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私、達人対決を見る


 なおも闘いは続く。

 ユキさんは順当に、危なげない勝ち方をしたが、表情が暗い。元来がおとなしく真面目、驕り高ぶったところのない彼女で目立ったことが嫌いな娘だが、より一層陰に引っ込んでいる印象が拭えない。

「意識してるんですよ、白銀輝夜を」

 おそらくはユキさんの実兄であろう、シャドウが言う。

「ユキさんほどの実力者が、意識しなければなりませんか」

 私が訊くと、シャドウはうなずいて言う。

「おそらく今のユキでは、勝てないでしょうね」

「勝てませんか?」

「勝てません。おそらく俺でも………。白銀輝夜の剣には餓えや渇きがある。現代社会で生きる俺たちには、ちょっと縁のないものです」

「それがあるから、彼女は強いと?」

「自分が高みにのぼることしか、頭に無い人間ですね」

「では………」

 この場で口にするのは、少々はばかれるような質問をしてしまう。

「ジャック先生や緑柳じいさんでは、どうですか?」

「………自分よりも上の者をあれこれ評するのは、愚も愚な振る舞いですが」

 断りを入れてから、シャドウは答える。

「あの二人なら白銀輝夜のそういった性格を逆手に捕って、それから闘いを挑むでしょうね」

「なるほど、全力を出させませんか」

 シャドウはパンフレットを開き、戦士部門のトーナメント表を指でなぞる。

「ただ、このまま行くと父………ジャックと緑柳さんは、準決勝でぶつかることになる」

「ストップ・ザ・輝夜ですか。どちらが昇ってゆくんでしょうね」

「それは雲の上の話ですから」


 雑な扱いで申し訳ないが、総合部門の二人も順当に勝ち上がった。

 こうなるともう、オムニバスレベルで試合を紹介するしかなくなる。

 何故ならカラフルワンダーの無法者、御存知シャルローネさんが頭にピンクのぴょこぴょこ揺れる双葉のようなリボンをつけて、ショートパンツにニーソブーツ。有名バーチャルユーチューバーのコスプレで試合をしたからだ。

 触れてはなりませぬ。

 触れてはなりませぬ。

 心で唱えながら、総合部門は駆け抜けさせていただく。


 そして試合は次々と消化され、三部門で準決勝となった。

 まずは魔法部門。激流の蒼帝ことカラフルワンダーの蒼魔が、決勝進出のキップを掴む。

 そしてもうひとつの山からは………。

 爆炎の貴公子アーカード、通称アカリン。

 それに対するは、童顔の暗殺者。簑をまとった殺し屋、見えない恐怖とさまざまな二つ名を持つ、茶房『葵』のアイドル三条歩ちゃん。

 そしてこのカードもまた、叉鬼(マタギ)対策が甘いカラフルワンダーのメンバーを、マタギが一方的に虐殺する結果となった。

「………本当に、しっかりしないとならないね。ステルス対策」

 ホロホロが唸る。

「いやいや、ホロホロ。私たちが『まほろば』メンバーたちと闘う訳じゃないから、そこまで気を揉む必要はないんじゃないかな?」

「そうでもないと思うよ、マスター。こんな場所で、あんなオモチャを見せびらかされたら………」

 ホロホロがコッソリと指をさす。

 シャルローネさんがいた。

 仲間の敗戦もさることながら、その完璧とも言えるステルス技術に瞳を輝かせ、口を『O』の字に開けて感心している。

「アレを欲しがる子供が知り合いにいない? 割りと身近に………」

「シャルローネさんがステルスか………」

 想像を働かせて、心の中で思い浮かべてみる。

 ………………………………。

 寒気がした。

 ステルス、氷結の魔法夜叉、血みどろ(ケツ)バット。

 どれひとつ取っても震えがくるような恐怖に見舞われるというのに、それを加速する恐怖がかけ算的に追加されるのだ。

「対策もさることながら、ホロホロ」

 軍師の相方(恋人)ベルキラである。

「どうせなら私たちが先んじて、ステルスをマスターするってのはどうだ?」

「いいね、ベルキラ! そのアイデアはいただきだよ♪」

 幸いにして我々には、ステルスの先駆者たる『インチキ忍者』がいる。彼女に一発仕込んで貰おうか、と話は盛り上がる。

 しかし………。

 戦士部門、準決勝が始まることで、その話題はそれまでとなった。


 戦士部門準決勝。

 白銀輝夜が当然のように勝ち上がった。

 その対戦相手を決めるため、彼方より翠嵐の伯士・緑柳じいさんさんが入場。此方より陸奥屋一乃組の鬼神・ジャック先生が入場する。

 両者中央。

 背丈は似たようなものだが、ジャック先生の肩幅と胸板は、改めて眺めると凄まじい。

 対する緑柳じいさん、ヒョロリとしたソップ型だが、人斬りのような不気味さが漂っている。

 口を開いたのはジャック先生。

「さて翁、どちらが白銀輝夜の前に立つか………」

 言葉の途中で、白い粉を翁の顔面へ。

 塩だ。

 目潰しの塩である。

 しかしジャック先生は後方へ飛びさがる。

 白刃の一閃。

 塩の目潰しなど予定通りとばかり、片ひざをついてかわした翁が、すでに一刀を走らせていた。

「………食えないじじいだ」

「そっちこそ、敬老精神の欠片もないような奇襲攻撃。教科書通りじゃの………」

 と、ここまでは年末チャレンジの焼き写しにも似た展開。

 そして翁は、刀を鞘に納めた。

 観戦していた忍者が舌打ちをする。

「刀を鞘に納めさせちまったな………」

「悪いことなのかい?」

 私の質問は、あまりにも呑気だっただろうか。

 忍者は珍しく苦い顔をしている。

「悪いも悪い、最悪な事態さ」

 翁の技は居合。

 今大会で白銀輝夜、ユキさん、翁と猛威を振るい続ける居合に刀を納めさせることが、どれだけ不利かを忍者は説く。

「まず居合のイメージといえば、鞘から刀を抜いて横一文字に斬る。ってとこだよな?」

 私たちは揃ってうなずく。

「だけど映画やドラマで見たことないかな? 縦に斬ってきたり斜めに斬ってきたり。場合によっては下から斬るとか」

 あぁ、確かに。そういった場面は記憶にある。

「あれは左手で鞘を操作して、斬る角度を決めるんだが………切っ先が鯉口から離れるまで、変更可能なんだ」

「ということは?」

「どこをねらって斬ってくるか、最後までわからないってことさ。ついでに言うなら、斬ってくる場所がわかった時は、すでに手遅れ。デコピンの要領でマックスの加速をした切っ先を、避けることはできない」

 簡単に言うならば、鞘に納まった居合は手のほどこしようが無いと、忍者は言う。

「なによその無敵モード! 手の打ちようがないじゃないの!」

「まあな、鞘に納まった居合は手の打ちようがない。だがそれでも、闘い方はあるんだよ」

「ほ?」

 そうなのか?

 ならばその手を、是非。

 と思ったが、忍者はもう私たちに関心を払っていない。

 ただ熱心にまばたきもせず、試合場を見詰めていた。

何かと物議を醸している居合道。当作品ではタイムリーに猛威を振るってます。

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