私、まで、出場が、決まる………
本日二本目です。
真夏の祭典、G1クライマックス(笑)は個人戦で頂点を決める大会だ。
部門は三つ。
魔法部門、戦闘部門、総合部門。
我々迷走戦隊マヨウンジャーからも、最低三人は出場させたいというのが、軍師ホロホロの意向。そして早速戦闘部門に、アキラが出場を表明した。
のだが、モモさんがいらないことをホザきやがってくれました。
「マスターの魔法戦が観たいですぅ」
それは私に、死んで来いと言ってるんですか?
というのが、前回までのあらすじ。
「そうね、マミヤが出るならアタシも出てみようかしら?」
コリンが手を挙げる。
「アタシが出るのは総合部門よ。武術も魔法も中途半端だから」
「コリンが出るというならというのではないが、実は私も出場してみたいな」
ベルキラも手を挙げた。
「私はアキラと同じく、戦闘部門を希望する」
ベルキラの言葉に、アキラがピクリと反応した。いや、私ごときでも感じられるほど、殺気を露にしている。
「………ベルキラ姐さん」
アキラがベルキラのことを、姐さんと呼ぶのは初めてだ。
「ベルキラ姐さん、それはそちらが………ボクに殺られても文句無し、ってことで………よござんすね?」
「ふざけるなアキラ、お前の首が落ちるかもしれないんだぜ?」
「へぇ………面白いことをおっしゃる」
「私からすれば、お前の慢心こそ笑止千万だ」
片や拳闘、片や柔の道。
種目は違えど、どちらも一歩も譲らぬ構えだ。
「今日からは、敵同士だな」
「馴れ合う気なんか、毛頭ありませんよ」
どちらも半開きの眼差しで、お互いの姿を捕らえ合う。たまりかねたホロホロが、ハリセンを用意した。
「ホロホロ」
鋭くベルキラが言う。
「ちょっとだけ、わがまま言うぞ。………今日からアキラは………敵だ」
「コリン、さがってて」
アキラの声も鋭い。
そしてコリンもハリセンを引っ込めた。
「コリン、ベルキラさんはボクが適当な態度で倒せるほど、ヤワな相手じゃないんだ」
火花が散る。
殺気という名の火花だ。
だからこそ、私は前に出なければならない。
「こらこら二人とも。お互いを意識して高め合うのはかまわないが、ギルドをギクシャクさせてどうする。まだ二人が対戦するとは、決まってないんだぞ?」
「………あ」
「………済まなかった、マスター。なにしろこのチビ、あまりにも油断ならない相手だから」
「実はマスター、ジャック先生の一手を授かっているのはボクだけじゃなくて、そこの唐変木も授かってるから、つい………」
すごいな。
ライバルというものは、こんなにすごいものなのか。
お互いに今この瞬間でさえ、「あいつに勝ってやる」と闘志を燃やし、成長しているのだ。
それは言葉の端々にあらわれて、私の皮膚をビシビシと刺激していた。
すると突然、ホロホロが笑い出した。
「あらまあ、そうなると私はコリンのライバルってことになるね?」
「なによそれ、どういうこと?」
言ってからコリンは、ハッと気づいたように、目を見開く。
「………まさかホロホロ、アンタまで………」
「そうだよ♪ 私も総合部門に、エントリーしよっかって思ってたの」
げ。
そう漏らすとコリンは、一生懸命に顔の緊張感を保つため怖い顔を維持する。
「あらあらみなさん、ライバルはそれだけじゃありませんよぉ?」
なんだモモ? お前までなにかしようってのか?
「マスター? 私も戦士部門へぇ、エントリーしようと思いますぅ!」
事態は混沌の様相を呈してきた。
だが忘れてはいけない。今回のエピソードは、そもそも前提がおかしいのだ。
「コリン、君が出場するのは『私が出場するなら』という前提だったよね?」
「えぇ、そうよ」
「そもそも私、エントリーするとは一言も言ってないんだけど」
「あら、出ないって言うの? みんなもう、すっかりその気になってるのよ?」
………ハメられた。
今回ばかりはハメられてしまった。
これはもう、私も出場しなければならない空気が出来上がってしまっている。
そして毎度お馴染みなのだが、こんな時こそ奴は笑う。笑いながら肩を叩いてくるのだ。
「御主人様、諦めましょう。諦めて今夜は、飲むんですよ。浴びるほどに………」
たぬきだ。
たぬきは私の肩を叩いて笑っていた。
薄汚い、汚れきった笑顔である。