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私たち、隠蔽を模索する


 お盆が過ぎれば学生たちは残りの宿題に追われ、私たち社会人はつまらない日常へと逆戻り。

 しかしタフな連中は早くも冬休みや年末へと思いを馳せ、すでに心踊らせているというから困った話である。

 迷走戦隊マヨウンジャー、貴女の色男(ダンディー)、マミヤです。

 こんなボンクラな挨拶で始まってはいるものの、私たちマヨウンジャーはなかなかに忙しい。なにしろ真夏のイベントで我々の課題、魔法防御や隠蔽魔法(ステルス)というものが見つかり、やれ調べものやれイメージトレーニングだと、てんやわんやの日々だからだ。

 特に隠蔽魔法。

 これに関しては秘密裏に、かつカラフルワンダーを出し抜きたいというねらいがあるので、大車輪の奮闘をしなければならない。

「だけどマスター。マスターはたぬきの八畳敷があるから、隠蔽技術は所持してるよね?」

 いつもの拠点、いつものミーティング。決して駄弁っている訳ではない貴重な時間に、ホロホロが言った。

「確かに私は短時間ではあるが、ステルスを使うことができる。だけどそれは私にしか使えない技術だ、たぬきの所持者だからね。だけどこれをみんなが任意で使えるようになったら、大幅な戦力アップになる」

 もちろんそんなこと、ホロホロは百も承知。あらためてミーティングの主旨を確認してくれているのだ。

「だがマスター。あれだけ選手が大勢いて、ステルスを使ったのは忍者と三条歩だけではなかったか?」

「もちろん私たちがすべての選手をチェックした訳ではないが、ベルキラの言うとおり。私たちの知る範囲ではその二人しか、ステルスを使用していない。つまりステルスの手掛かりはその二人に絞られる、ということになるね」

「そうなると、二人のどちらかからステルスの秘密を聞き出さないとならない、ってなるわね」

 と、これはコリン。むずかしい顔で腕を組んでいる。

「ですがマスター? 忍者さんと三条さんのステルスはぁ、魔法と技術の違いがあると思いますぅ」

「どういうことかな、モモ?」

「つまりぃ、歩ちゃんは魔法で姿を消したのに対してぇ、忍者さんは土の中に隠れていたのではないかとぉ」

 うむ。

 記憶をたどれば確かにそうだ。忍者は土埃を使ったいわゆる土遁の術を用いていた。

「そうなると、ボクたちが身につけられるステルスは、魔法ってことになりますかね?」

「そうだなアキラ。今から忍法修行をしても、身につけられる気がしない」

「だけど問題があるよ、マスター」

「なんだろう、ホロホロ?」

「三条歩ちゃんはチーム『まほろば』のメンバー。私たち陸奥屋一党に、秘技は教えてくれないよ?」

 ステルス取得計画、いきなり頓挫である。

「いやいやマスター! そんな簡単にあきらめないで、もう少しネバッていこうよ!」

「そうは言うがホロホロ、歩ちゃんが教えてくれない以上まともな隠蔽魔法は手に入らないぞ?」

「う、それはそうだけど………」

 まずここで話は止まり、みんなが黙り込む。さすが隠蔽技術、簡単には手に入らないようだ。

「教わるのは無理かもしれないけど、マミヤ。図書館では調べがつかなかったの?」

 話に幅をもたせるように、コリンが口を開いた。

「調べると言っても膨大な蔵書の中から調べるんだ。簡単には見つからないさ」

「そのために図書館には司書さんがいるんでしょ? それでも見つからないの? ………って、見つからないからこうしてるのよね。ゴメンなさい」

 そう、コリンの言うとおり。隠蔽魔法や隠蔽技術に関する書物は、なかなか見つからないのである。これは司書さんが見つけられないのではない。見つかり過ぎるのだ。

 例えばステルスという単語で検索をかけたとしよう。

 するとレディ・司書はリアカーに山盛りの書物を引っ張ってくるのだ。いや、それはいい。それはかまわない。むしろ有り難いくらいだ。

 しかし、いざそれらの書物を紐解いてみても、「隠蔽技術というものがあるらしい」とか、「姿を消したら隠蔽魔法と疑え」などの記述ばかり。とてもではないが、「ハウツー」などというものは期待できないレベルであったのだ。

「それじゃあどうにもならないね」

 ガックリとホロホロは肩を落とす。

「ですがマスター、ボクも思ったんですけど」

 視線を落として、なにか考えるかのようにアキラは切り出した。

「例え歩ちゃんに魔法を教わっても図書館で書物を漁っても、そのステルスは破られるんじゃないかな?」

 ? ? ?

 どういうことだ?

「つまり歩ちゃんのステルスや図書館で調べたステルスは、運営が用意したステルスじゃないかなって。………だから調べれば攻略方法は必ず見つかる。だけど忍者さんのステルスは忍者さんだけのもの。その攻略方法は忍者さんを破らないかぎり、わからない………」

「実は忍者のステルスこそが、学ぶべき価値のあるステルス。………ということか?」

 ベルキラの眼差しは厳しい。身につけるのが困難な技術こそが、本当に身につけるべき技術である。ということが判明したからであろう。

 この歳になって忍法など学びたくない。

 私は確かにそのように言った。何故なら我らが忍法いずみあり方というか、生きざまというか。その辺りが私には、まったく相容れないもののように思えたからだ。

 簡単に言うと、相性が悪い。忍者の技術にはそのようなものが感じられる。

 だがそれは、すでにたぬきの八畳敷で隠蔽技術を取得している私個人の意見。他のメンバー五人が「忍者のステルスを学びたい!」というなら、私に留め立てすることはできないのだ。

「………どうする、みんな」

 私は訊くことしかできない。

「忍者から学ぶか? やめるか? ………どっちだ?」

「ボクはやります」

 強くなることには一番貪欲なアキラが即答した。

「例え忍者さんがどれほど下劣な人間であっても、その技術は一級品ですから。それはトーナメントで証明してますよね? だったら忍者さんから学ぶことに、なんで躊躇うのかがボクにはわかりません」

 フウとため息をついて、コリンはテーブルに手をついた。

「………他にやりようがないわよねぇ。アタシは忍者と相性が悪いけど、仕方ないわ」

「私はぁ、なんの問題もありませんよぉ?」

 意外に思うかもしれないが、モモは向上心が強い方だ。そうでなければヌンチャクやジークンドーを、独学で修めることはできない。

「どうする、ホロホロ?」

 ベルキラが恋人に訊く。その瞳の輝きから、ベルキラがステルスを学びたがっているのがわかるが、ホロホロをおもんばかって決断を保留しているのだ。

 なぜならマヨウンジャーの中で、忍者と一番相性が悪いのが、ホロホロだからだ。

 そのホロホロは、じっとテーブルを見詰めている。

 不愉快が顔に出ている。

 頑固者の顔をしている。

 矜持がそれを許さないと、顔に書いてあった。

 一度まぶたを固くつぶると、吐き出すようにホロホロは言った。

「………わかった。………私も、忍者に教えを乞う」


 決定だ。

 迷走戦隊マヨウンジャーは、ステルス取得のため忍者に師事することに決まった。

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