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私、濡れ衣を着せられる


 稽古の日々は続く。

 とは言っても、私たちとて戦闘機械ではない。街へ繰り出したり、息抜きをいたりもする。

 ということで、ご存知茶房『葵』である。このゲーム世界には茶房『葵』しか無いのか? と思われる方もいらっしゃろうが、しかし。今回はお招きに預かったのであって、私がチョイスした場所ではない。

 そう、私は招かれたのだ。

 それも、これから戦う敵将シャルローネさんに。

 まあ、現在は敵同士ではあるが憎み合っているわけではなし。両陣営はキッチリと同盟まで結んでいる。二人で茶のひとつもシバイたところで、何も問題は無い。無いのだが、しかし………。

「………シャルローネさん?」

「なんでしょう?」

 視線が痛い。

「何故にシャルローネさんは九〇年代のマンガのような眼差しで、私をジットリと睨んでいるのでしょう?」

「そんな目、してます?」

 してます。

 しているから言っているのだ。

 私はうなずいた。

「そんな目で睨まれることに、マミヤさんは心当たりありませんか?」

 心当たり?

 これは意外な言葉だった。私に何か否でもあるというのか? いや、そう言っているのだろう。だがしかし、私は公務員。しかも係長とはいえ役職を持ち、部下もいる身。こういう言い方もなんだが、穴の無い行動をとることには長けている。品行方正を心がけ、他人から非難されない生き方をするのは、もはや達人と呼ばれても差し支えないはずだ。大変に申し訳ない物言いになるが、たかだか女子高生………と思われるシャルローネさんごときに、足元をすくわれる私ではない。

「さて、とんと身におぼえがございませんが」

 私は首をひねった。

 我ながら御白州ですっとぼける、時代劇の悪人のようだと感じてしまう。

「そうですか、身におぼえがありませんか………」

 クリクリしているはずのシャルローネさんの瞳が、刃のようにスゥっと細められて、彼女はポツリと言った。

「………コリンちゃん」

「コリンが、どうかしましたか?」

「すっとぼけるのも大概にしねぇかいっ! マミヤさんの悪事は、お月さまがしっかり拝んでんでいっ!」

 おぉっ! 桜吹雪か印籠か、はたまた『上さま』の御尊顔が飛び出すのか、と言った雰囲気だ。

「夜な夜な幼い娘っ子をたらし込んでこともあろうか役人が、いかがわしい行為にふけってイチャイチャらぶらぶと、これをどう申し開きするってンでいっ!」

 夜な夜な幼い娘と?

 いかがわしい行為?

 イチャイチャらぶらぶと?

「………確かにお奉行さま、最近コリンの奴めが夜更かしして、最後までオチずに私と話し込んではおりますが、それが何か?」

「何かって、マミヤさんともあろう人がそんな条例に触れるようなこと…………って、話し込む?」

「あぁ、私も軽く咎めてはいるのだけど、なかなか言うことをきかなくてね。………反抗期なんだろうか?」

 ようやく奉行と罪人の立場が解消されて、いつもの私たちの関係にもどる。

「それじゃあマミヤさん、コリンちゃんの手を握ったりハグしたりとかは………」

「ひっ(ぱた)かれるでしょうな、コリンに」

「だけどコリンちゃん、最近ちょっと大人びて来たというか、ため息まじりで窓の外を眺めたりとか、何ナニ? なにかあったの? って雰囲気で」

「もしかすると虫歯が痛むとかの類いだとはおもいますが、それら一連の行動がが私のいかがわしい行為と、どう結びつくのでしょう?」

 咎める訳ではないが、誤解を解く必要はある。ここは少し、厳しく問う。

 すると、なるほど納得な返事が。

「いや、忍者さんが………」

「なるほど、忍者情報でしたか。それならシャルローネさんも騙されるはずだ」

「………騙される?」

「そう、あの忍者は人の心の隙を突いて、意のままに操る術に長けています。おそらくシャルローネさんも、隙を突かれたのでしょう」

 あえて『担がれた』という表現は避ける。

「でもでもマミヤさん、コリンちゃんってば恋の話を持ちかけて来たり、この間なんて『シャルローネさんって、男の子とお付き合いしたことがあるの?』なんて………」

「そりゃあシャルローネさんの恋愛事情はマセた子供の興味の対象でしょうが、コリンの奴は忍者に担がれているのかもしれませんねぇ」

 ここでは容赦なく、『担がれた』という表現を使ってやる。

「少女期の不安定な心につけこみ、人心を撹乱する。………まったく、太い忍者です」

 すると、シャルローネさんは目をパチクリ。まるで忍者の術からさめたようだ。

「そうですよね、マミヤさん! 私、マミヤさんがそんないかがわしいことするわけないって、最初から信じてました!」

 いや、シャルローネさん。目覚めすぎでしょ。つーか、ものすごい手のひらの返し方ですなぁ。

「うんうん、どうも疑わしい話だなぁとは私も思ってたんですよ。真面目なマミヤさんがいたいけな女の子をたぶらかすなんて、そんなことある訳ないってわかってましたよ」

 まあ、手のひらを返されたことは不問に伏すとしよう。人間誰しも間違いはあるものだ。ましてそこに忍者がからんでいれば、である。

「で、シャルローネさん。今日の御用はその件で?」

「あ、はい。一応確認のためと思いまして」

 あれこれ辻褄が合わないような気がするが、それもまた問うてはいけない。何故なら相手は『女の子』という種族。いらぬ刺激をすればすぐにヘソを曲げる生き物なのだ。

「それではシャルローネさん、私はこれで中座させていただきます。ちょっとばかし野暮用ができましたのでね」

「………野暮用………ですか?」

「えぇ、陸奥屋本店の方へ」

 今回の一件を鬼将軍の美人秘書、御剣かなめに報告するためだ。忍者はあの美人秘書には頭が上がらない。そして美人秘書は常に、忍者をシメる口実をさがしている。

 彼女の需要と私の供給。ギブアンドテイクは成立している。

 あとは忍者がシメられるのを待つだけだ。

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