私、忍者の非道を見る
私たち陸奥屋一党と、カラフルワンダーの戦士部門予選が終わった。全員揃ったところで、総合部門の会場へと移動する。
会場入口で選手たちと別れ、私たちは観客席へ上がる。さすがに最大参加人数だけあって、客席もかなり埋まっている。
で、よその選手の闘いを眺めながら、ウチの選手の出番を待つ訳ではない。席に着いたらカラフルワンダーもふくめ、陸奥屋一党で登録。するとアラ不思議、試合場には陸奥屋一党………カラフルワンダー含む………の選手たちしかいなくなるじゃありませんか。
しかもしかも、なんということでしょう。仲間の応援に来た訳ではない、フリーのお客さんたち。彼らが一斉にチャンネルを切り替え、陸奥屋一党のファイトを観戦しているじゃありませんか。
それは私たちの視界の片隅、ただいまの閲覧数がピロピロと上昇しているのでもわかる。なんとも話題性のある集団というか、放っておいてもらえない集団というか。とりあえず、悪目立ちしていることだけは、ハッキリしている。
選手として試合場に降りているので、コリンがいない。シャルローネさんもいない。かなめさんもいないし、執事さんもいない。私としては、少々手持ち無沙汰感がある。
「いやだなぁ、マスター。ボクやベルキラさんがいるじゃないですか♪」
「そうだな、アキラ。私には頼もしい仲間がいたんだ。ではアキラ、総合部門で予想される展開と、見所をキミならどこにする?」
「へ?」
「もちろんアキラなりの考えでかまわないよ?」
「ユキさん、タッチ!」
「ほえっ? わ、私?」
突然振られたユキさんは狼狽えるが、すぐに剣士の眼差しを試合場に向ける。
「詰まらない見解かもしれませんし、剣士の視点に偏ってますけど。やはりまずは魔法を避けること、それからどうやって魔法の間合いを潰すか? この二点は見所でしょう。間合いを潰してしまえば、白兵戦の陸奥屋です。負けることはありません。逆に言うと敵からすれば、いかにしてケンカ陸奥屋を近づけさせないか? 魔法の技量が試されるところでしょう」
「なるほど、まずは基本中の基本を押さえて観戦するということですね? では基本から外れたメンバー、鬼将軍、御剣かなめ、あるいは忍者に関して。何かコメントはありますか?」
「はい、私が解説できるのは、あくまで人間相手です。人間じゃない連中のコメントは、父………ジャック先生におまかせしたいと思います」
うん、そうだよねユキさん。キミは常識人、あんな人外の解説は無理というものだ。
そんな話をしていたら、陸奥屋一番手が試合場に足をすすめて来た。
忍者だ。
「………いきなりメインエベンターですね、ユキさん」
「ちょっと頭痛がしそうです………」
「これは陸奥屋サイド、なにを意図してのことだろう?」
「もちろん本人たちから聞いた訳じゃないので、確証はありませんけど。………今回のイベントにはホロホロやコリンといった、年若いメンバーもいますから。彼女たちのお手本としての出撃じゃないでしょうか?」
「忍者にしては、ずいぶんと仲間思いですね」
「かなめさんに命じられたんだと思います」
あぁ、なるほど。
変に納得してしまった。
「だけど忍者で手本になるのかねぇ? あまりにも超人技を使われたら、ウチのメンバーでは参考にできないよ?」
「割りとチャチな忍術を使うと、私は予想するかな?」
「ほう? 具体的には?」
私たちでも参考にできる程度の、チャチな忍術。それは少し興味がある。
「例えばマミヤさん、試合場の忍者を見てください」
「ほい?」
「何か違和感がありませんか?」
「………違和感」
忍者をよく見る。
………よく見る。
よく見る。
と。
「縮んでるね、忍者」
「縮んでますよね、忍者。あれはおそらく、忍者装束を着た天狗でしょう」
「天狗? それはわかりますが、ユキさん………」
「はい」
「本物の忍者は、どこですか?」
対戦相手の入場。
ローブ姿の魔法使いだが、杖の先が槍になっている。白兵戦上等! な魔法使いと言える。
ルール説明を終えて、両者それぞれの陣営に別れる。
そして開幕の銅鑼。
いきなり小忍者こと天狗が姿を消した。
私にはわかる。あれは指環に戻された時の消え方だ。
しかし魔法使いも落ち着いたもの。槍兼魔法の杖をかまえて、辺りを警戒している。
「まあ、無駄な警戒心なんだけどね」
「そうなんですか?」
ユキさんは天狗が指環に戻されたのを、理解していないようだ。
そのことを説明する。
「はあ、つまりこの試合場に、小忍者天狗はもういないってことですか?」
「そう………いま試合場にいるのは武闘派魔法使いと、忍者だけです」
その魔法使いを包むように、土埃砂埃が起こった。魔法使いの姿が見えなくなる。
観客席がどよめいた。
「なんだこりゃっ!」
「うわっ、砂埃だ!」
「魔法使いはどこだっ!」
土埃の中から、魔法が発射された。が、ハズレだろう。およそ人間をねらう角度ではないし、砂埃の中から観客席に届いてしまったからだ。
二発………三発………。
魔法は間隔が開いて、ついには発射されなくなった。
土埃が晴れてきた。
人影がうっすらと見えてくる。
しかしその人影がハッキリ見えたとき、客席から悲鳴があがった。
魔法使いの全身に手裏剣………いわゆるクナイが、無数に撃ち込まれていたのだ。
人影がゆっくり倒れた。そのまま姿を消してゆく。
撤退だ。
無人の試合場に、忍者の勝利がコールされた。
「マミヤさん」
「なんでしょうか、ユキさん?」
「総合って書いて、なんと読みますか?」
そりゃ総合としか読みませんが。
「私は総合と書いて、総合って読みますよ、今日からは………」
確かに、姿なき勝者の闘い振りは、なんでもありと呼ぶのに相応しい闘いであった。