私、予選三戦する
いつもの闘技場よりは、ひと回りふた回り狭いだろうか? 試合場が手狭に感じる。考えてみれば、それは当然のことかもしれない。今日は十二人が入り乱れたファイトではないのだ。そんなに広い空間は必要ではない。
対戦相手はレベル11と、なかなか手強そうな魔法使い。ローブに帽子、いかにも臭い魔法の杖で武装して、首からは魔法防御のアクセサリーをぶら下げている。
私は相手の指に目をやった。指環ははめていない。つまり彼女は………対戦相手は女性である………私のような激レアアイテムや、シャルローネさんのような反魔法アイテムは持っていない、ということになる。
さてそうなると、魔法キャンセルのアイテムが障壁となるのだが、ひとつひとつ剥がすか一気に丸裸にひん剥くか。そこが問題である。
「キャーーッ! マミヤさんガンバってーーっ!」
「そんな娘、目じゃないわーーっ!」
「瞬殺よ瞬殺ーーっ!」
ガラガラに空いた観客席から、黄色い声援が飛んで来た。あまり見たくはないのだが、かなめさんと冴さん。それにメイドさんがチアのユニフォームでポンポンを振り回しながら、熱い声援を送ってくれていた。
見た目には成人女性。しかもとびきりの美人。だからこそかなめさんたちの応援は、痛々しかった。
よし、圧縮ファイヤーボールで一気に丸裸だ。
私は固く心に誓った。そうでなければ、いつまでも陸奥屋の胸痛む光景を、世間に晒すことになるからだ。
やはりチアは、若い娘に限る。だからマヨウンジャー女子部、あるいは一乃組女子部。もっとかなめさんたちが目立たないように、奮起してくれないだろうか。
試合開始の銅鑼が鳴る。
敵も速攻を考えているようだ。呪文詠唱に時間をかけている。私の圧縮ファイヤーボールの方が早い。まずは一発投擲。ペンダントの効果で、私のボムはキャンセルされた。しかし二発目がある。今度はネックレスに阻まれた。
相手はレベル6の私が、ボムのような魔法を使ったので、目を丸くしている。しかしそこは歴戦。私のファイヤーボールの隙をねらって、範囲魔法を飛ばしてくる。
だが単発。
効果は高く範囲も広い魔法なのだが、いかんせんオーバーキル。団体戦の範囲魔法そのままなのだ。つまり、一生懸命走って逃げれば、なんということのない魔法でしかなかった。
敵の攻撃は単発。しばらくは魔力充填に時間を費やす。その間に私は火の玉改を一発。敵の動きを止めておいて、残りのファイヤーボールを連続で叩き込んだ。
割りと呆気なく、『勝負あり!』の声を聞いた。試合時間は、三〇秒もかかっただろうか? リクエスト通りの瞬殺である。
またまた観客席から黄色い声援が届く。今度は私も気持ちに余裕を持って、振り返ることができた。マヨウンジャー女子部、フィー先生といった小柄なところが最前列に並んで、ピョンピョンと跳ねている。その後ろにユキさんと小柄なメイドさん、さらにベルキラ。………どうやらかなめさんたちは、後方に控えているようだ。
よかった。
本当によかった。
やはりチアのユニフォームは、若い娘が着てこそのものなのだ。
改めてそのことを実感する。
そして予選は連続して行われた。
次も高レベルの対戦相手。なんとレベルは18。私からすれば、見たことも聞いたこともないレベルの選手である。
しかし。
こちらの魔法使いもまた、アクセサリーでゴテゴテと武装していた。本当に君たち、カラフルワンダーや陸奥屋の方針と正反対にいるのね?
そして機動力の無さときた日には、一戦目の娘と同じ。まさしく『動かない標的』でしかないのだ。
今度は火の玉改でひとつずつ、ディフェンスを削り落としてゆく。圧縮ファイヤーボールで丸裸もいいのだが、敵の様子を観察するのが目的なのだ。
するとアクセサリーを失った敵は、霧のような魔法で防御を始める。なるほど、私の火の粉のように防御魔法として、霧を活用しているのか。
ならば。
防御壁としてそびえる霧だが、回り込めば死角だらけ。脚を使って回り込み、そこにも霧の幕を張らせてさらに回り込み。
敵はじり貧。一方的に魔力を消耗してゆく。私は脚を使うだけで、魔力の消費は無い。
そして大きな魔法を使えなくなったところで、効果の消えた箇所へ逆戻り。火の玉改をふたつ撃ち込み、圧縮ファイヤーボールの連打。一気に勝負をつけた。
むしろ強敵は、予選三戦目。レベル9の相手である。こちらは私同様、脚を使って魔法を撃ってきた。それも弱魔法の連発である。
こうした選手を、アキラなら『ボクサータイプ』と表現するだろう。
ただしこのボクサー魔法使い。ジャブの命中率が悪く、単純な弱魔法でしかなかった。
私のジャブは相手からすれば、すべてストレートパンチ。一発もらうだけで、大ダメージを被る凶悪なものだった。
せっかく機動力を活かした魔法使いではあったが、火の玉改のみの攻撃で沈むことになる。
とりあえず三戦全勝という成績で、私は第一次予選を突破した。