私たち、防御魔法を得る
さあ、大車輪の稽古が始まる。まずは隠蔽の基礎となる忍者の指導。そしてシャドウを始めとした魔法部隊の攻撃を受け切る、防御魔法の稽古。いつものジャック道場の稽古に、私たちなりの隠蔽訓練。とにかく目まぐるしく時は過ぎる。
ここでひとつ、メモのように記載しておくならば、コリンとモモは防御魔法があまり上手ではなかった。コリンの雷撃系魔法は弾幕を形成しづらく、モモにいたっては弾幕を形成する素材が無いのである。つまり私の炭火魔法、火の粉のような弾幕を形成し、敵の魔法を迎え撃つという真似が、できないのである。
「む~~………愛と平和の回復役に、防御魔法が作りだせないとは………無念ですぅ………」
モモはがっくりとうなだれるが、たぬきがいらなく励ましていた。
「大丈夫ですよ、モモさん。いざとなったら白血球や血小板を擬人化して………」
だからやめろと言うのに。
「ですがマスター、それってできない魔法ですかねぇ?」
アキラが変なところに興味を示す。
「コリンの迎撃魔法が未熟なのは仕方ないとしても、回復役がやられっ放しってことは無いんじゃないかと」
「確かにアキラの言う通りだ。しかしそれならばすでに、カラフルワンダーの紫さんが惜しむことなく披露してないかな?」
「そこは盲点かもしれないよ、マスター」
今度はホロホロだ。
「確かにカラフルワンダーは魔法の専門家、プロフェッショナル。だけど彼らがすべての魔法を網羅して、天才的に使いこなせるかどうか? それは本人たちにもわからないかもね」
なんとも雲を掴むような話というか、博打の過ぎる想定というか。あまりアテにしてはならない『架空の話』というか。
「しかしホロホロ、少なくとも私たちは魔法において、カラフルワンダーの足元にも及んでないんだ。ここは一発、魔法なんか捨てて私の戦斧とアキラの拳に賭けてだな………」
「ベルキラ、貴女たち二人の突撃を活かすために、魔法の援護と防御は必須なの。二人は本当に私たちの切り札なんだから」
「こうなるとアレよねぇ、一度みんなで図書館にこもって、先人の知恵にすがるしかないわよね」
コリンの言葉に、一同おぉと感嘆の声をあげた。
お互いに顔を見合わせる。
「善は急げですね」
「早速行ってみよっか」
ということで、私たちは徒党を組んで図書館へ。
三人寄れば文殊の知恵。というのは用法が間違っている。だがしかし、人海戦術というのは正解だった。
面白いものが見つかったのである。
「魔法増幅の指環?」
「ハイぃ! これなんていかがかと思いましてぇ………」
モモの話ではこの指環をはめて迎撃魔法を使えば、かなりの効果が見込めるのではないかということだ。
「確かシャルローネさんが厳冬期イベントで、敵の魔法を片手で叩き落としていたが………」
それとは別物なのか?
いや、例え別物だとしても私たちからすれば、カラフルワンダーと闘う私たちとしては、のどから手が出るほど欲しいアイテムである。
「これは、全員分欲しいね。………ベルキラ、造れる?」
「クラフトギルドに依頼すれば。………あとはこんなアイテムが出回らないように、口止め料を払っておけば」
ということで、早速依頼。私たちはあまり買い物をしないので、ゲーム内通貨はため込んでいた。出費に問題は無い。
続いて見つかったのが、防御魔法のコツである。
実は決戦番長のベルキラが、防御魔法に長けていることが判明したのだ。
「どういうことだい?」
「簡単に説明するとね、初級では土埃、中級では砂の弾幕を張れるから、案外役に立つって話なんだよね。ついでに言うと岩を生やして盾にしたり、陣地を形成したりと。これまた使い勝手の良さは随一だとか」
ホロホロが説明してくれるのだが、もっと訊いてもっと訊いてという顔をしている。
仕方ない、リクエストに答えてやろう。
「他に何か面白そうな話はないかな?」
「よくぞ訊いてくれました! 実は風系魔法はほとんどの魔法と相性がよくて、みんなの魔法効果をアップすることができるの!」
うん、たしか以前ベルキラの砂か礫を風にのせて、パワーアップさせていたね。
「アタシの雷は風にのせられないわよ?」
コリンは口を尖らせる。
「コリンの雷魔法はねぇ、風で摩擦して威力を高めるってあるから、大丈夫! アップアップだよ♪」
これにはコリンも満足顔である。
そして肝心の、回復役の防御魔法だが………。
読まなきゃよかった。
やっぱり擬人化するみたいだ………。
まあ、それはそれとしてだ。
「とにかくコリン以外はこれで、防御魔法の目処がついた。カラフルワンダー相手にどこまで通じるかわからないが、それでも手段が無いよりはよっぽどマシだ。拠点の道場に帰って稽古しようか」
私は炭火魔法。つまり頭上に火の粉を撒き散らし、防御のための弾幕とする。
アキラはミスト、すなわち霧。同じく敵の魔法を防ぐ弾幕だ。
ホロホロの風も弾幕ではないが、敵の魔法を偏光のようにネジ曲げる。
そしてベルキラだ。
「マスター」
「なにかな?」
自信満々の表情に、嫌な予感が湧き出てしまう。
「こんなこともあろうかと、私はひそかに防御魔法を研究していたんだ」
「嘘つけ、さっき図書館で知って思いついただけだろ」
突っ込んではみたが、ロリコン・ドワーフにたじろぐところは無い。それどころか青い矢印の入ったツナギに着替えて、これまた赤い矢印の入ったツナギ姿のホロホロに問いかける。
「古代、準備はいいか?」
「大丈夫です、真田さん!」
古代って誰よ?
真田さんって誰さ?
真田さんってもしかすると、G1クライマックス。今年の夏イベントでライヤー夫人に対して忍者がホザいた、あの真田さんのことだろうか?
だがそんな私の思惑をよそに、ベルキラは防御魔法を発動した。
「どうだマスター! これがドワーフの土系防御魔法! アステロイド・ベルトだっ!」
ベルキラを中心にひらめく、天の羽衣のごとし。石に土塊岩の欠片が、丸く円を描いて流れ飛び始めた。それはもう、一作のアニメーションを代表するような光景であり、この場面を眺めただけでスポンサーがウハウハ集まりそうな場面であった。
「………って、ンな訳あるかーーっ! ベルキラ、お前いつから宇宙戦艦ヤ〇トになったよ! つーかスポンサーとか生々しい話ヤメいっ!」
「ダメだってさ、ベルキラ」
「折角練習したのにな」
お前ら本当に、事前のネタ合わせしてたのかよ。
「ですがマスター? 版権はアウトかもしれませんがぁ、これだけ滑らかに土を操れるのはぁ、ベルキラ姐さんの特質ですよぉ?」
うん、だがモモ。問題は著作権とデザインの権利に関わる版権なんだ。そこがクリアされてないと、オジサン何も許したくないかなぁ?
「大丈夫ですよぉ、技の名前と技の表現方法をいじれば、あら不思議。別な技に早変わりですからぁ」
「具体的にどんな名前に変えるのかな?」
「ジャコビニ流星………」
「却下だ! 却下っ!」
迷走戦隊マヨウンジャー。今まさに、迷走している最中である。