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実録 北海道大停電

いよいよ市民の生活を苦しめる災害。断水へと突入します。


 給油を終えるとすぐさま手近なマーケットへ。………入れない! 満車である。ならば橋を渡り、近場のマーケットは?

 大型マーケットはダメだと判断し、小型の店舗を目指す。こちらは入店可能。車を停めて、早速店内へ。

 しかし、店内は賑わい込み合っているものの、客同士殺気立った気配は無い。通常の日曜日のような雰囲気である。だがすれ違う客の買い物カゴをのぞいてみると、インスタント物が目立っていた。

 これから断水になるんじゃないのか?

 インスタント物が役に立つのか?

 疑問はあったが、まずは自分の買い物である。

 まず目についたのは、ナビスコ社のリッツである。いわゆるクラッカーだ。そのままで良し、トッピングして良しの優れものである。これを二箱。

 しかし別の客の買い物カゴに、乾パンに似たビスケットの姿が………。

 ビスケットはすぐに見つからなかったので、リッツを二箱確保していた。だがビスケットがあるのなら………あった! すぐさまリッツを一箱、商品棚に戻す。買いすぎ買い貯めは、よくない。東日本大震災の折には、被災地でもないのにカップ麺を何箱も買い貯めするという恥ずかしい輩も現れたようだが、一人が過剰な行動をしては周囲が動揺するのである。

 現にこの時、買い物カゴが一杯の客がいても、『同じ商品を独り占め』するような客は、一人もいなかった。

 そしてこの時、目に入ったのは鮮魚コーナーである。

 普通に考えた。

 誰も魚を買わなかったら、廃棄されるんだろうな………。

 なんともったいないと感じながら、投げ売り価格になっている訳でもないので、魚は諦めることにした。後日確認………というか翌日。マーケットは『いつも通り』の営業で、『当たり前』に鮮魚販売をしていたので、魚不足というのはまったくなかったようである。

 だが俺の中ではまだ、断水を控えた予断を許さぬ状況であった。そして年老いた両親が待つ自宅へと、まだ帰っていないのである。

 退き引きならぬ待ったなしの状況で、飲料水としてペットボトル2リットルの緑茶も購入。

 これで買い物は良いか?

 しかし、商品棚にカップ麺が並んでいた。ビッグサイズだ。

 時刻はまだ十一時前。こいつを平らげて電気ポットに給水しておけば、もう怖いものは無い。ということで購入。しかも二つ。

 買い物を済ませた俺は車に乗り込み、ようやく帰宅する。

 実を言うと我が家の近所には、ガソリンスタンドがある。そして我が家の区域には、すでに電気が通っていた。つまり裏道に長蛇の列、給油待ちの列ができていたりした。中には「ツールド北海道」の選手団らしき車両も見える。そう、道外からのお客さま、海外からのお客さまもすべて、今回の大停電に被災しているのだ。

 給油待ちの列を、「ちょっと失礼」と横断させていただき、ようやく帰宅。

 とりあえず風呂場の湯船、漬物樽、ペットボトルに水を蓄えてある。万全だ。俺がガキの頃、両親がいまの俺よりも若い頃、なにかというと断水があったように記憶している。とりあえずそのノウハウがあったのだろう。対策は完璧だ。

 居間に入るとソファの両親は、「暑いねぇ」とばかり呑気に涼んでいた。

「テレビはどうした、今えらいことになってるぞ」

 叱るように言う。

 繰り返しになるが、もう一度言わせてもらう。


 通勤の必要がなくなった老人は、情報難民になる可能性が高い。災害の際には両親親戚ご近所、必ず声をかけてやっていただきたい。もうすでに各自治体が取り組んでいるはずだが、デジタルではないアナログによるアラートの普及と、より積極的な活用に取り組むべきだと感じる。

 激しく被災されたみなさんを軽視するものではないが、災害はこのように見えない形でコッソリとそこにいる場合もある。どこで何があるか分からない。あるいは全員救助を建前としている以上、このような『災害の芽』は早目に摘んでおくことを推奨したい。少なくとも今回のエピソードをお読みいただいている読者のみなさま方には、このようなことで親族の方々を失うようなことのないよう、頭の片隅にでも留めておいていただきたい。災害というものは、一人一人の心掛けで必ず小さくすることができる。少なくとも俺は今回、そのように感じた。


 ドグラの国のマグラの森、チームメイトの楓さんに、いま一度状況を報告。

 現在帰宅。断水の備えと非常食の確保を知らせた。安心してもらうためにも、写メでわざとカップ麺ビッグサイズを二つ写しての送信。

 すると返信。テレビで収集した情報を知らせてくれた。ここでも繰り返し言おう。俺もまたこの午前十一時前まで、全体の情報がほとんどなかったのである。そして会社でようやく仕入れたのが、断水の情報であった。これだけしか情報がなかったのである。


 まずはテレビで情報収集。現場や会社で仕入れたものと、ほとんどかわらぬ情報ばかり。しかし、断水の予告などは入ってこない。

 ネットで水道局へアクセス。

 断水予告は出ていない。

 情報提供が間に合っていないのか? あるいは更新できない状態にあるのか? 俺はこの時点で、『必ず断水が来る』と盲信していた。情報に対する疑い、あるいはソースに疑いを持っていなかった。

 なので母を通じて、姉に安否確認。そしてあろうことか、『情報の確認もしていないのに、姉に断水情報を流した』のである。小規模ではあるが、デマの発生である。デマというのはこうした形で発生するのだ。

 事実姉は勤務中。それをフケてまで一時帰宅。貯水に励んでいたそうなのだが、この時の姉の一言が俺にかかった魔法を解く。

「いつまで断水なの?」

 そう、それが肝心なところである。そもそも誰が断水の情報を流したのか? その確認すらせず、情報に踊らされていたのである。

 十四時、つまり午後二時。いよいよ断水開始である。

 確認のため。十四時五分に蛇口を開けた。



 水が出たで御座るよ。

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