私、ホロホロとコリンの応援をする
カラフルワンダーの緑柳ジイさんと、チーム『まほろば』の白銀輝夜が圧勝のトーナメント進出を果たしたところで、戦士部門の予選は終了。
すみやかに総合部門の二次予選、三次予選へと移る。
「さあ、次は勝ってトーナメントに行くわよ!」
コリンがりゅうりゅうと槍をシゴいた。
二次予選、コリンの三戦目。一勝一敗と星は五分。しかし二杯目を喫すると、三次予選への進出は絶望的になる。
「いいですか、コリンさん。陸奥屋の持ち味は足です。ショット&ラン、困ったときは足を使う。これでいきましょう」
首からタオルをさげたたぬきが、セコンド気取りでコリンの首筋を軽く揉んでいる。その傍らには、うがい水のビール瓶をバケツに入れたアキラも控えていた。
先の一戦で、コリンは範囲魔法を撃ち落とすことができず、敗北。第三セコンドのモモに、回復魔法を施されてのリングインである。
「ショットは小さく、だけど素早く。弱魔法でもカウンターで当てたら、効果は大きいですからね」
「オーケイ、ビッグブローは控えるわ」
「それじゃあ合い言葉を!」
チーム・コリンが円陣を組んだ。
四人で声を揃える。
「せ~の………『力はパワーだ!』。よし、いってみよーーっ!」
コリン、出撃。
セコンドたちが戻ってくる。
この一戦、私には予感があった。
ダメだこりゃ、と。
足を使え、ショットは小さくと言っておきながら、なんだその力まかせな頭の悪い合い言葉は。
誰が悪い?
誰のせいだ?
悪影響の根源、爆炎の貴公子アーカードを見る。
すると彼は満足そうに、ウンウンとうなずいていた。しかも激流の蒼帝・蒼魔くんに、自慢気に語りかけていた。
若き皇帝陛下は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
蒼帝は爆炎の悪影響に苦虫を噛み潰している訳ではない。私は知っている。
蒼帝は『自分よりも影響力のある爆炎に、ちょっと嫉妬』しているのだ。決して悪影響を懸念している訳ではない。
そして、カラフルワンダーの薫風を受けた試合は………。
コリン、玉砕!
爆炎は立ち上がった。
「その意気や、よし!」
蒼帝もスタンダップ。
「その敢闘精神、天晴れなり!」
二人の頬を、激涙が熱く濡らしていた。それはもう、スポ根アニメの主人公のごとく。
そして二人は、この場面でもっとも振ってはならない男に、振ってしまった。
鬼将軍である。
偽りまみれの真っ白な軍服と、悪を象徴する漆黒のマントをひるがえし、堂々と宣言してしまったのだ。
「敗北に恥じるところなし! 一戦立たざるを恥じるべし! 陸奥屋の攻撃精神をよくぞ体現した! 評価は………抜群である!」
たぬきとアキラに肩を貸され、傷だらけで帰還するコリンに、場内から熱い拍手が贈られた。
試合場の掲示板を確認すると、コリンの退場は観客の八五パーセントが観戦していると表示されていた。
そしてその数字は、恐ろしい影響をイベントに与えたのである。
まさに悪魔の言葉だった。
無駄に稼いだ観戦数は、伊達ではなかったのだ。
コリンの予選敗退以降のファイトが、荒れに荒れたのである。
果敢な突撃。
飛び交う大威力魔法。
選手たちはクレバーであることを忘れ、勇猛を至上とするがごとく、熱く熱く闘い始めたのである。
逆転劇が生まれた。
下馬評を覆す、大番狂わせが発生する。
意外やまた意外の展開に、会場は熱狂の坩堝と化した。
「と、ここで冷静かつクレバーな振る舞いをするから、軍師って嫌われるんだよねぇ」
一戦を控えたホロホロだ。
ベルキラがその細く、たよりない首を揉んでいる。
私は大型のタオルで、我らが軍師を扇いでいた。
うがい水のバケツを提げているのは、たぬきである。
「………どう行く、ホロホロ?」
ベルキラが耳元で囁く。視線は敵のドワーフを捕らえたままである。
「敵の得物は戦斧だね。小回りが効かないだろうから、注文相撲。ショット&ランで痛めつけるよ」
「オーケイ、それで行こう」
私たちは小さな軍師を送り出した。
銅鑼が鳴る。
ホロホロは右に左に、細かく動いて的を絞らせない動き。
………のはずだった。
そう、客席から奴の声が飛ぶまでは。
「陸奥屋っ、突撃ーーっ!」
おーーっ! とホロホロが声をあげてしまった。悪魔の呼び掛けに理性を失い、得意の弓矢を放り出して短剣を抜いて駆け出したのである。
「あの阿呆がっ! ベルキラっ、なんとか言ってやれっ!」
私はベルキラに目をやる。
しかしベルキラは口許を押さえ、「知~らない」とばかりソッポを向いてしまっていた。
以前、ベルキラが言っていたのを思い出す。
ホロホロは意外に気が短く、かつ好戦的な一面がある、と。
「おそらく頭の回転が早いから気が短くて、誰を見てもチョロくしか見えないから一戦交えたがるのかもな」
そんなことを言っていた。
が、その血が今、この時に騒がなくても良かろうに。
つーか誰が悪いって、あのデビル野郎が全部悪い。
人の心を巧みに操り、誰も彼もを戦場に送り込む。
鬼将軍が全部悪い。
ホロホロは二次予選で姿を消すこととなった。