私たち、反省する
私とホロホロは敵と魔法合戦。ファイターたちは一対一を演じている。その中で、回復役のモモが単身敵陣へと乗り込んでいた。
「アチョーーッ!」
怪鳥音が響く。黄色地に黒ラインの、モモのヌンチャクが閃いた。敵の回復役は大ダメージだ。
「アチャチャチャチャーーッ!」
ヌンチャクを持っていない左手、そして蹴りで矢継ぎ早に攻撃を仕掛ける。すべて弱攻撃だ。その連打でバイブレーションを起こし、動きを止めたところで強攻撃。ヌンチャクの連打だ。
敵の回復役は風前の灯。しかしアキラが相手をしていた突入部隊の方が、先に撤退。敵回復役は、それに続いた。敵の魔法使いたちは、すでにモモの存在を感知している。しかし私とホロホロに攻撃されていて、なかなかモモにまで手が回らない。
アキラがモモの援軍に入った。敵陣に突入したのである。魔法使いの攻撃を一手に引き受けて、右に左にヒラヒラと魔法攻撃をかわしていた。
その間に回復役を撤退させたモモが、魔法使いに取りついた。
「アチョッ! アチョッ! アチョッ! アーーッ!」
回し蹴り!
後ろ回し蹴り!
さらに回し蹴りっ!
そこからヌンチャクの乱打だ。
アキラも魔法使いをブンブン丸とばかり、強いパンチ一辺倒で殴りつけている。
しかし気になるのは、インターバルを終えた撤退兵が復活することだ。
こんなときにこそ、こいつである。
たまには役に立てよと祈りを込めて、指環を投げ捨てた。
「たぬき、頼むぞ!」
お鍋の兜に座布団の胴。手には四尺杖をかまえて、戦闘モードのたぬきが敵陣に姿を現した。
打って一合、突いて二合。性格の悪さそのままに、復活兵の邪魔をする。
ここでアキラとモモが相手をしていた敵が、いきなり撤退した。
すると二人は敵陣の奥深くに侵入。たぬきを手伝い、復活してきた相手を一方的にブチくらわす。
敵陣に撤退者が目立つ。
それはたぬきとアキラの負担が増す、ということだ。敵を葬ったベルキラが、アキラたちの援護に向かう。そうしなければ、そろそろ復活者の対応がまかなえなくなるからだ。
「みんな、そろそろボテくり祭だよ!」
ホロホロから通信だ。ボテくり祭とは、復活してきた相手を何もさせずにボコボコにするという、非道と言えば非道。しかし確実と言えば確実な戦法である。
ホロホロが走った。
一対一を制したベルキラもゆく。
私はコリンを手伝って敵を撃退。
「いくわよ、マミヤ!」
駆け出したコリンの後を追う。
ボテくり祭はある意味、『ハメ技』という風にも取れる。一度この戦法がとられたら、そこから脱出することは不可能なのだ。まして私たちには、たぬきというジョーカーがいる。敵が全員そろったとしても、数的有利があるのだ。
もちろん結果はパーフェクト勝利。一人の撤退も出さず、一度の回復魔法も無しに勝ちを納めたのである。
しかし、ホロホロの表情は浮かない。
「勝機が生まれるまで我慢した。うん、これは合格点だね。モモちゃんが死角から突入して、敵の隙をついた。これもオッケー。………だけど私は、モモちゃんに隠れたり隙を突いたりって、できなかったなぁ」
それは私も同じだ。
せいぜいが、たぬきを敵の背後に配置できたくらい。それも、たぬきの手柄であるし何よりも、あのタイミングで良かったのかどうか? いやそれは大丈夫。待て待て、本当だろうかと、反省点はある。
それに、コリンとのチームワークはどうだっただろうか? と問われれば、「いつもの私たちでしかありませんでした」と答えるしかできない。
「次の試合は、その辺りを踏まえてファイトしてみよ?」
ということで、二戦目。
今度は私とコリンで入れ替わり立ち替わり、敵の突入部隊の足止めに成功。撤退にまで持ち込んでいる。
しかし時間がかかりすぎだ。魔法の数も、決して多くは撃てていない。まさしく、仕事しやがれ魔法屋の状態であった。
「う~~っ! 上手くいかないなぁっ~~!」
髪をグシャグシャとかき乱して、ホロホロは悶えている。
ちなみに一戦目ほどの圧勝ではないが、二戦目も勝っている。
しかし、勝ったからいいというものではない。対戦相手には申し訳ない言い方をするが、これはカラフルワンダーを想定しての、いわばスパーリングなのだ。きっちりと思った通りの動きができなくてはいけない。
「アキラ、私たちの作戦はボクシングで例えると、どんな感じなのかな?」
小さな拳闘士に訊いてみる。
「典型的なインファイターだと思いますよ」
アキラは答えてくれた。
典型的なインファイター。つまり相手に近づいていって、喧嘩上等の殴り合いをするスタイルだ。
だからといって、野蛮な殴り合いではない。相手の攻撃は、かわすかブロックするか。無傷のまま敵の内懐に入り込み、こちらのパンチは当たる、敵のパンチは当たらない。を実践するテクニックが必要なのだ。
「さらにはフェイントを織り混ぜて敵をコントロール。上手くコーナーに追い詰めて仕上げをするテクニックも必要です」
アキラは続ける。
「ボクシング漫画のデンプシー・ロールって技の中に、拳が術者の体に隠れてどこからパンチが飛んでくるかわからない、って技があるんですけど。ホロホロさんの言ってるテクニックは、これに近いですね」
「じゃあその、デンプシー・ロールを使うタイミングは?」
アキラは答える。
「敵に接近した状態。密着って言ってもいいでしょうね」
「それだぁーーっ!」
ここではじめて、ホロホロ目に光が宿った。