私、次々と試合を観戦する
総合と書いて『なんでもあり』と読ませる一戦。忍者の予選第一戦が終わった。想像はしていたが、想像以上にヒドイ一戦だった。
天狗をダシにした囮作戦。しかも自分は土遁の術とかホザいて身を隠し、不意討ち暗殺紛いの手段で相手を撤退させたのだ。
残る二戦も同じような展開で、敵が手も足も出せないうちに滅多撃ち。撤退の憂き目に逢わせたのだ。
「………ありかよ、こんなの」
私の素直な感想だ。
「あはは………運営は反則を宣告して、ませんから、ねぇ………」
ユキさんも返答しにくそうだ。
続く予選はホロホロとコリン。
陸奥屋スタイルを堅持し、ショット&ランでポイントを稼ぐ。特にホロホロは弓矢があり、ここ一番まで魔法を温存した。
一方コリンの闘いこそ陸奥屋スタイルで、遠距離では小さな魔法をコツコツと、嫌がらせのように。そしてその度に距離を詰め、白兵戦距離と見るや一気に槍を突き込んだ。
それでも魔法主体の高レベル者には星を落とし、二人とも二勝一敗。辛くも二次予選進出となった。
そして私たちに、試練の時がおとずれた。
そう、忍者の闘いにゲップの出ている私たちに、さらなる濃厚な味わいの闘いが並べられたのだ。
「魔法の妖精、パニッシュ・シャルローネ♪ みんなに笑顔をとどけます♪」
シャルローネさんだ。
うん、わかる。わかるよシャルローネさん。魔法の妖精だからフリフリふわっふわなドレスなんだよね?
でも優等生なキミのことだ。絶対パニッシュの意味、知ってるよね? 処罰するって意味だって。それで魔法の妖精ってのはオジサン納得いかないけど、キミはそれで納得しろというのかな?
しかも魔法少女特有の無駄なアクションで名乗りをあげて、その最中にツララで魔法攻撃してるって極悪以外のナニモノよ? それで笑顔をとどけるのか? とどくのか、笑顔?
って、数多あるツッコミを順番に処理してる最中に、メイスで敵の頭ブン殴るんじゃないよ! ってか今、すごい音したぞ? パグシャアって! 島本和彦みたいな音!
だから魔法のバトンを扱うみたいに、凶器メイスを振り回すなーーっ!
「悪のはびこるその場所に、パニッシュ・シャルローネの姿あり! 成敗・完っ了っ!」
あの………相手選手は別に、悪いことしてないんですけど………。
私の心のツッコミをよそに、パニッシュ・シャルローネは御機嫌で二戦目に突入する。
そう、誰も止める者無いままに………。
「………爆炎?」
「なんだい、マミヤさん?」
私は魔法の師匠であり、彼女の仲間である爆炎に訊いた。
「シャルローネさん、なにか面白くないことでもあったのかな?」
「いや、そんなことは聞いてないけど」
ただ、と爆炎は続ける。
「陸奥屋の大将が総合部門に出るって聞いてから、あれこれ練習してたみたいだけどな」
「あー………」
やっぱりアレが原因か。ウチの総裁、鬼将軍が原因か。
ならばシャルローネさんの凶行を、あまり責めることはできないだろう。
誰に気兼ねすることなく、誰からも咎められなくなったシャルローネさんは、黒光りするメイスにさらなる輝きを与えて三戦を全勝した。
お口直しという訳ではないが、ここで執事さんが登場。
「おぉ………」
ユキさんが感嘆の声をもらした。
「うむ」
私も納得の声を止められない。
ズチャリ、とモカシンを鳴らして入場して来た執事さん。実になんというか、こう………雰囲気があった。強者の雰囲気だ。そう、敢えてキャッチを陳腐につけるなら、殺しの執事であろうか。
そして改めて思う。
あぁ、やはりこの人は鬼将軍の盾になる人なんだ、と。
凄むでなく、騒ぎ立てるでなし。ただ淡々と老執事はルール説明を受け、自軍へと引き上げてくる。
「いけそうかね?」
控えにいた鬼将軍が問う。
「御館さまの御要望次第で、如何様にも調理が可能かと」
老執事は厳かに頭を垂れた。
敵は少女。しかもホロホロやコリンが黒星を喫した、戦闘系魔法使いだ。陸奥屋にとって分の良い相手ではないのだが、老執事は大変に落ち着いていた。
銅鑼が鳴った。
老執事は頭をひとつ下げる。
「よろしくお願いいたします、お嬢さま。陸奥屋の一員として、最大限のおもてなしをさせていただきます」
敵はすでに呪文の詠唱を始めていた。
しかし老執事は何事もないかのように、悠然と歩をすすめてゆく。
「これはこれは、大変にせっかちなお嬢さまですな。なにもそう急がれなくとも、この老体。逃げも隠れもいたしません」
そう言って、パチンとスナッブ。白手袋をはめているというのに、鳴り響く指先。
「ヒッ………」
敵の魔法少女は、怯えたように身をすくめる。
迫力を感じているのだろう。というか、完全に飲まれている。
「怯えていては闘いになりませんぞ? 遠慮はいりません、この老体に魔法のすべてを叩き込んでくださいませ」
魔法少女は、ふたたび呪文を唱えはじめる。
そこに、スナッブ。図太いくせに、美しく鳴り響くスナッブがバチーンと………。
またも呪文が止まる。
執事は歩みを止めていない。距離はみるみる詰まってゆく。
「仕方ありませんな、そちらから手を出してこない以上、私から先をとらせていただきますよ?」
老執事は指先をスナッブに備えた。
窮鼠、猫を噛むの例え通り。魔法少女はステッキを振りかざして突っ込んでくる。肉弾戦だが、二人には体格差がありすぎた。無謀としか言いようがない。しかし魔法少女には、それしか道がなかったようだ。
かかりましたな、お嬢さま。
そんな声が聞こえてきた。………ような気がした。
スナッブ。
同時に現れる、宙に浮遊した無数のナイフ。
ヒュッと老執事は、短く鋭く口笛を鳴らす。もしかするとこれは、詠唱を短縮化した呪文ではなかろうか?
ナイフの群れが魔法少女を襲う。フリフリヒラヒラな衣装を切り裂き、柔肌を露にし、少女を大の字にするように手足を貫き、試合場の壁へ磔にした。
「あまりこのような趣味はございませんが、これも執事のつとめですので………」
正装の上着の内側から、執事は鞭を引き抜いた。ゾロリ………そんな擬音がよく似合った。
そして………。
パアァァンッ!
鞭が弾ける。衣装の破片も飛び散り、魔法少女が悲鳴をあげる。
ただの一撃で、少女は力尽きたようにうなだれる。
おかしい。体力ゲージはまだ、たっぷりと残っているではないか。それなのに………。
「いかがでしょうか、お嬢さま。これが私めの技、甘美の鞭にございます」
なんだその怪しげな名前は。
「このゲーム世界では、ダメージをバイブレーションで表現しておりますが、このバイブレーションを特定の雰囲気で与えられますと………あら不思議。たちまち虜になるのです」
いや待て、執事さん。
肝心の部分がまったく説明されてないぞ。
それはつまり、鞭で打たれれば打たれるほど、何らかの力の虜になるということなのか?
「ここで棄権を申し出ることは、恥ではありません。さもなくば、お嬢さまは『大変にはしたない姿』を、世界配信することになります故………」
大変にはしたない姿とは、一体どういうものなのか? 是非とも実践、そして展示してもらいたいところだったが、相手の魔法少女が棄権を申し出てしまった。
老執事の次なる対戦に期待するところ、大である。