私、敗者の弁を聞く
忍者の敗退により、三部門の決勝戦進出者が、すべて決定した。
魔法部門はカラフルワンダーから蒼魔。対するはチーム『まほろば』のマタギ、三条歩。
戦士部門はチーム『まほろば』から白銀輝夜。そしてカラフルワンダーの年寄り、緑柳。
総合部門はシャルローネさんを口車で退けた、ダークホース出雲鏡花と忍者を倒したライヤー夫人のカードである。
それぞれの決勝を観る前に、これまでの試合で破れた者たちの声をひろってみたので、いくつか紹介したい。
まずは魔法部門。三条歩に手も足も出ずあっさりヤラレたためか、まともに試合を描写してもらえなかった爆炎の貴公子アーカード。通称あかりんである。
「違うんだよなぁ………。わかるんだけどよ、魔法ってのは力だろ? 力はパワーだよな? それを隠蔽つかって魔法戦ってのは、ちょっと違うんだよなぁ」
うん、彼はこの敗戦から何も学んでないようだ。別な言い方をすれば、まったくブレというものが無い。爆炎の貴公子たる者、やはりそうあるべきだろう。プレイヤーとして見習ってはいけないが、男としてはそうありたい限りである。
続いて陸奥屋一乃組主、ジャック先生。
「陸奥屋に敗北なし。故に俺は敗けてなどいない」
あ、ここにも同じ人種が………。
「敗けてなどいない!」
わかった、わかりましたから。顔が近いですって。
「いやむしろ、精神性では勝っていたくらいだ!」
あんた卑怯な手、バンバン使ってたでしょ。
「ルールで負けにされただけだ。仕方ない」
どこまで負けず嫌いなのさ、ジャック先生。
さらには、いつの間にか白銀輝夜に敗けていたユキさん。これは私が試合を見逃してしまったので、試合内容をあまり詳しく語れない一戦であった。
「いやぁ、あれは勝てませんよマミヤさん」
そんなに強かったのだろうか?
「だって私の試合辺りの、ニュースがさぁ………」
あ、それ以上は結構です。
「本当に今回はタイムリーだったよねぇ」
ユキさん、私に何かうらみでも?
………………………………。
さあ、ヤバイ話題からはトンズラこいて。魔法部門で破れたシャドウさんに話を聞いてみました。
「………俺はトーナメントに勝ち残れなかったのに、妹………ユキが勝ち残ってしまって。あの日以来、妹が俺を見下してるような気がして………」
言ってる言ってる、シャドウくん。ユキさんのこと妹とか言ってるから。リアルな話題はNGだよ、NG。
「まさかとは思うがユキのやつ、俺を愚兄とか思ってるんじゃ………」
しまった、ここにも触れてはならない人物がいたのか。
「聞いてくれ、マミヤさん!」
はいはい、インタビューが終わったらね。
アキラはどうだった?
「そうですねぇ、他の試合を見ていて思ったんですけど、トーナメント二回戦くらいから勝ち残ってる人たちが、師範や師範代クラスばっかりだったんじゃないかって」
過酷なトーナメントだった、ってことでいいのかな?
「はい、強い人ばかりでしたよ」
「アタシはアキラが活躍してくれたから、それで納得できたわ」
おぉ、コリン。
「まあ、アタシの試合に関しては妥当なところっていうか、化け物揃いのイベントでよく勝ち星を上げられたな、って」
心配するな、君も化け物の仲間だぞ。
さ、こんなところでインタビューを終わりたいと思います。
「ちょっと待とうか、マミヤさん」
「そうそう、私たちのインタビューがまだですよ?」
全然忍んでいない出たがり忍者と、暴君シャルローネさんだ。
「私の準決勝に納得がいかないのはもちろんのこと、総合部門の紹介がかなり雑だったと、私は苦情を申し立てたい」
「そうですよぉ、折角私もドレスアップしてたのに」
うん、シャルローネさん。総合部門の実況が雑にならざるを得なかったのは、一体誰のせいかな? 魔法少女や柔王丸はまだしも、血小板や軍艦な娘さんのドレスアップは、かなりいただけないものだと、おじさんは思うんだけど。
「あ、バーチャルユーチューバーも力作だったんですよ?」
黙れ、バカ。
大人の事情を汲まない若者は大変に面倒なものだが、それにしても君のはやり過ぎだ。少しくらいは反省してください。
「あの、マミヤさん?」
まだ何か?
「私の秘密は、知らないですよね?」
特には知らない。
「そ、ですか………。いえ、何でもないんです!」
はて、なんのことやら。やはり年頃の女の子の行動は、私にはまったく理解できない。
ということで、インタビューを終わりた………。
「同志マミヤよ、誰か重要な人間を忘れてはいないかね?」
はて? そのような人間、いただろうか? おや、こんな夜更けに客だろうか。すみません、ちょっと席を外しますね。
「知りたくば答えてやろう。私がこのトーナメントにかけた、熱い情熱を!」
いや、聞きたくないという私の心情を察してください。
「………いつからだろうか? 人々が心の中のときめきを無くしてしまったのは………」
しまった、こいつは鬼将軍だった。私ごときの心情など察してくれる訳がない。というか、少しは人の話を聞きやがれ。
「人の心がきらめかなくなってしまったのは、いつからだろうか?」
それではこれで、スタジオにマイクを返します!
「同志マミヤっ! 私の話を聞かんかーーっ!」
人の話を聞きやがらねぇオヤジが、なにホザいてやがるかーーっ!
「いいかっ! 男のときめきとは、燃えるような情熱の………」
放送は強制的に中断されました。
会場は超満員だった。立ち見の客まで出ている。忍者情報では、会場の外にダフ屋まで出ているらしい。そんなものが出たところで、なんの役に立つのかわからないが。
そしてファンファーレが鳴り響く。
いよいよ魔法部門八〇〇名、戦士部門一〇〇〇名、総合部門一六〇〇名の頂点を決める決勝戦の開催である。
選手、入場。まずは魔法部門から。
黄色い声援がとぶ。主にお姉さま方からだ。
先頭の入場は、チーム『まほろば』の刺客。蓑と笠、そして背負った村田銃。三条歩が緊張気味に歩く。それに続くのは激流の蒼帝、蒼魔。カラフルワンダーの生き残りである。
「がんばれよっ、蒼帝! チーム『まほろば』にひと泡吹かせてやれ!」
「雰囲気あるぞ! お前ならいけるいけるっ!」
「ちびっこなんかブッ飛ばせ! 遠慮はいらんぞ、相手も強豪だ!」
こちらの声援は男衆が多い。自然と会場は男くささが増す。
しかし盛り上がった空気が、一瞬で凍りついた。
白銀輝夜が入場したのだ。
凄味がある。まとった空気がキレている。ただ者ではない気配満点である。だからこそ、観客はみな黙り込んだ。
「おーおー余裕がありませんなぁ、白銀輝夜」
決勝戦の舞台に上がれなかった負け虫、ジャック先生が斜に構えて観戦している。
「力と技と速さだけで、あのジジイに勝てると思ってんのかねぇ?」
「ということは、ジャック先生?」
私は訊く。
「勝敗のゆくえは………」
「ジジイの勝ちさ、三〇〇〇ジンバブエ・ドル賭けてもいい」
ジンバブエ・ドルは、一円何ドルの通貨だ。つまりジャック先生は、賭けなどする気が無いということになる。
そして静寂に紛れるようにして、緑柳のじいさんがひっそりと入場。
総合部門、出雲鏡花の入場。そしてライヤー夫人の入場には、ブーイングがあふれ返った。