と相性のいい人を、最初に倒すのはどうでしょうかぁ?」
おぉ、鋭いぞモモ!
「して、その人物とは!」
「はい! なんでもかんでも風で加速するぅ、緑柳おじいちゃんですぅ♪」
………よりによって、ジャック先生に勝った、あのジジイかよ。一同、ゲッソリである。
「これだけゲッソリな相手なんだから、なんとか避ける手段は無いかしら?」
「コリンちゃん? あのおじいちゃんを避けたらぁ、ますます暴れると思いますよぉ?」
「どうしても相手して、やっつけるしかないってのね………?」
「いや、待て。あのじいさんを相手にしなくて済む可能性もあるぞ」
ベルキラがシリアスな眼差しで、宙を睨む。
私だけではない、みんなの視線が集まった。
重々しく、ベルキラは口を開く。
「カラフルワンダーは全員で七人。六人制の試合では、必ず欠員が出る。その一人が緑柳のじいさんなら………」
「その可能性は、どれくらいだと思う?」
私が訊いた。
「限りなく、ゼロに近いかと」
ベルキラが答える。
「そりゃそうだ。魔法が誰とも相性が良くて、近接戦闘はスゴ腕ときたら、メンバーから外す理由が無い」
「ちょっと待って!」
壁にむかってウンウンうなっていたホロホロが、みんなの輪に加わった。
「カラフルワンダーの欠員が一人出るって、それぞれのケースで作戦を準備するってことっ?」
あんまりかきむしり過ぎて、ホロホロの髪型はボロボロであった。もちろんダジャレではない。
「いやいやホロホロさん、その前に相手のリーチをどうかいくぐるかが問題で………」
「アキラくん? 私はやっぱりぃ、おじいちゃんをどう始末するかが大事だと思いますよぉ?」
「だからそれが困難だって言ってるじゃない!」
ケンケンガクガク、議論はいよいよ白熱していたが、私から言えることはひとつだ。
「とりあえずみんな、拠点に帰ってから話をするか」
すでにお忘れかもしれないが、私たちはまだ闘技場にいたのだ。
で、帰って来たら帰って来たで、今度は全員黙り込んでしまった。カラフルワンダー対策は、まったく行き詰まってしまったのだ。
そんな時である。
ピロリン♪
ベルキラの頭上でチャイムが鳴る。何か届いたらしい。
ウィンドウを開いたベルキラが、画面下のボックスを開いて手を突っ込む。
「………マスター」
「なんだい?」
ベルキラがボックスから抜き出した拳を、私の前で開く。
「………できました。魔法増幅の指環です」
ガタッと椅子を倒したのは、私だけではない。
「ちょっと、アタシにも見せなさいよ!」
「おぉっ! これが魔法増幅の指環ですかぁ!」
「ベルキラベルキラ、はめてくれる? もちろん左手の薬指だよ!」
「………指環をつけて殴るのって、拳に影響しないのかなぁ?」
みんなそれぞれに指環を嵌めたり嵌めてもらったり。指環で大騒ぎできるあたり、やはり女の子なのだなと改めて思う。
「ほらマミヤ、アンタも嵌めてあげるわよ♪」
「あぁ、済まないね………って、指環くらい一人で嵌められるから。というかコリン、手が震えてるぞ。さらに言えば何故に左手の薬指さ?」
「うううウッサイわね! ふふ震えてんのはマミヤじゃない!」
まあ、そういうことにしておけばいらぬ騒ぎにはならないか。
「って、コリン?」
「早くしなさいよ」
「何故に君は左手を差し出しているのかな?」
「だから早くしなさいって言ってるじゃない」
しかも横を向いて真っ赤になってるし。
「マスター? これはコリンちゃん、指環を嵌めて欲しいって言ってるんですよぉ?」
そういうものなのか?
それならば………。
しかし、何故か薬指だけがピコンと浮き上がっている。なかなか器用な指使いだ。
仕方ない、嵌めてやるとするか。
指環を嵌めてやると、今度はガキんちょ丸出しの笑顔を見せてくるし。かと思えば指環をかざして、年頃の娘の顔で眺めている。
まったく年頃の娘というやつは、奇妙な生き物としか言いようがない。
「それじゃあ早速、実験してみるか」
魔法防御がどれだけ有効に働くか、実験である。