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私、敗戦の原因を探る

本日二本目の更新です。


 コリンがインファイター対策として、「必ず通る場所がある」と言っていた。

 それと同じことか。

 これだけ峻険な岩山を築いておけば、一番通りやすい場所を歩いてくるのは当たり前。いやむしろ、もっと積極的に言うならば、三条歩の行動を能動的にコントロールするということになる。

 さすがだ斬岩。

 やるじゃん斬岩。

 それはもう、シャルローネさんが期待の眼差しを向けるのも、わかるってもんだ。


 銃声。


 え?

 ………撃ったの、歩ちゃん?

 って、なんで………?

 いや、だがしかし、斬岩が仰向けでひっくり返っているのは事実………。

 その斬岩が、もぞり………。

 もがくように身を起こした。

 まずは四つん這いになって、左右を確認。

「………ダメかな、これは」

 ベルキラの言葉通り、斬岩の目つきはどこか虚ろ。焦点が合っていないし、思考が機能していないのがわかる。

 ふたたび銃声。

 後頭部に命中したのか、潰れるように倒れ込んだ。

 残る体力はわずか。

 それでも斬岩は立ち上がった。

 自分が何をしなければならないか、まったく把握していないような、だらしない顔つきのまま。

 三度目の銃声で、斬岩は力尽きた。ありきたりな表現だが、糸の切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちる。

 勝負あり。

 斬岩の魔法が徐々に解けてゆく。そして三条歩は、ひときわ高い岩山の頂きに登っているのがわかった。

 ちょっとやそっとで登れる高さではない。というか、登れる斜面ではない。

 お前は天狗の娘か? と訊きたくなるような『崖』なのだ。

「………それを難なく登るから、叉鬼(マタギ)なんだね」

 ホロホロは変なところに感心していた。

 むぅ、と唸ったのはシャルローネさん。

「これでカラフルワンダーは、残りが二人。爆炎と蒼帝か………」

 大丈夫かな、あの二人で? と、シャルローネさん。二人には割りと辛辣である。

「大丈夫だと思ったから、総合部門に出たんじゃないの、シャルローネさんは?」

 今度はホロホロが意地悪な目をした。

「………うん、そだね。あの二人だって、魔法に関しちゃ一級品なんだから。うん! きっと大丈夫♪」

 いやシャルローネさん、「魔法に関しちゃ」って………それ以外は丸出ダメ夫くんみたいなことを………否定はしないが。


 見えない強敵、三条歩への対策が不発のまま、トーナメントは続く。

 戦士部門。

 アキラが負けた。

「………………………………」

「………………………………」

「………アキラ」

 思わず黙り込みそうになる私たちだったが、辛うじてコリンが言葉を発する。

 そして勝者は、一礼して試合場を後にするところであった。

 チーム『まほろば』の剣豪白銀輝夜が、アキラを斬って落としたのである。

「………アキラの間合いだったよな?」

 距離的な意味合いである。うん、とホロホロが答えた。

「アキラのタイミングだったはずだよ………?」

 その通りと、私は答える。

 そしてコリンが、文句をたれるみたいに吐き出す。

「なんでアキラが、剣も構えてない相手に斬られなきゃなんないのよ!」

 納得いかないわ! と、かなりお冠である。

「いや、コリン。あれが居合という奴だから………」

 そうだ、アキラは抜刀からのほんの一時で、斬って捨てられたのだ。

「じゃあホロホロ、なんで居合なら間に合うのよ?」

「う、それは………」


 その謎を解くためにも、アキラ対白銀輝夜の一戦。今一度ふりかえってみたいと思う。

 まずは銅鑼(ゴング)

 両者、陣営から試合場(リング)中央へ。

 アキラは闘志を隠さず、掌にグローブのナックルをうちつけながら。白銀輝夜は散歩にでも出掛けるような風情。しかし腕を振ることなく、頭を揺らすことも無し。

 両者接近。相手を警戒し、先に構えをとったのはアキラ。『なんでもできる』ボクサー・ファイターの構えだ。

 白銀輝夜も足を止める。アキラを警戒している様子だが………。


「そうだね。あの時の白銀輝夜は、遠山の目付けというやつだっただろうか?」

「どこを見るでなし、アキラの全体を見る目付けだよね? わかるわかる」

 ここまでは、ホロホロも同意してくれた。渋々という感じではあるが、コリンも理解を示してくれている。


 対白銀輝夜戦、続き。

 両者、しばし対峙。間合いは一刀一足には遠く、一拳一足にはなおさら遠い。

 が、その間をジリジリ詰め合う両者。なんの申し合わせもなく、同じ解を得たかの如し。

 その解とはなんだったのか?

 結論を先に語らせていただくならば、二人が得た共通の解は『一撃必殺』だったのではないかと推察される。

「ただし、二人が得たその解は本当に同じものだったかどうか………」

 長考に入る前兆だろうか、ホロホロは一点を見詰めて動かなくなってゆく。

「というと?」

「つまりね、アキラの得た一撃必殺は『もうそれしか無い』というもので、白銀輝夜の一撃必殺は『それが最良の手』くらいに違いがあったんじゃないかって………」

 追い詰められて得た『一撃必殺』と、選択に選択を重ねて得た『一撃必殺』の解。たしかにそこには大きな溝がある。

「だとすれば、アキラは最初から白銀輝夜の術中にはまっていた、ということになるが」

「まあ、一撃必殺されちゃってるし、そう言われても文句は言えないよねぇ」

 ところがどっこい、そんな簡単なやり取りじゃなかったと忍者は言う。

「そうなの?」

 アキラの完敗ではなかったと言われて、コリンは瞳を輝かせる。


 まず、事実だけを追いかける。

 両者接近。間合いが詰まってゆく。三足二足の間合いから、一刀一足。さらには一拳一足………さらに間合いが詰まる。

 近距離(ショート・レンジ)………さらに間合いが詰まり、胸と胸が触れ合うような交差距離(クロス・レンジ)へ………。

 私たちの目には、ここで一瞬細かい攻防があったように見えたが、はっきりと目でとらえたのは白銀輝夜の抜刀と必殺の一撃だけだった。

 しかし忍者解説では、このような攻防が展開されていたそうだ。

 交差距離の二人。ここでアキラは至近距離の右ストレート。間合いが近いので、すぐに拳が届くはず。

 しかしそれを読んでいたのか、あるいはアキラに手を出させたか。白銀輝夜は鞘ぐるみ、刀の柄でアキラの拳を突きあげる。

 と同時に鞘を引いて抜刀。アキラの横面を斬る。が、失敗。


「え、失敗したの?」

 ホロホロの驚きは当然だ。私も驚いているのだから。なにしろあの白銀輝夜が、攻撃に失敗したのである………。

「まあね、アキラだって必死だからな。この一撃はもらっちゃいかんと、判断しただろうさ」

 アキラは上体を反らせて、必殺の太刀をかわす。その上でなお、左のストレートをねらっていたという。

「白銀輝夜の太刀が死んでいたら、そのまま顔面を吹っ飛ばしていただろうよ」

「つまり白銀輝夜の太刀は、死んでいなかったと?」

「正確には切っ先さ。横面をかわされた切っ先で、そのままアキラのノドをねらってたのさ」

 アキラ、正面対正面を嫌うが、白銀輝夜のひと太刀が速かった。

 逆袈裟を、斬り離されるまで深々と。

「そうよ! そこ! 切っ先でアキラのノドをねらってた太刀が、なんで大車輪斬りの逆袈裟なんて大技を間に合わせられるのよ!」

 大車輪斬り。

 つまり白銀輝夜の太刀は切っ先を下げ、グルリと一回転してからアキラを斬ったのだ。

 どう考えても無駄だらけ。大きな動作は時間がかかる、いわゆるテレフォン・パンチである。アキラがよけられない訳がない。

「そこが剣の怖いところよ」

 忍者はニヤリと笑った。

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