表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
343/506

私、戦士部門の決勝戦を観る


 わっしょいわっしょい!

 仲間たちに担ぎ上げられるようにして、激流の蒼帝・蒼魔が帰ってきた。

「いや、棚ぼたな勝ちをひろっただけだ。そんなに担がないでくれ」

 遠慮はみせるが、それでもやはり嬉しそうである。

 客席に到着すると、カラフルワンダーのメンバーたちから陸奥屋一党が、こぞって蒼魔を胴上げした。

 やったぞ! 万歳だ! 俺たちの仲間がトーナメントを制覇したんだ!

 喜びはどこまでも、いつまでも。

 しかし。

「………ちょ、ちょっと待ってくれ。ちょっと降ろしてくれないか」

 控えるようにして、蒼魔は人々の手から降りた。

 鬼将軍の御前である。

 蒼魔は片膝をつくと頭を垂れた。

 悪魔の申し子はおおらかにうなずくと、静かに伝えた。

「よろしい、(おもて)を上げるがよい」

「ハッ!」

 若い蒼魔がうかがうように顔を上げると、タイミングを見計らっていたのだろう、鬼将軍は大きくマントを翻した。

 そして人を魅了する悪魔は、短く言った。

「この度のはたらき、天晴れである!」

 翻りの余韻に、まだマントがゆれている。私としては、どうしてなのだろう? と疑問が浮かんでしまう。

 どうしてこの男は、こんなに格好いいんだろう? と。

 そして背中をむけて、こう言うのだ。

「大義であった、休むがよい!」

「ハハーーッ!」

 これには蒼魔のみならず、私をふくめた陸奥屋一党が、すべて片膝で頭を垂れてしまうのだ。

 若い蒼魔は、ポツリと呟いた。

「俺は、まだまだだ………」

 この若者がひそかに、鬼将軍のカリスマ性に憧れているのは、周知の事実である。そしてまだまだ、あの領域には達していないというのも周知の事実。

 だがしかし、小利口なモノマネや諦めた態度よりも、登っても登っても頂へ着かない山に挑む若者の方が、はるかに伸びしろがある。そして私たちのような中年からすれば、はるかに好感のもてる姿勢であった。

 一戦に入れ込むに、何ら恥入るところなし。

 アキラの熱意を評した言葉だ。ならば………。

 人一人に入れ込むことに、何の恥入ることあろう。

 特に若者たちが、「俺もあんな風になりたい」とか、「僕もこんな人間になりたい」と憧れるのは、大変に結構なことである。

 かかるに、私はどうだろうか? 若者たちが追って来てくれるような、そんな大人になれているだろうか? 若者たちに恥じることのない、そんな背中をしているだろうか? なにクソ、人生未だ半ばなり。地の物言いをさせていただくならば、「俺自身がまだまだというのに、人に追ってもらおうなど百年早いわ! それを望むに、俺は若すぎる!」と、自分の未熟を笑わせていただきたい。

 もしかすると………。

 もしかすると総裁、実は貴方も一生懸命に、鬼将軍を演じているだけなのでは………?

 いや、それを訊くのは失礼でしかない。それを訊いたところで奴には、「馬鹿者ーーっ!」と怒鳴るしかできないのだから。「わかってくれるか、同志よ。私も孤独と不安を、常に抱えているのだよ」などと、泣き言をホザく選択肢は、奴には存在しないのだから。

「格好いい大人になりたいな」

 思わず一人こぼしてしまう。

「あらマミヤ、アンタ充分に格好いいじゃない」

 コリンが言ってくれた。

「ありがとう、コリン。だが私などはまだまださ」

 本当にありがたいものだ、若者から認められるのは。

 だがコリン。

 耳まで赤くしてソッポ向いて、私の腰にぺちぺちパンチはやめてくれ。地味に痛いから………。


 会場地面がならされ、次の闘いの準備が整った。

 彼方より白銀輝夜、此方からは緑柳のじいさんが入場である。

「ひょっひょっひょっ………ようやく会えたのぉ、お嬢ちゃんや」

 笑顔がうるさい。

 嫌な感じがする。

 そして何をしてくれるかわからない、不気味さがある。ジャック先生との一戦では、闘志が凍てつく氷のように固まったが、今回は汚泥のようにドロドロと渦巻(うずま)いている。

「柔らかいな」

 忍者がもらす。

「ジャック先生との一戦じゃあ、ガチガチに殺気立っていたのに。今度の殺気は柔らかい」

 それはどういうことか?

「余裕があるんだろうか? ジャック戦を越えたから」

「あのじいさんが、ジャック先生を相手に余裕が無かったと?」

 正直、信じられない。

 信じられないと思ったが、考えてもみればあの一戦、ガッチガチの真剣勝負(セメントマッチ)でしかなかったのは確か。凶器や隠し武器を駆使しての闘いだった。

 刀を温存していると解説したのは、忍者である。温存とは、ここ一番という時に見せる手の内。つまり緑柳じいさんは、長期戦になることを予測していたということになる。

 そのじいさんが。

「今日はお手柔らかにたのみますよ」

 にこやかに頭をさげた。

 白銀輝夜は………動けないのか? ジロリと睨んだままである。対するじいさんは頭を上げると、さっさと自軍に引き上げてきた。

「輝夜! 輝夜! ぼっとしてないで準備しなさい!」

 彼方の陣営から声がとぶ。我に返ったように、白銀輝夜も自軍に引き上げる。

 開戦の銅鑼が鳴った。

 白銀輝夜が駆けてくる。すでに刀は抜いていた。じいさんはゆっくりと振り向く。このままでは間に合わない。

「と、思うだろ?」

 忍者の言葉通りかどうか? 白銀輝夜の刃が止まっている。

 何故だ?

 じいさんの刃が、下から小手を打っているからだ。

「斬らないのね?」

「斬ってないよね?」

「打っただけか?」

 私たち三人の疑問が並ぶ。

 その疑問に答えるのが、忍者である。

「斬らないさ、打ってもいない。………あのジジイ、遊んでやがるからな」

 苦々しい顔であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ