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私、実戦の場へ


 とりあえずこの辺りで、実戦的な稽古を取り入れてみようと思う。稽古とは言っても『対カラフルワンダー』の稽古であり、実戦は実戦。つまり闘技場でこの戦法がどれだけ通じるか? どれだけ通じないか? を確認するのである。

「どんなもんかしらねぇ、実際のところ」

 コリンは不安そうだ。

「案外イケると思うよ、ボクは」

 まだブリーフィングルームにも入っていないのに、アキラは膝屈伸をしていた。

「その根拠は何よ?」

「ん~~拳闘士の勘かな?」

「あてになるのかならないのか、不安な根拠ね」

「ボクの勘の馬鹿にするのかい、コリン?」

「そうじゃないわ。あてになるにはなるでしょ、アキラにとっては。でもアタシたちにとってイケるかどうかは、わかったものじゃないわ」

 なるほど、それは言えるかもしれない。アキラはこの一戦で、満足いく結果を出せるだろう。しかし他のメンバーが、自分で納得できる成果を挙げられるかどうか? それははなはだ疑問である。

「でもコリン、マスターとのペアなら、いい結果が出せるんじゃないの?」

「ちょちょちょちょっと、どういうことよそれ!」

「さあ、どういうことかな?」

 なんだかアキラの笑みがいやらしい。普段はこんな表情を見せる娘ではないのに。

「そういうアキラこそ、しっかりベルキラの背中に隠れなさいよ! 勝敗の鍵を握ってるのは、アンタなんだからね!」

 わかってるよと、アキラは軽くステップを踏む。そして左右の足の前後を入れ換える、シャッフルという足捌きを見せた。軽くて速い足捌きだ。今日もアキラは絶好調である。

「みんなのための突破口は、必ずボクが開くから………」

 デトロイト・スタイルに構えて、細かく頭を左右に振る。

「だからみんな、傷口を広げる役はまかせたよ」

 敵の死角、下から鞭のように伸びてくるフリッカー・ジャブが、キレている。

 どうやら今回の対戦相手は、この小さな隼に悩まされることになりそうだ。


 ブリーフィングルームへ通された。いよいよ私たちの出番である。

 いつものように対戦相手のメンバー表が掲示されていた。

「魔法使いが三人、アタッカーの剣士が二人。それに(タンク)のドワーフが一人か」

 おそらくは長距離砲で崩して、白兵戦部隊が乗り込んでくる。私たちとそっくりな編制だ。魔法使いの中のひとりは、回復役と見ていいだろう。

「ウチの回復役(ヒーラー)は戦闘もできるから、敵さんも面食らうわね」

 キシシと奇妙な笑い声をあげるのは、コリンである。ブリーフィングルームの空気が、彼女をリラックスさせたのだろう。

「だからこそ、油断大敵。しっかりと力の差を見せつけないとね」

 ホロホロの口元は、硬い。

「それじゃあみんな、序盤は散開。私とマスターの攻撃が効いてきたら、ペアを組んで突入だよ」

 それまで絶対に焦らないこと。これは厳命である。

 開幕一〇秒前。

 私たちは試合場にインする。

「それぞれの進路を邪魔しないようにね」

 ホロホロから注意が飛ぶ。

 アキラとベルキラはセンター方向。もちろん二人並んでではない。ズレて走る。私とコリンは右方向。ホロホロとモモはレフトである。

 開幕の銅鑼が鳴った。

「散開っ!」

 ホロホロの号令で、全員散り散りに走る。これはカラフルワンダーの開幕爆撃を想定した、回避手段であった。どれだけ標的を散らせるか? そこかポイントである。

 走りながら、敵陣を確認。先制打を浴びせるべき魔法使いたちの様子を見る。まだ魔法を撃ってくる気配は無い。というか、ねらいを絞りかねているのだろう。思うツボである。

 が、視線鼻の向きがやはりベルキラ・アキラ方向で止まった。

「センター、バック!」

 ホロホロも同じものを見ていた。ねらわれた二人に指示を出す。センターの二人は急停止、いま来た方角を戻り始める。急停止から方向転換、さらに再加速。センターペアの動きが鈍い。当然魔法使いたちの視線は、二人に集中した。

 私は足を止めた。敵の魔法使いをねらい、火の玉改を発射する。チラリと見ると、ホロホロも魔法を発射していた。

 私たちの魔法は、敵の魔法使いにクリーンヒット。準備していた魔法を御破算(ごわさん)にする。

 そして私は再び火の玉改を準備。元が弱魔法なので、魔力の備蓄には余裕がある。もう一丁、火の玉改を撃ってやろうかというところだ。

 しかし敵の突入部隊三人が、私ひとりへと進路を変えた。

 ふむ、まずは魔法使いをひとり潰す戦法か。それならば………。

「センター! マスターの護衛を!」

 私が行動する前に、ホロホロの指示が飛んだ。アキラとベルキラが、私目掛けて進路を変える。しかし、間に合わないだろうなぁ。二人の距離は私から、少々離れ過ぎている。

 ではどうするか?

 私をかばうように、コリンが前に出た。敵が三人に対してだ。ならば私は、三人の中で後続する二人を足止めするべきだろう。幸い敵の三人は横移動を強いられているので、私たちから見ると縦一列の状態である。

 だから真ん中の一人に、火の玉改をスマッシュ。これで少し分がよくなる。そして最後尾だった敵に、ホロホロからの一発。かなり分が良くなる。私とコリンの二人掛かりで、先頭の敵に当たれるからだ。

 仕事しやがれ、魔法屋っ!

 そんな声が敵の突入部隊から聞こえてきそうだ。

 仕事しやがれ魔法屋、というのは、最近関連掲示板から仕入れた言葉である。魔法使いの援護が足りない時、呪文詠唱に魔法使いがモタついている時に使われるものらしい。ちなみに突入部隊が躊躇して突撃のタイミングを逸した場合は、「稼いで来いや、ニワトリ野郎」という罵声が定番となっているらしい。

 しかし、敵の魔法使いが仕事をしてない訳ではない。ホロホロにやり込められているのだ。魔力を充填している間、ホロホロには弓矢がある。敵からすればイヤラシイ飛び道具で、魔法使いは翻弄されているのだ。

 魔法支援のない敵の突入部隊は、現在バラバラ。先頭の敵はコリンが対応。最後尾の敵はすでにアキラに捕まっていた。

 そのアキラが巧い。捕まえた敵に固執せず、ベルキラにまかせて走り出したのだ。真ん中の敵に襲いかかるつもりなのだろう。そうすると突入部隊は、一対一の闘いが三組。

 わかりやすく言うと、ホロホロの弓矢攻撃に私の飛び道具が加わったのだ。さらに言うと、『闘う回復役(ヒーラー)』のモモが、敵の死角からテコテコと敵陣に近づいている。

 じっくり慌てず、好機を拵える。

 今回のテーマである。

 そして敵の意識の外側から攻めるという、初級隠蔽術の実践でもあった。

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