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私、本当に著作権の心配をする

本日は二本立て。二本目の更新は、昼十二時を予定してます。


 さて総合部門の闘いだが、ここは基本的に『魔法と物理の攻防をする者』たちしかいなかった。ひっくり返して言うならば、『魔法と物理の攻防しかできない連中』のたまり場でしかなかった。

 ものすごく簡単に言うと、忍者の敵がいない。

 一回戦はまたもや隠蔽術を使い、あっさりと勝利したのである。

「こうした闘いでは、隠蔽対策が重要になってくるね」

 ホロホロが呟く。

「というかそもそも、どうやって姿を隠しているのか? その仕組みを解かないと話にならないな」

 私は答えた。

「三条歩………マタギちゃんにしても忍者にしても、ゲーム上の『能力(スキル)』で姿を隠しているのではなさそうだ。公平に獲得できる能力を駆使しているなら、ここまで無敵モードにはならないだろうからね」

「そうだね、私もその見解に一票。あのステルスはスキルじゃなく、個人の技術って気がするかな? ………つまり、忍者と歩ちゃんのステルスは、まったく別物。魔法やスキルを使ってない、個人の工夫」

「ってことは何?」

 コリンが割り込んで来た。

「あの二人を倒すことになったら、別々に術の破り方を考えないとならないの?」

「まあ、そうなるだろうね」

「なによそれ、面倒くさい!」

 自分が闘う訳でなし。まして二人に勝たなければならない、というでもなし。それなのにコリンはふくれっ面をつくる。

「仕方ないことだよ、コリン」

 ホロホロが説得にあたる。

「同じ槍師でもスキルしか使わない選手がいれば、コリンみたいに独自の修練を積んだ選手もいる。独自の修練を積んだ選手は、それぞれ流派が違ったりするから、対策もその数だけ考えないといけないでしょ?」

「ま、まあね。そう言われれば、そうかしら」


 さてそうなると、もう一人の出場者、シャルローネさんに注目が集まる訳だが。

「予選で魔法少女、柔王丸と来たが………次はどう出てくるか………」

 私の横顔はシリアスだっただろう。

「とりあえず、著作権に引っ掛かるような真似だけは、ノー・サンキューだよね………」

 ホロホロの横顔も、シリアスだったからだ。

 そしてシャルローネさんのトーナメント一回戦。観戦率が九〇パーセントを越えている。こんな衆人監視の中、いったいどんなことしてくれやがるのか………。

 ゲートが開き、いよいよシャルローネさんの入場だ。

「………来るぞ」

「………うん」

 しかし、なかなか姿を現さない。

 ただ微かに、ピッピッという音が聞こえてきた。

 (ホイッスル)の音か?

 近づいてくる。

 シャルローネさんが現れた。それも、二人三人五人十人。列を作ってワラワラと入場してきた。

 ピーーッ!

 笛が長一声(ちょういっせい)、シャルローネさんの群れは足を止めた。

 長靴である。

 ショートパンツ姿に、お揃いのダブダブなTシャツ。

 そして帽子には『血小板』と書かれて………。

「バカ野郎ーーっ! アウトだ、アウトっ! 著作権に気ぃつけろって、お前何回言わせんだっ、このバカ野郎ーーっ!」

 私の怒りの声で、とりあえずシャルローネ小隊は解散。残った本物のシャルローネさんも、帽子を客席に投げ込むことで事なきを得た。

「と、とりあえずマスター。シャルローネさんもタイムリーというか、角度の鋭いパンチを(ほう)ってくるね」

 ホロホロはズッコケたまま口を開く。その表情もまた、ズッコケている。

「アキラの腎臓打(キッドニーブロー)ちよりも、危険な角度だな。つーか彼女、エッジ効きすぎだろうよ」

 私の表情もまた、ズッコケていたに違いない。

 しかし、普段は優等生なはずの彼女を、何がここまでかき立てるのか?

 イベント? お祭り? 夏という狂おしい季節の、開放的な雰囲気?

 もしもシャルローネさんにセンスというものがあったなら、二学期には化粧と着崩した制服姿で登校していたかもしれない。それほどまでに、夏は彼女を狂わせているのだ。

 だとしたらこの夏イベント。

 これこそが彼女の『ひと夏の体験』というものなのだろうか?

 だとすれば………。

 だとすれば、不憫としか言いようがない。

 で、シャルローネさんの一回戦だが、無茶な技を使うこともなく無事勝利した。

 こちらとしては肝の冷えるような思いであったが、どうにか著作権には引っ掛からないようであった。


 さて、割りと雑に総合部門の結果を紹介したが、それもそのはず。

 魔法部門一回戦で春雷の閃光キラを、いいように弄んだ敵。三条歩の試合なのだ。隠蔽魔法(ステルス)を駆使したその闘い振りに私たちは舌を巻いたのだが、その対応策を持つ者が現れた。

 カラフルワンダーからの刺客二番手、斬岩の大牙ダインである。

 ホロホロとも交流があると言われるこの若者、やはり戦略や作戦を好む人種(タイプ)らしく、三条歩対策を訊くと「ニヤリ」と笑っていた。

 期待は大である。

 その斬岩が忍ぶように秘めやかに、目立たぬ入場を果たした。

 そして対する三条歩。こちらはその筋の『お姉さま方』からの、黄色い声援を浴びての入場である。

「………雰囲気あるわね、あの斬岩っての。落ち着き払って、強者の気配たっぷりだわ」

「そうだね、これは期待ができるかもしれないぞ」

 できるかもしれないもなにも、私はすでに期待たっぷりなのだが。

 簡単なルール説明は、いつも通り。

 それが済むと二人は、それぞれの陣営にわかれてゆく。

「さあ斬岩! 春雷の仇、ここでとってやっちゃってね!」

 セコンドには、先ほど一回戦を終えたシャルローネさん。巨大なお祭り団扇で髪が乱れるほど扇いでいる。

「ちょ………氷結さん! ………息、息が………できませんってば!」

 なにもそこまで張り切らんでも………。つーかボクシングのインターバルじゃないんだから、選手の体温下げてどーするよ?


 そんなこんなで、まずは銅鑼(ゴング)

 両者呪文の詠唱を開始。わずかに早く、三条歩が姿を消す。予想通りのステルスだ。

 対する斬岩は?

 大掛かりな魔法らしい。まだ詠唱を続けている。いや、いま発動した。

 試合場全体に、岩の槍………いやこれは岩山とでもいうべきか。とにかく地形が変わってしまったのだ。

「………というかホロホロ。斬岩くんはこの岩山を盾にして、三条歩の銃弾から身を守るつもりなのかな?」

 だとすれば斬岩、あまりにも安っぽい。

「まさかぁ、とは言うものの私も斬岩の考えが、わからないんだよね」

 斬岩は動かず。

 ただ岩山を生やし試合場の地形を変えただけ。その場にたたずんでいる。

「あらあら、ホロホロさんでも斬岩の作戦がわかりませんか?」

 ひょっこり顔を出したのは、シャルローネさんだった。いつの間にか客席に戻って来ていた。

「そりゃそうだよ。面白くも可笑しくもない完璧主義の斬岩が、ヘンテコな岩山の並べ方してさ。………ヘンテコ? 完璧主義? ………………………………。」

 ホロホロが長考に入ったか。ブツブツ言いながら試合場の岩山を凝視している。

「………これは………もしかして?」

「もしかして?」

 シャルローネさんが嬉しそうに、ホロホロの顔をのぞき込む。

「もしかしてこの岩山の配列、迷路っていうかわざと斬岩にたどり着くようにしてあるっていうか。………必ず斬岩の前に現れるようにしてあるんだ!」

 シャルローネさんは大喜び。ピンポンピンポーン♪ と、正解のチャイムを鳴らしている。

「なるほど、迷路のような罠か………。でもシャルローネさん、それだけでは三条歩に勝ったとはなりませんよ?」

「そうですよね、マミヤさん! いいところに気がつきましたね!」

 にゅふっと口角を吊り上げて、楽しそうなシャルローネさんの解説である。

「ではマミヤさん。ここに斬岩迷宮の地図がありますから、三条歩ちゃんがいた場所から斬岩のいる場所まで、指でたどってもらえますか?」

 言われた通りにする。

 歩ちゃんのいる場合をスタートして右に左に。グネグネ曲がっているルートをたどって、急カーブから斬岩の前に。

「たどりましたよ」

「最後はどうなってました?」

「急カーブから、いきなり斬岩の前に………」

「そ、いきなりです♪ いきなり斬岩が現れるんです。そのためには、必ず体重をかけて踏む場所があるんですよ」

 慎重に歩いているが、敵の姿が見えたら急停止………。うん、体重をかけて踏む場所ができるね。

「そこに、落とし穴があったら?」

 シャルローネさんの眼差しは、ちょっと意地悪な色に輝いていた。

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