私、トーナメントを見る
すべての予選が終了した。
あとは七日後の日曜日に、決勝トーナメントが開催されるだけである。
私たちの関係者でトーナメント進出をはたしたのは、魔法部門では陸奥屋一党に出場者無し。カラフルワンダーからは激流の蒼帝こと蒼魔。爆炎の貴公子アーカードに斬岩の大牙ダイン。そして春雷の閃光にして『シロは僕のシロ』のキラ。シロというのは、シャルローネの略称らしい………。
それはさておき戦士部門。陸奥屋一乃組からジャック先生、ユキさん。迷走戦隊マヨウンジャーからはアキラが唯一の出場。カラフルワンダーは重鎮、緑柳じいちゃんがトーナメント進出を果たしている。この人数は、さすが白兵戦の陸奥屋である。
そして総合部門にはかなりの人数を出撃させたのだが、鬼将軍がいい仕事をし過ぎたため目玉選手が次々と、自爆同然の敗退。特に美人秘書御剣かなめの敗退は、陸奥屋内外で惜しむ声があふれたほどだ。
そんな中、無理矢理気を吐いたのがカラフルワンダーの主シャルローネ。無理矢理勝たされたのが、陸奥屋一乃組の忍者である。
そして『真夏の祭典・G1グランプリ』を制するという陸奥屋の野望を阻止するがごとく、我々の前に立ちはだかるライバルたち。
魔法部門では茶房『葵』のアイドルにして看板娘の、三条歩が村田銃というアイテムを背負い、カラフルワンダーの前に立つ。
戦士部門では三条歩と同じく、チーム『まほろば』に属する剣士、白銀輝夜がスゴ腕である。
そして総合部門だが………。
はっきり言って自軍の応援ばかりしていたので、あまりチェックをしていなかった。
なにしろ大所帯。あいつの試合が終わればこいつの試合と、すべての試合が終わったら「やれやれどっこいしょ」と、荷物をまとめて帰って来たのである。
そしてむかえた、決勝トーナメント。
八月十二日、午前九時〇六分。
魔法部門試合場に、鬼が出た。
カラフルワンダー先鋒は、春雷の閃光キラ。雷撃系の魔法を得意としているが、彼女が思わぬ苦戦を強いられていたのだ。
試合開始から一〇秒少々しか時間が経っていないのに、キラはすでに肩で息をしていた。キラは走らされていたのだ。それも一直線に、ではない。右と思えば左、左に走れば右と、ゴー・バック。あるいはストップ&ゴーを強制されていたのだ。
それも、一人で。
「どういうことかな、かなめ君?」
鬼将軍が不機嫌も露に、美人秘書に訊く。
「何故彼女は一人で遊んでいるかのように、出鱈目に走り回っているのかね?」
「一人だからこそ、です」
「ふむ?」
「春雷の閃光のみならず、私たちにさえ敵の姿が見えなくなっています。この試合場に三条歩の姿が無いのですから、春雷の閃光も逃げ回るしかないでしょう」
ただ、それでもカラフルワンダーの一員である。逃げるにしても、敏感に歩ちゃんの気配を察して逃げ回っているのだ。
「これは勝ち目が無さそうかな、かなめ君?」
「斬岩の大牙ダインならば、おそらくは」
「つまり春雷では荷が勝ちすぎると?」
銃声。
春雷の左肩が撃ち抜かれた。不利な状況に歯噛みして耐えている。
残った右手で雷撃魔法を繰り出す。隠蔽魔法で姿を消している三条歩の気配をたよりに、次々と魔法を発射した。
しかし、手応えが無いのだろう。春雷は首を捻っている。そして三条歩も姿を現さない。
どこなのか?
三条歩はどこにいる?
間もなく魔力が回復する。
銃声、ふたたび。
今度は右脚をもっていかれた。背後からである。
尻餅をついたまま、春雷は振り向いた。魔法を背後に飛ばす。しかしそれも、手応え無し。
体力を根こそぎ奪われた春雷だが、まだ目は活きている。わずかな気配も逃さぬようにと、左右に目を配っていた。
しかし無情の銃声が響く。
春雷はこめかみを撃ち抜かれた。これで「勝負あり!」である。
春雷の閃光キラは、ゆっくりと横たわった。眠りに落ちる美少女のように。
隠蔽魔法の効果が切れたか、三条歩がうっすらと姿を現した。そしてボルトを引いて空薬莢を弾き出す。
三条歩が姿を現したのは、キラから五歩と離れていないような至近距離であった。
三条歩、二回戦進出である。
「なんとも厄介だね、あのステルスってのは」
率直な感想である。
「見えない敵なんて、私にはお手上げだよ」
「しかも遠距離可能な鉄砲魔法だろ? このままあの三条歩が、優勝を持って行くんじゃないのか?」
ベルキラも私と同じ意見のようだ。
「でもベルキラなら、やり方次第では彼女の位置くらいは、わかると思うよ?」
ホロホロが振り返る。ベルキラならと言っていたが、それは私ではダメということだろうか?
「マスターはダメだね、コリンも無理。でもアキラあたりは、やり方かな?」
どうやって?
考える暇もなく、コリンが声をあげる。
「わかったわ! 地面に砂や水を撒くのね!」
「そ、アキラなんかは辺りが水没するくらいに魔法を撃てば、あの娘の居場所がわかるんじゃないかな?」
「なるほど、砂を撒けば足跡が残る、ということか」
そういえば『透明人間』と闘う映画などでは、室内に小麦粉を撒くなどして対決したものだ。………私が透明人間なら、小麦粉まみれの部屋になど入ったりしないのだが。当時の透明人間というのは、意外に間抜けなものである。
では三条歩はどうだろうか?
「ねぇホロホロ、あの娘がそこまで間抜けだと思う?」
「間抜けだと思ったからこのアイデアを提供したんだけど………訂正するね。砂撒き水撒きは通じないかもしれないね」
ホロホロは三条歩のデータを集めていたようだ。検索画面を私たちに提示する。
三条歩
種族 人間
職種 叉鬼
「………ちょっとホロホロ、これ何て読むの?」
コリンが叉鬼の文字を指差した。
「これはね、マタギって読むの。秋田県阿仁地方の伝統的な猟師のことね」
「その猟師相手に、なんで砂撒きが通じないのよ?」
ホロホロは言う。
マタギは足跡を残さずに歩く、という。
足音を立てずに歩く、という。
マタギの気配は敏感な野生動物でも掴むことができない、という。
「野生動物でも掴めない気配を、どうして春雷が掴めたのよ?」
「それはね、この試合場のどこかに三条歩がいる、って決まってたから。町を歩いてたり仕事や勉強をしている最中なら、三条歩の気配はわからないと思うよ」
それはほんとうに嫌な相手としか言い様がない。
「本当にみなさん、嫌な話ばかりしますねぇ」
試合場から斬岩が見上げてきた。
「ぼくが第一試合を勝ったら、次は彼女と当たるんですよ? それなのに『勝ち目無し』みたいな話はやめてくださいよ」
「とかなんとか言って、すでに三条歩対策はできてるんですよね、斬岩さん?」
「いやぁ、ははは………」
否とも応とも言わず、斬岩ダインは頭を掻いた。
そして予想通り、初戦を無事通過したのである。