私、とても懐かしいものを見る
さて、肝心要の肉弾戦である。我々がカラフルワンダーと雌雄を決するにおいて、決戦兵器となるとやはり肉弾戦をおいて他には無い。
「緑柳のじいちゃんは、どうにかしたいですねぇ」
アキラはシリアスな顔で言った。
「それだけじゃないぞ、アキラ。実はシャルローネさんも、あれでなかなかの使い手だ」
本命が緑柳のじいちゃんだとすれば、対抗はシャルローネさんであることを、私が指摘する。
「だとすれば、穴馬は誰になる? ………爆炎の二丁斧だろうか?」
ベルキラも腕を組んでいた。
アキラとベルキラは、カラフルワンダーの白兵戦要員たちとガッチンコでぶつかり合うのだ。やはり敵情は気にかかるところだろう。だがしかし、あまり使っているところを見たことはないが、斬岩もトンファーを腰に帯びているし、春雷キラのレイピアも気になるところだ。
「わかっちゃいたけど、簡単には勝たせてくれない相手よねぇ」
コリンがため息をつく。
「それでも調べてみると、カラフルワンダーって黒星の数は少なくないんだよね。………むしろ私たちの方が、勝率はいいみたい」
「こんな無敵超人のアストロ集団がですかぁ? 信じられませんねぇ」
ホロホロの開いたウィンドウを、モモがのぞき込んでいる。
実はその数字、先日私もホロホロから知らされていたのだ。私たちマヨウンジャーの勝率を六割とすれば、カラフルワンダーの勝率は五割を越える程度なのだ。
その時ホロホロに言った言葉を、モモにも伝える。
「私たちの勝率は、陸奥屋で鍛えられカラフルワンダーの魔法講習で磨かれた、最近一ヶ月のものだ。同じ時期カラフルワンダーは、私たちの対戦相手よりもはるかに高いクラスのチームとばかり、対戦していたんだ。単純な比較はできないよ?」
「だけどマスター、決して見逃せない数字ではありますよ? 第一、カラフルワンダーが負けるイメージすら、ボクにはありませんから」
「そう言うと思って、実は資料を用意してきたんだ。………上位チームとの対戦ではあるけど、カラフルワンダーが敗北する一戦だ」
ホロホロのウィンドウに動画資料を読み込ませ、いざ視聴開始。
観戦モードなので、動画の出だしはあれこれと演出が施されている。試合開始まで、少々手間がかかるのだ。
「対戦相手は………ずいぶんと濃い集団だね。ドワーフの男衆六人組だよ」
「魔法特化チームと、白兵戦特化集団の闘いになるかな?」
「チーム名が………ドワーフ白浪六人男か。………得物は戦斧に槍に薙刀、パワー系の得物が多いですね」
「ごめん、マミヤ。アタシもうお腹一杯で、明日の朝食はのどを通らないわ」
「見ているだけでぇ、胸焼けしてきますもんねぇ~~♪」
モモがあやしい胃腸薬をコリンに渡していた。
その濃い集団との対決だが………。
まずは緑柳のじいちゃんが動いた。
「風になれ緑よ谷〇浩子! ねこの森には帰れない! 翠嵐の伯士、緑柳っ!」
キレッキレの動きである。
まったく年甲斐のない決めポーズであった。
しかし私の目はごまかせない。
一見バルシャークのポーズに見えるかもしれないが、あれは破李拳竜の名作『撃殺! 宇宙拳』でヒロイン李燕雲が使う『銀河昇龍の型』である。あのジイさん、歳の割りにはなかなかの通である。
が、うちの娘っ子どもはこの動きが琴線に触れないのか。はたまた戦隊物風味な動きに馴染みがないのか。ただポカンと口を開けているだけだった。まあ、人生に深い年輪を刻むというには、まだまだ年若いのだから、仕方ないと言えば仕方ない。
しかし何よりも心憎いのは、ポーズを決めたところで魔法を使い、背後に爆発のような演出を入れているあたりだ。
とまあ、この辺りでひとつネタを逆戻り。名乗りの段階で〇山浩子の名前と、その代表曲のタイトルを入れるところが、またあなどれない。刻んだ年輪は伊達で無し。正しく、老人あなどりがたし、というところだ。
「堅固な守りは鉄をも挫く!」
今度は斬岩くんか………。この動きは『手探りの中から生み出した』とか、『試行錯誤』を重ねたとかいう黎明期のものではないな。すでに先人たちが足跡を刻み、その上に築き上げた動きに見えるので、比較的最近の戦隊物。そう、二十一世紀に突入してからのものだろう。
「斬岩の大牙、ダイン!」
ここでも無理矢理岩石を生やし、爆発同様の派手な演出を決めてくれる。
他のメンバーたちも名乗りをあげては、爆発の演出で盛り上げてくれていた。中でもシャルローネさんはどこで覚えてきたのか、バトルフランスのアクションで名乗りをあげてくれるという、相変わらずの『おっさんホイホイ』をカマシてくれていた。
「感涙、熱くむせんでいるところ悪いんだけどね、マスター?」
「いや、泣いてはいない。泣いてなんかいないぞ、ホロホロ」
「うん、どっちでもいい。だけどね、マスター。カラフルワンダーがいらないことしてる間に、ドワーフの白浪六人組がみるみる接近してるんだけど………」
うん、そうだねホロホロ。君は軍師だから負けないという点にこだわりを持つ。こだわりにこだわり抜く姿勢を堅持しているのはわかる。
「だがな、ホロホロ」
君が軍師としての信念を持ち、この一件にもの申すならば。
私は私の信念をもって反論させていただこう! あどけなさの残るその耳をかっぽじって、よく聴くがいい!
「だがな、ホロホロ。………カラフルワンダーはまだ、チームとしての名乗りとポーズを決めてないんだっ!」
画面の中でシャルローネさんたちは、いよいよカラフルワンダーとしての名乗りをあげる。
『魔法の叡知は我らが光!』
さあ、来るぞ………来るぞ………!
『魔道繚乱!! カラフルワンダーっ! あーーっ!』
ドワーフの群れに、カラフルワンダーが呑まれた。戦斧や薙刀が主武器と言ったが、ドワーフたちは原始人の持つイボイボ棍棒を使う者までいた。
「ちょ………なによあんたたち! まだ名乗りの途中プゥ………」
「シャルローネがやられたぞ! メディック!! メディーーック!」
「あっはっはっ♪ あかりんあかりん! 実はここで必要とされる紫ンは、もうライフが風前のともし………しぇげなべいべーーっ!」
世にも珍しい光景だ。
魔法をもってして無敵を誇るカラフルワンダーが、蹂躙劇のやられ役に堕ちているのだ。
本来ならば魔法を駆使して、なにもかも薙ぎ払うというのに。
まあ、名乗りに命を賭けているなら、仕方ないことなのだが………。
そうだ、一騎当千というならば、ジイさんはどうした! みんな、ジイさんを捜せ!
カラフルワンダー最強と目される老人は、斬岩の生やした岩の上で、バルパンサーのポーズを決めるのみであった。
魔の六分間。
カラフルワンダーは、面白いくらいのワンサイドゲームで敗北した。