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私、挑戦の意思を表明する


 私たちは打倒カラフルワンダーという大目標にむかい、いよいよ本格的に燃え上がっていた。

 それは誰にも語らず、誰にも知られることなく、ひそかに燃やしている闘志であった。

 しかし、気付く者は気付くのだろう。わかる者には知られてしまうものらしい。

 カラフルワンダー主催、魔法講座に出席した時のことである。

「………ふむ」

 陸奥屋一党総裁鬼将軍が、私たちの顔をみるなり、ひとつ唸った。

「………同志マミヤ」

「なんでしょう?」

 やつは私から目を離さず、まばたきもせずに言った。

「いよいよ渡るのかね? ルビコンの河を………」

 ルビコンの河。

 その流れは急であり、また深い。故に一度渡りはじめたら引き返すことはできないとされる河である。つまり、断固とした決意をもって挑むという比喩として、用いられる河なのだ。

 私はうなずいた。

 背後に立つ若者たちも、強固な意志を気配にかえて私を支えてくれている。

 その意気や、よし!

 いつもの総裁節が飛び出した。

 何事かと陸奥屋の仲間たちが集まってくる。

「いよいよやるのか、マミヤさん!」

「決行だ! マヨウンジャーが決行するぞ!」

「負けるんじゃねーぞ、若造ども!」

 私たちを取り囲み、手荒で口汚い声援を送ってくれる。

 そして私の目は、彼女に止まった。

 魔道繚乱カラフルワンダー主、シャルローネである。

「………といった次第です。受けていただけますか、私たちの挑戦を」

 私はまっすぐに彼女を見た。

 魔道に青春を捧げた乙女は期待の眼差しを私に向け、不安に(おもて)を伏せ、胸の前で小さな握り拳を作ってささやいた。

「受けていただけますかもなにも、私たちは最初から戦うために出逢ってるんですから………」

 彼女たちと語らい、ともに歩んだ日々が脳裡を駆けめぐる。

 はじめて出逢ったときのことが、ついさっきのことのように思い出された。しかし膨大な『積み重ねられた日々』が、それをすぐに遠い過去へと押し流す。

「そうなると魔法講座も、今日でおしまいですね」

「感謝しています。大変、実になりました」

「魔法講座が終わったら、敵同士ですよ?」

「往く雲は流れるものであって、とどまるものではありません」

「………風雲、まさに急を告げるか」

 少しだけ、さびしそうな横顔。

 翁が前に出た。

 こちらからはジャック先生が出る。

「では実務的な話になるが、日時と場所を取り決めるかのぉ?」

「マミヤさん、どうする?」

 ジャック先生が確認の目を向けてきた。

 私は一度振り返り、仲間たちに目をやる。ここはまかせてくれと。

 私も胸に期するところがあった。

「九月三〇日、日曜日。時刻は朝八時。場所は、面白い場所がある」

 私が提示したのは、チユちゃんの練習場である。そう、誰もが通過したあの場所。チュートリアルのチユちゃんが、木人を叩かせてくれた、あの場所である。

「使えるんだ、あそこ」

「はい、昨日の夜。メンバーが落ちたあとで調べたんですが、演習場としての使用が可能だそうです」

「九月三〇日かぁ………マミヤさんがインして、ちょうど一年だね」

 シャルローネさんは、意外なことを口走る。そんなことは誰にも言っていないはずだが?

「ちょっとね? ちょっぴりだけ、マミヤさんのプロフをのぞいたからね。それだけですよ?」

 なるほど、そんな情報も記載されているのか。

「あら、そうだったのマミヤ。それじゃあアタシと同じ日にインしたのね」

「そうなのか、コリン」

「そうよ、だからアタシにとってもシャルローネさんとこの日に闘うのは、必然以外の何物でもないわ」

 なるほどそうなのか。それは偶然だな。

 すると本店の執事さんが、ニコニコと笑いながら前に出て来た。

「いけませんね、コリンさま。競争心を燃やすのはかまいませんが、嘘はいけません。コリンさまのアカウントは九月二八日。マミヤさまより若冠早くございます」

「ちょっ、執事さん! そこは細かく言わないで………」

「なりません、コリンさま。いつも良くして下さっているマミヤさまに、嘘はなりません」

 なんだ、嘘だったのか。

 しかし登録日の後先で偉さが決まる訳ではないのだから、嘘など必要は無いのに。………いや、登録日を後に偽っているのだから、センパイ面をしたい訳ではないな。………では、どうしてそんな嘘をついたやら。

 疑問に思っていると、真っ赤になったコリンがうつむきがちに近づいてきた。

「ゴメンなさい、マミヤ。アタシ、マミヤに嘘をついたわ」

 ペコリと頭をさげる。

「かまわないさ、女の子の可愛らしい嘘だろ? 罪にはならないさ」

「いいの、マミヤ?」

「子供が正直に告白したら、それを許すのが大人のつとめさ。子供はただ、大人を信じてくれればいい」

 コリンはプイッとそっぽを向く。

「アタシちっとも正直じゃない。正直になんか、告白してないもん!」

 まだ何か隠しているのだろうか? いや、コリンに限って隠し事などあるはずがない。

 するとコリンはアッカンベー。舌をチロチロ可愛らしく出して、それから執事さんの後ろに隠れてしまった。

 だがそこには、いつの間にかシャルローネさんが移動していた。

「コリンちゃん?」

「な、なによ。………シャルローネ………さん」

「コリンちゃんがライバルだなんて、ちょっと分が悪いかしら?」

「そそそそんなことないわよ! シャルローネさん綺麗だし美人だし!」

 コリン、それはほぼ同じ意味だ。

「スタイルが良くて大人だし、強くて物知りで格好よくって………」

「同じこと、私もコリンちゃんに感じてるよ?」

「そんな………アタシなんて………」

 微笑みながら見下ろしていた執事さんが、コリンの肩に手を添える。そしてそっと、シャルローネさんの前に導いた。

「素晴らしいことですな、コリンさま。尊敬する方が、コリンさまに嫉妬してますぞ?」

「コリンちゃん?」

 少しだけしゃがんで、シャルローネさんはコリンに視線をあわせる。

「一緒にがんばろうね、朴念仁退治」

「う………うん………」

 コリン、お前シャルローネさんには素直な返事するのな。

 しかしそれにしても、朴念仁とは何のことやら?

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