私、戦士部門の幕を開く
本日も二話更新。11時に、もう一話をアップします。
血と肉の祭典、戦士部門の開幕である。我々マヨウンジャーからは、アキラ、ベルキラ、モモの三人が出る。
が、先鋒はまず本店の大矢参謀にゆずった。参謀の予選ブロックは、参謀だけが試合をしていなかったからだ。
つまり大矢参謀からすれば、スタミナの浪費をおさえるためにも短時間で勝って、予選を通過したいところ。
が、敵もさるもの。
粘りに粘られなかなか決着つかず。どうにか初戦をもぎ取った、という形。
続く二戦目は、あっさりと一方的な勝利。どうやら敵は戦闘未経験者らしく、ゲームの中で配布されるスキルからしか技を繰り出さなかった。
「玉石入り混じりよね」
コリンの言う通りである。その玉が現れたときが大矢参謀の敗北だろうと、私も思う。
幸いにして、大矢参謀のブロックに玉はいなかった。最後の相手は槍使いだったのだが、これがまた酷い。いきなり必殺技を撃ってきて、参謀にかわされるや背中を見せて逃走。必殺ゲージがたまるや再び必殺技。また逃走という、やる気があるのか無いのかわからない闘い方である。
「マミヤ、必殺技のゲージってものがあるのね? 初めて知ったわ」
「知らなかったことを恥じ入ることはないさ、コリン。実は私も、いま初めて知った」
考えてもみれば、私たちは陸奥屋一乃組で修得した技ばかり使っていた。それ故に必殺技ゲージにたよった闘い方を、したことがない。
コリンの龍尾槍などは、確かにスキルとして授かったものだ。だが普通の選手はそれを、コマンド入力のような『条件作動』をさせるだけ。
しかしコリンは違う。基礎から練り上げた槍術で龍尾槍という技を反復練習し、角度を変えたりタイミングをズラしたりと工夫し、キッチリと身につけた技なのだ。スイッチを入れたらオートで発動するような、安っぽい技とは違うのだ。
だから私たちは、あんなゲージなど気にも止めていなかったのである。
で、大矢参謀。間を詰めて攻撃、逃げられても間を詰めて攻撃という、焦れったい展開を我慢しての一本勝ち。結果的にはパーフェクトだが、ようやっと手にした勝利であった。
というような形で、戦士部門はダルな展開が大半を占めた。陸奥屋二乃組三乃組もそういった意味で苦戦するが、なんとか三戦全勝である。
そしてダルな空気を吹き飛ばしたのは、陸奥屋一乃組ユキさんである。
眼鏡で、少し地味な一本おさげ。そんな娘が腰に日本刀をおとして現れたのだ。観客も視線に、グッと力を入れる。
敵は槍。苦戦は必至と誰もが思っただろう。しかもユキさんは下段に構えていた。待ちや受けの構えだ。
観客席から落胆のため息がもれる。
が。
槍が音を立てて、地面でバウンドした。観客の中に、見えていた者は何人いただろう。ユキさんが槍を『巻き落とし』たのである。さらにその槍をとられないよう、足で踏みつけながら間を詰めて………。一方的な惨殺ショーであった。まったく無抵抗、無力化された選手がただただ殺害されたのである。
技が違う。
モノが違う。
ゲーム、ドグラの国のマグラの森の中に、本物が登場した瞬間であった。
そして力士隊。
押さば押せ、引かば押せの精神のとおり。敵が攻めてこようが守りに入ろうが、攻めて攻めて攻め抜いての勝利。まさしく陸奥屋魂の具現化とでも言おうか。傷だらけの全勝である。
モモはトゥイックタバック………いわゆるヌンチャクで登場。黄色地に黒くラインを入れたトラックスーツという出で立ちに、もらすような笑いも起こったが………。ファイトが始まるや観客の笑顔も凍りつく。
普段はおっとりお姉さんのモモだが、剣も槍も足だけでかわす。そして敵の得物にヌンチャクを巻き付けるや、動きを封じたところで蹴る! 蹴る!! 蹴る!
場合によっては寝技に持ち込んだり、ほどいたヌンチャクで徹底的に殴るなどして、三戦全勝を獲得した。
「陸奥屋一党の懐の深さ、思い知ったか」
鬼将軍も満足そうにうなずいていたが、内心では予想外の強さだったのだろう。少しばかり冷や汗がにじんでいる。
ベルキラの勝利も危なげなく、キッチリと実力を発揮。武器と柔を上手に入れ換え、最後は寝技で仕留めるという古戦場の手を披露した。
そしていよいよ、若手最大の注目株。
アキラの登場である。
会場が妙に沸いた。
もしかするとアキラは、ゲーム世界でそこそこ知られた選手になったのかもしれない。
冬のイベントではマヨウンジャーの一員として、一度も撤退することなく、春のドラゴン狩りではキッドニーブローで龍を痛めつけたのだ。
そして何より、普段の闘技場でマヨウンジャーのポイントマンとして活躍している。観客の中には、アキラにずいぶんと苦しめられたプレイヤーもいるはずだ。
武器の携行が認められた戦場に、無手のアキラが真紅のブルマー姿で入場。鬼将軍も拳に力を込めて立ち上がるほど、熱く熱くなっていた。