私、ハイライトを語る
続いて戦士部門、二次予選の見所である。
マヨウンジャーからの挑戦者、ベルキラとモモ。ベルキラが一勝をあげるも、残り二戦を落とし姿を消す。モモにいたってはさすが本職………と思われる剣士に歯が立たず、三戦全敗。
陸奥屋二乃組三乃組、さらには一乃組ダイスケ、力士隊といった面々も消える。二次予選というのに、なかなかハイレベルなトーナメントであることが証明された。
そんな中での生き残り組。まずは本店の大矢参謀。こちらはひとつ星を落とすも、のこり二試合を勝ち辛くも決勝トーナメント進出を決める。
一乃組リーダー、ジャック先生は余裕の全勝でトーナメント進出への切符を獲得。
そしてアキラだ。
結果だけを言うならば、全勝でトーナメント進出が決定。
しかし、全勝をかけたファイトで問題の選手と当たった。
「相手も素手のファイターみたいね………」
コリンが唸る。
「それはいいんだけど、入れ込んだりしないか心配だよ」
私は私で不安を感じていた。
対戦相手は茶房『葵』店主、三条葵。彼女はアマチュアレスリングの青いレオタードに、黒のハイソックスとリングシューズという姿だった。
「それよりもマスター、私は二人の体格差が気になるよ」
ホロホロが指摘する。
アキラはホロホロやコリンと同じくらいの背丈、一五〇センチを下回っている。しかも痩身、手足がヒョロリと長く見える。
対する三条葵の身長は、確実に一六〇センチある。おまけにバストの張り、腰の肉付き、鍛えられた太ももはアキラをはるかに凌駕していた。
「拳か寝技か? こいつはイベント屈指の好カードだな。他じゃちょっと見られないぞ」
忍者は他人事のように嬉々としていた。
「掴まりゃ一瞬でアキラの負け。だけどリーチ差を埋めるためには、近づかなきゃならない。………さてアキラ、どうする?」
「あ、アキラのスピードが勝つに決まってるわ! レスラーなんて、目じゃないわよ!」
「一般的にはそう思われてるだろうけどな、デコちゃん。アマチュアレスリングってのは、そう軽く見たもんじゃないんだぜ」
ズバリと忍者は言う。
同じアスリートならば、同じように鍛えられている。
つまりボクサーもレスラーも、スピードに差は無いというのだ。
「もちろんボクサーはスピードに重きを置いている。だがその分レスラーはパワーに重きを置いている。今回の展望を語るなら、いかにアキラが先に敵を痛めつけるか? そこに勝負の鍵がある」
「先手必勝なら、アキラのものだわ。またたく間に茶房店主なんか、ボコボコにするんだから!」
「ところがどっこい、レスリングにはタックルっていう、厄介な縮地術があるんだ。簡単には踏み込めないぞ」
縮地術とはこの場合、間合いを一気に潰す法を指す。
「忍者って本当に嫌なことしか言わないのね?」
「戦事にキビシイこと言うのは、性分なんだよ」
どっちもどっちという忍者予想と、それを覆せないコリン。
二人の会話に、試合場からアキラが割り込んだ。
「二人とも、闘うのはボクなんだから。そこであれこれ話してても、あんまり意味は無いと思うよ?」
確かに、アキラの言うとおりだ。
私たちは結果を待つしかないのだ。
「まあ見ててよ………」
静かにアキラは言った。
「………必ず勝って帰ってくるからさ」
そして、開戦。
両者試合場中央へ。
アキラはデトロイト………いや、ヒットマン・スタイルで茶房店主の出方を待つ。
三条葵は前傾姿勢だが、姿勢は高い。
「………グレコだな」
忍者は睨む。
先日ジャック先生がアキラに語っていた、レスリングのグレコローマンスタイル。つまり上半身への攻めを中心とした、対武器戦闘レスリングだ。
「つまり三条葵はアキラの拳を、剣槍なみの間合いと踏んでるな」
「………………………………」
「………………………………」
私もコリンも、言葉を発せないでいた。コリンも同じ思いだろうが、いつアキラが抜くのか。その瞬間を目も離せずにいたのだ。
二人がジリジリと、ミリ単位で間合いを詰める。三条葵にタックルは無いとわかっているが、それでも何を仕掛けてくるか分からない。アキラの緊張感が、私たちにまで伝わって来た。
パンッ!
三条葵の顔が弾けた。
とてもではないが、アキラの拳が届くような間合いではない。
が、それでも届いたのだ。
「驚いてるね? なんでアキラの拳が届いたのか?」
私もコリンもコクコクとうなずくばかりだ。
「答えは簡単。アキラと三条葵の足元、見てみろよ」
忍者の解説に、試合場の地面を見る。二人の足元には、引きずったような足跡が残っていた。アキラは前進するように、三条葵は後退するように。
「鋭く踏み込んでジャブを撃ったら、三条葵が退いたってだけのことさ」
「それはわかるけど、しかし………」
「それはわかるけど? まるでアキラのジャブが見えてたみたいじゃないか」
見えていなかった。
それどころか………。
パンッパンッパンッ!
続いて繰り出される左すら、私の目でははっきりと捕らえられない。
ピシッという、これまでとは違う音がした。
「右が入ったのさ」
忍者が言うと、三条葵は膝を棒のように突っ張らせて、前のめりに倒れた。地面に額が当たる、ゴンッという音を立てて。
明確なダウンだ。追いつかなかった三条葵の体力ゲージが、ガタガタと減ってゆく。
「そのままだ、そのままゼロになれ!」
声に出して祈る。
しかし体力ゲージは、三分の一を残して減少を止めてしまった。
だらしなく垂れていた三条葵の腕に、力が戻る。地面を押して上半身を起こした。可愛らしい顔に泥がついていたが、それが彼女を絵空事の美少女ではなく、実在する美少女として演出している。
ガクガクと震えていたが、ゆっくりと立ち上がった。
「へぇ、倒れた相手は攻撃しないんだね」
三条葵は挑発するように言う。
「うっかり近づいたら、返り討ちに逢うからね」
アキラは左をゆらしたまま答えた。間合いは十分にとっている。
「スタンド&ファイトだっけ、ボクシングって? 面倒くさいよね」
「寝技に興味は無いからね」
アキラはジャブを撃たない。
いや、撃てないのさ。とは忍者の解説だ。それだけ三条葵は、油断なく構えていたのだ。
「じゃあアキラくん? こう構えたら、どうする?」
空手でいう後屈立ち。しかも拳を胸の前でクルクル回す、クラシカルボクシングの形を、三条葵はとった。しかも仰け反るように、顔をアキラから遠避けてだ。
「まずいな、これは………」
忍者がうなった。
何がどうマズイのか。
それは次回の更新で。
本日は二話更新。次の更新は昼十二時の予定です。