私、ジジイの強さを見る
本日も二話更新。午前11時に二話目を更新します。
華麗なる勝利であった。いたずらに敵を傷つけるでなく、格の違いを見せつけた上で参ったを言わせる。白銀輝夜と剣の在り方を示す闘いであったと言えよう。
それだけの美技妙技を目の当たりにしたというのに、コリンはどこか面白くなさそうだ。
「ちょっとマミヤ」
不機嫌丸出しの声だ。
「なんだか槍使いが負けすぎじゃない?」
こっそりと、気づかれないようにクスリとだけ笑う。
「なによ? アタシの不機嫌がわからないの?」
気づかれてしまった。
「いや、そうじゃないよコリン。いつまでも子供だと思っていたのに、もう一端の槍使いじゃないか」
「なによそれ?」
「だからさ、自分の得物が負ける姿を見て不機嫌になるなんて、本当に槍を好きになったんだな、と………」
「し、仕方ないじゃない! アタシはチビこいから大兵器に頼らなきゃならないんだから! ………でも、そんなこと言ってんじゃないわよね?」
「あぁ、自分が選んだ得物を好きになれるっていうのは、こうした世界では大切なことだと思うよ。実際のところ私もステッキ術が、稽古を重ねるごとに好きになるしね。もっとみんなも、このただの棒っ切れがサムライの剣に勝るとも劣らないということに、気づいて欲しいと思ったりもするさ」
「なによ、アンタだって自分の得物が大好きなんじゃない」
「私がステッキを嫌いだなんて、一度でも言ったかな?」
「何よもう、バカ………」
何故この娘は、ここで赤くなるのか? 私には全く理解できなかった。
しかし執事さんの言葉が、私を現実に引き戻す。
「マミヤさま、コリンさま。いよいよ翁の出陣ですぞ」
そうだ。
カラフルワンダー最強の剣士、翠嵐の伯士。緑柳の登場である。
「………なんだか頼りないわね」
コリンの感想は、そっくりそのまま私の感想でもあった。
伯士はヨボヨボ、さらにはフラフラ。どうにもはっきりとしない動きだ。
だが、セコンドにはシャルローネさんがついている。
敵は戦斧のドワーフ。かなり大柄で筋骨隆々。ちょっと現実世界では、プロレスラーにも存在しないくらい逞しい肉体だ。
大人と子供の体格差。
いや、違うな。
もう少し差を詰めて、大人の男と女の子くらいの体格差であろうか?
とりあえず見た目で、パワーの差は歴然である。
この体格差、体力差を、翁はどのように埋めるのか?
運命の銅鑼が鳴る。
ドワーフは勇ましく戦斧を振り回し、それから前に出た。対する翁は和服に袴で刀に手もかけず、静かに前に出てゆく。本当に散歩にでも出掛けるような、そんな何気ない足取りだった。
二人の間が詰まる。
ドワーフはまだまだ勇ましかったが、不意に足を止めた。
アキラの時と同じか?
いや、違う。アキラはジャブで相手を退けた。しかし翁は何をするでなし、ただノンビリと歩いているだけだった。
「………とどく」
誰かがもらした。
声の方に首をめぐらすと、怖い顔で試合場を睨みつける、忍者がいた。
「届くって、いいました?」
忍者に問う。
「あぁ、あんなところにいたら、翁の刀の餌食になるぞ」
いや忍者、何を言ってるのかな? 二人の間合いはゆうに二足一刀。うん、それ以上はある。つまり通常ならば、継ぎ足しても何しても届かないような間合いなのだ。
だがドワーフは、飛び退くようにしてさがった。
「ほらな?」
ほらな?って、忍者。
届きもしない間合いで、何故ドワーフが逃げるのか。そこを説明してもらいたいもなのだが。
と、翁がヨボヨボと間を詰め、またもやドワーフが飛び退く。そんな展開がもう一度、二度。
「いかがなされた、お若いの。こちらは老いぼれ、そんなに離れてもらっては歩いてゆくのも大儀よ。ほれ、もそっと近くへ………」
翁は入れ歯を気にするように、ムニャムニャと呼び掛けた。そのムニャムニャ感は楽しくもユーモラスなのだが、忍者などは舌打ちして不快を露にしていた。
確かに、年末のチャレンジイベントで陸奥屋一乃組が挑んだとき、翁はジャック先生相手に居合の凄味を見せつけてくれた。達人であることは確かだ。
だがしかし、物理は絶対だ。あの高齢者にあの間合いは厳しいと思う。
「フッ………マミヤさんもデコちゃんも、さっきかなめ姉ぇの話、なに聞いてたんだい? 高齢者でも物理の壁を突破できるから、『術』って呼ばれるんだぜ」
事実、埋められないはずの間合いを、翁は難なく詰めてみせた。