番外編・楓さんの憂鬱 後編
今回の番外編もまた、友人の二次創作をもとに作製させていただきました。
まだまだ未熟なプレイヤーさんたちと歩みました。日々の修練を欠かすことなく、実力を養いました。
ですがマスターさんの意味不明な指示、仲間外れを作りたがる体質、根本的な勘違いなどが原因で、努力の割に勝ち星は上がりませんでした。
だからといって努力は休むことなく続けられ、誰もゲーム『ドグラの国のマグラの森』を辞める、という事態には陥りませんでした。
ただ、インの頻度が落ちたメンバーがいます。大半がそうでした。
三日に一度のインが一週間に一度となり月に一度となり、マスターさん一味以外は誰もいなくなっていました。
大丈夫。
話し合えばわかる。理解してもらえる。このゲームの肝は複数対一の状況を作り、『いかに各個撃破』を達成するかにある。ということがきっと分かってもらえるはずだ。
そんなことはまったくありませんでした。
本当に私は、夢見がちな乙女ちゃんでしかなかったのです。
無意味な突撃、至近距離での魔法攻撃。愚策というにはあまりにも愚策すぎる手段に終始して、重なるのは黒星ばかり。たまに勝ち星を上げたとしても、それは格下ばかりなり。
なまじ勝ち星が上がるものだから、『やはりこの戦法は正しいんだ』となり、遂には『俺の指示通り動けば間違いない』という明後日の方角を見詰めた自信へとつながってしまう。
どこかのギルドが『迷走戦隊マヨウンジャー』を名乗っていたけど、私たちの方がよっぽど迷走してるし『迷うとるんじゃー』と叫びたくなる次第。
いや、私からすれば件の『マヨウンジャー』さんたち。たまにそのファイトを拝見すれば、「どこが迷うとるんじゃい、われ!」と怒鳴りつけたくなるような連携の良さ。魔法や長距離攻撃で『出遅れ』を発生させて、先頭の敵を確実に死人部屋送り。数的有力をこしらえてからは、複数対一を実現してキルを重ねるスタイル。
そうです。これが『定石』というものです。例え死人部屋送りになったところで敵は復活してくるんですから、なにも目を三角にしてひとつのキルに固執することは無いんです。
このチームの面白いところは、『ポイントマン』と『フォロー』がしっかりと役割分担されていて、そのくせみんな同じレベル。きっと探索に出掛けて、レベルの低いメンバーに経験値を稼がせる、という手段を使っているのでしょう。この手を使わなかったのは、これは私の落ち度。というか、それを実現する前にみんなインしなくなっちゃったんだけど………。
だけど、余所のギルドがこのような戦法を使っているというのは、私にとっては希望の光でした。
分かっている人たちがいる。そして私の考え方は、間違っていなかったのだと。
真夏の祭典。
到来、夏期イベント。
集団がマヨウンジャーのような戦果をあげることが証明されたのだ。ならば今度は個人の技量を試してみたい。
そう思って私はイベントへ出撃を決めたのだけど、どこで聞きつけたかマスター一味がからんでくる。
「楓っちがイベントに出るとなると、通常戦で人数不足になるんだよねぇ」
「そうそう、勝手は困るんだよなぁ」
ほう、そんな矛先を私に向けますか。ですがこの頃には、私も真面目に相手はしません。
「マスターさん方も参加してみてはどうですか? 個人の技量を確かめるには、ちょうどいいイベントだと思いますよ」
嫌味半分。参加を勧めてみる。
どうせ彼らは、実力をはっきり見せつけられるような場所には出て来ない。そんな度胸はありゃしない。そんなタカをくくって、嫌味まじりで言ってみたんだけど、意外な返事をしてくれた。
「たまにはイベントもいいかな?」
「まあ、予選で負けることは無いだろ」
「まあ個人の技量が試されるなら、簡単に消えることは無いだろうからね」
あらあら。
あらあらあら。
どこまでも自信過剰。
どこまでも自己評価の高い方々が揃ってらっしゃるようで………。
別に罠を仕掛けたわけでもないのに、「かかったな、阿呆めが」と呟きたくなる。
このイベントで吠え面かくが良いわと思う反面、新たな面倒が発生するような予感もあって………。
そしてイベント。
個人の力量を試される場。
マスター一味が魔法部門、戦士部門、私も出場する総合部門にわかれてエントリーしていた。
が。
魔法部門では、初っぱなから強魔法を撃とうとして呪文詠唱に手こずり、その隙に弱魔法を撃ち込まれる始末。
あるいは………迷走戦隊マヨウンジャーのマミヤさん、だっけ? あの人と対戦もしてますなぁ。
結果の見えた試合なので、まともに観戦する気も起こらない。案の定マミヤさん、蝶のようにメンバーさんの魔法をかわし、蜂のように的確な弱魔法を撃ち込んでパーフェクト勝利。というかメンバーさん、手も足も出せずに敗退というのが正しい見解だ。本来こんなことをしてはいけないと、それは分かっている。分かってはいるんだけど、心の中でマミヤさんに喝采を送ってしまった。
戦士部門では老剣士に苦もなく倒されたり、スキル発動のためにコマンド入力してる間にやっつけられたりと、とにかくいい所が無い。
総合部門だって魔法先攻の原則を守らず滅多撃ち。私としては笑っちゃうしかない場面が、目の前に繰り広げられていた。
そんな中、私、出撃。
序盤は丁寧に魔法の交換。隙を見逃さないようにして、剣をかざして飛び込んでゆく。
やった! 一次予選はトップ通過。我がギルドでは唯一の一次予選通過だ。
しかしメンバーさんたちはマスターを筆頭に、イベントの尊厳を貶める発言ばかり。
曰く、「俺の相手は不正をしている」。「あの動きはあり得ない」とか、「どんなツール入れてんのよ」とか。とにかく自分の出来ない技を使う者、自分よりも強い人間は不正としなければ、彼らのチンケなプライドが守れない様子。
だけど神賭けて申しましょう。
メンバーさんたちの対戦相手は一切不正など働いてはいない。
そしてここからは、難癖大会。誰が勝とうと負けようと、彼らの目には不正としか映らないようで。私という二次予選出場者がいるのに、である。どこまでも小さい連中だ。
二次予選。
ピンチに継ぐピンチ。
それでもなんとか二位通過。首の皮一枚で三次予選進出。なのにメンバーさんたちは………。
難癖つけるならば、まだ良い方だ。なにしろ観戦席から、キレイさっぱりいなくなっていたのだから。
残念ながら私は、決勝トーナメントに出場とはならなかった。トーナメント出場を決める最後の一戦で、本物の戦士に出くわしてしまったからだ。
スライディングしながらの太ももへの蹴り。太ももへの蹴り。私もできる限りの反撃はした。相手を窮地にまで追い込んだはずだ。
だけど終始ペースは私のものにならず。
後ろに投げつけられてカウント3。しかしそれで試合終了ではなかったのに、私は油断してしまった。最後の仕上げで魔法をもらってしまい、本当の試合終了を迎えてしまった。
そしてイベントも終わり、通常の日々。
私は今日も六人戦に出撃する。
だが私はもう、迷うことも躊躇うことも無い。
私の技は通じる。
私の考え方は、間違っていない。
その証明ができただけで、力になる。
待っててね、迷走戦隊マヨウンジャー。
必ず私は、貴方たちの前に立ってみせる!
新たな希望を胸に、私は今日もあがらない白星を求めて、奮戦するのだ。