私、出撃する
翌日、予選の組み合わせが発表された。私は8Bというブロックに入っている。どうやら1Aからはじまり1Zに至り、2Bが始まるという形で8Tまでブロック分けされているらしい。
各ブロック総当たりで、上位二名が第二次予選に駒をすすめるらしい。
「………って、第二次予選?」
「なに驚いてんのよ?」
コリンがこまっしゃくれた顔で私を見る。
「マミヤ、アンタ聞いてないの? 昔のカラテの世界大会じゃ………」
「それは聞いてるさ。聞いてなかったのは、予選に二次があるってことだ」
「アンタねぇ、参加者八〇〇名で予選がこのルール。それで二〇〇名に絞るんなら、予選が二回あるに決まってるじゃない?」
「それはそうだが、しかし………」
騙された気分に変わりはない。
「いつまでもブーたれてたら、総合部門の予選の苛酷さを教え込むわよ?」
「あ、いや………悪かった」
とりあえず私の身辺は苛酷である。その上さらに苛酷な話題などノーサンキューだ。
「ちなみにマスター、ファイトの観戦可能ってありますから、みんなで応援し合いましょうね!」
アキラはえらくポジティブだ。おそらく闘技場で大活躍する未来しか、目に浮かんでいないのだろう。
いや、それより。
「アキラ、そうなると魔法部門に出場するのは私一人で、メンバー五人が揃って私のファイトを観戦することになるのだが………」
「すごいですね! これで陸奥屋一乃組とか本店とか集まったら、大応援団ですよ!」
やめてくれないか、そのような小っ恥ずかしい真似は。というかそれは、どんな公開レイプかね?
「それでしたらぁ、女子部はユニフォームと振り付けを揃えた方がぁ、格好いいですよねぇ♪」
モモ、君は振り付けを揃えられるのかい? おじさん物凄く不安なんだけど、君だけワンテンポ遅れた振り付けで踊ってしまわないかどうか。
「だがしかし、モモ。そうなると応援する相手は、マスターだけじゃなくなるな」
ベルキラが不安要素を提示するが、お前の不安はそこなのかよ、とツッコミたくなる。
「そうね、マミヤの応援だけじゃなくなるんだから、スケジュール管理が必要よね」
いつの間にかコリンまで、応援賛成派となっていた。一番強硬に反対しそうな娘なのだが………。
「そうそう、スケジュール管理だよね? ちょっと打診してみようか?」
「誰にだ、ホロホロ?」
ベルキラが問うと、盗賊の妖精は片目をつぶって指を立てた。
「困ったときには、かなめさん。やっぱり大人に頼るのがいいと思うの」
ということで、陸奥屋本店の美人秘書にアクセス。すると半透明の御剣かなめが現れた。
「驚くんじゃないわよ。最近実装された、ホログラム通信よ」
「あ、そうなのか」
それはそれとして。
ホロホロがかくかく然々と、美人に事情を説明する。
「あら、それは偶然ね♪」
かなめさんは顔をほころばせる。
「実は陸奥屋女子部全体で、チアをやろうって話になってたの。大丈夫、ユニフォームと振り付け、それからスケジュール管理はまかせておいて♪」
「すみません、甘えさせていただきます」
「振り付けはデータをインストールすれば、誰でも踊れるようにしておくから、練習の必要は無いわ。わからないことがあったら、なんでも訊いてね?」
ということで誰ひとり止める者も無く、陸奥屋チアリーディング作戦は決行と相成った。
そう、三十路手前の御剣かなめや厳ついベルキラ、男前な忍者を含んだチアリーディング作戦が………。
予選当日。
私たち陸奥屋一党は闘技場受付前に、長蛇の列を作っていた。
今日は土曜日、間もなく定刻の二〇時。
我らが総裁鬼将軍の掛け声に、待ちぼうけた群衆が唱和する。
「8時だよ!!」
「全員集合ーーっ!」
待ちやがれ!
お前ら全員、ちょっと待ちやがれっ!
お前ら本当に、いつの時代の人間よっ?
だがしかし私の疑問もよそに、群衆はあるメロディーを口ずさむ。
♪ちゃんちゃちゃらんちゃん・ちゃんちゃちゃらん♪ ちゃんちゃちゃらんちゃんちゃちゃらちゃらん♪
ちゃんちゃちゃらんちゃんちゃんちゃちゃらん♪ ちゃんちゃちゃらちゃらちゃら~~ん・ちゃん♪
鬼将軍が拳を突き出す。
「それじゃあそろそろ、行ってもいいかな!」
群衆はまたも、唱和した。
「いいとも~~っ!」
「番組が違う」
シャドウが静かにツッコんだ。
もちろんその程度で、鬼将軍に狂わされた群衆が立ち止まる訳がない。
ちゃらっちゃ~~ん♪
ちゃっちゃっちゃらっちゃっちゃっちゃちゃららん♪
エンヤ………
これ以上は著作権に抵触するので、詳細な表記は控えさせていただく。
だがあえて言わせてもらうならば、かなめさんと冴さんのデュオに『ピンク・レディー』というテロップを入れるのは、如何なものだろうか? そしてホロホロ、アキラ、フィー先生の三人に『トライアングル』というテロップは、どうさ? で、コリンが高田みづえって誰さ?
OPセレモニーが終わった。鬼将軍の「よろしく~~っ!」という言葉で締められたのだ。大喝采の中終わったことにされたオープニング・セレモニーだが、そんなことはどこ吹く風とばかり、私たちは闘技場にインする。
予選試合は魔法、戦士、総合とそれぞれ同時に開催されるのだが、陸奥屋先鋒は一番参加者の少ない、魔法部門に目を注ぐ。
「インの時間は開催時刻内ならば、いつでも良いと聞く! そして対戦相手もインしていたなら、即座に戦闘開始だ!」
鬼将軍が、改めて状況を確認する。
「かなめ君、陸奥屋の対戦相手は揃っているか!」
「魔法部門、同志マミヤの対戦相手が、存分に」
「よし、それでは同志マミヤ! 出撃せよ!」
「ラッセーラッ!」
ねぷた協会から苦情が来そうな掛け声で返事してしまう。いや、それ以外に陸奥屋の急先鋒とは、これってどうよ?
そうは思っていたのだが、試合は私を待ってくれない。
心の準備もそこそこに、私の戦闘開始である。