私、シャドウくんが嘘を言ってるんじゃないかとコッソリ疑う
二次予選三次予選のダイジェストは続く。
というか戦士部門においては、魔法部門の不振を払拭するような、陸奥屋一党の活躍。まさに真骨頂、あるいは面目躍如の結果である。
まずはジャック先生。剣を木剣にかえて三戦を勝ち抜き、トーナメント進出を決める。ゲーム世界では剣の軽さなど数値の差程度でしかないが、使う者が使えばその軽さと速度は歴然であった。
相対する剣士槍士たちが、なす術もなく撃ち据えられてゆくのだ。もちろん木剣は真剣ほどの威力はない………と、数値上でされている。しかしこれもまた、である。ジャック先生が使えばまさしく必殺の武器兵器となり、次々とクリティカルを獲得できるのだ。
続いてユキさん。
こちらは真剣でのファイトだったが、手堅いというなら手堅い勝ち方。まったく冒険することなく、小手撃ちから始まる基本的なコンビネーションをつなぎ、地力の差というものを見せつける。
もしかして、大技に頼らぬ勝ち方をするユキさんが、一番強いんじゃなかろうか? そんな疑問がわくほど、危なげもなにもない順当な勝利であった。
「でもマスター、ユキさんって相手の攻撃を剣で受けたりしないんだね?」
ホロホロがポショリともらした。
言われてみればそうである。一次予選二次予選を通して、ユキさんは剣で防御をしていない。便宜上、剣の下や剣の陰に隠れることはあるが、防壁としては利用していない。これはジャック先生にも言えることだった。
「刃を損じるからですよ、ホロホロさん」
背後からの解説は、シャドウである。私と同じく魔法部門で、二次予選を突破できなかった同士である。
「俺たちの家で継いでいる流派は、真剣実刀での斬り合いを前提としているから、剣を使った防御は極力避けるようにしてるんです」
「シャドウくんの流派って、介者剣術なの? 素肌剣術なの?」
介者剣術とは甲冑を身につけることを前提とした、いわば戦場剣術。素肌剣術とは戦国の世が終わり、剣の勝負が竹囲いの中、さらには道場の中へと移行した平和期の剣術を指す。
「一応戦国期以前からの伝とされてますが、たぶん嘘でしょうね。技に泥臭さがありません。だから正体はおそらく、素肌剣術だと思います」
「昔からの伝承が嘘だって言うの?」
「発祥がはっきりしてないんですよ。それこそ平安時代の皇室から発しているところから始まって、その警護役の………いわゆる大臣が相伝。そこから部下に広まって、民間へ流れたのが江戸初期………」
「ちょ、待っ、なんで皇室武術が民間に流れる訳? っていうか皇室に武術って存在するの?」
「だから嘘八百って言ってるんです。おそらく豪農が旅の武芸者から一手授かったものを編集して、つぎはぎだらけのでっち上げがウチの流派の始まりじゃないかと」
「うそ~~ん」
そんなでっち上げでも、ガッカリすることは無い、とシャドウはいう。
「何代宗家の時代かはわかりませんが、途中で大幅な改編があったものとされてるんです。この時に伝承しやすく、教授しやすくしたものが、現在残ったものですね。おそらくこの編集者が、本当の開祖ではないかと」
「それでも釈然としないなぁ。今あるものが編集されたものだなんて」
シャドウは笑う。
「それを言うなら中国武術はもっと豪快ですよ? 時代にあわせた編集はかなり大胆に施されていて、四千年続いたものはほとんど残っていないんです」
「がちょ~~ん………ホロホロさん、大ショックだよ」
「いいじゃないですか、お陰で技が残っているんだし。習いやすくもなっている」
シャドウ曰く、古来武術というものはある程度以上の学識がなくては、読み解くことすらできなかったものらしい。ただ単に剣を振り回したり槍をしごいたりという、安っぽいものではなかったそうだ。
「粗野な人間に好き勝手されたくないですからね。乱暴狼藉を防ぐための手段でもあったんです。変な輩に伝授して、金で奥伝を売られたくもありませんし」
「それっておかしくない? お金で奥伝を買ったとしても、簡単には身につかないんじゃない?」
「ホロホロさん、簡単に身につくから秘伝。すぐに役立つから奥伝って言ったら、大見得切りすぎですかね?」
シャドウの言葉に、ホロホロはむぅと唸る。
当然だ。
軍師の身からすればそう簡単に勝ちをおさめる技があっては、たまらないという所だろう。
「さあ、ホロホロさん。次の試合が始まりますよ」
その次の試合だが、カラフルワンダーのジジイが、面白くもおかしくもなく、三戦全勝を果たして幕となった。