私、夏イベントを調べる
本日は二本立て。午後4時にもう一本更新します。
セミ時雨降りしきる。
夏さらに深く、入道雲は背も高く。
空気中の水分もグッと濃度を増した、とある一日。
「夏のイベントが決まったよ!」
我らが拠点『下宿館』で、ウィンドウを開いていたホロホロが教えてくれた。
雑談していたモモとコリンが、打撃戦の稽古に励んでいたベルキラとアキラが、そして魔法の稽古をしていた私もホロホロの下に集まった。
「今回は大規模イベントみたいね」
「期間がかなり長いよ?」
「どれ、私にも見せてくれ」
「みんなで画面をのぞくとぉ、狭いですねぇ♪」
そう、ホロホロをふくめれば女子五人。プラスわざと割り込んで混乱した状況を楽しんでいる、たぬきが一匹。これでは混雑する訳だ。
私も自分のウィンドウを開いて、運営からの告知ページを閲覧する。もちろん、アキラにたぬきとコリンを呼んで混雑を解消するのも忘れない。
「ホロホロ、夏イベントはこのG1クライマックスでいいんだね?」
「そうそう、なんだかすごい規模で開催するみたいだよ?」
「G1って、競馬のことかしら?」
コリンが呟く。
「いや、プロレスの方だと思うよ?」
アキラが否定した。
「お客さんの前で漫才をやらされるんでしょうか?」
「たぬき、それはM1だ」
私も素早く否定した。
「で、どんなイベントなのよ?」
「ちょっと待ってろ………どうやらこれは、個人戦のようだね」
「個人戦ですか」
アキラの呟きに、背筋が冷たくなった。この感覚には記憶がある。ジャック道場の稽古ではお馴染みだ。
つまり、殺気である。
個人戦と聞いて、アキラの闘志に火がついたらしい。
「御主人様、どうやら部門が別れているみたいですね」
「うむ、魔法使い部門に戦士部門。それと総合部門とあるな」
魔法使い部門は、文字通り魔法を使ったファイトである。ここでは武器などの打撃は認められていない。あくまで魔法オンリーのファイトらしい。
逆に戦士部門は魔法禁止。あくまで武器、あるいは素手の打撃戦オンリーだ。
総合部門はどちらもオーケイ。というか、やれるものなら罠スキルを駆使したってかまわないぜ、ハハァ~ン♪ という、このゲーム世界を象徴したようなルールのようだ。
そして、肝心のルールだ。
まず、予選はリーグ戦。つまりブロックごとに分けられて、総当たり方式である。
試合時間は一試合三分間。体力をすべて奪えば一本勝ちのノックアウト方式。時間一杯戦って決着がつかない場合は、二分間の延長戦に突入。とにかくノックアウトまで闘う、というものらしい。
勝者は勝ち星ひとつ。敗者には星は与えられない。
参加人数にもよりけりだが、基本的に予選ブロックの上位二名が、決勝トーナメントに出場ということだ。
「ホロホロ、このイベントは去年も開催されたのかな?」
「そうだね、去年が第一回の開催みたい。その前の年の夏は、古城探索イベントがあったみたいだけど………」
みたいだけど、去年から廃止という訳か。
おそらくライヤー夫人のドロボウ祭に食われたのだろう。運営としては個人が開催するイベントよりも、参加人数の少ない似たようなイベントを続ける訳にはいかないだろうからな。
「それで、去年はどれくらい参加者がいたのかな?」
私もページをめくっているのだが、肝心の情報に行き当たらないのだ。
「ん~~単純には比較できないかな? 去年は部門別でわけてなかったみたいだよ?」
それでも参加者は、六〇〇名いたらしい。
すごい規模ですね。
アキラは唸った。
「そうなのか?」
スポーツの『酢』の字も知らない私だ。六〇〇名という規模がどのくらいの規模なのか、想像もできない。
「昔の話になりますけど、あるカラテ団体で世界大会をひらいて、選手は二〇〇名未満。それをトーナメント形式で頂点を決めるのに、三日間かけてるんです」
「その三倍強か………すごい規模だね」
「もちろん延長戦、さらには再延長があるから、これもまた単純比較はできないんですけどね」
「いや、参考になるよ」
「そうなるとぉ、G1参加者の質の方はぁ、玉石混交だと予想されますねぇ?」
ふむ、参加条件がプレイヤーであることというだけなら、事実上誰でも参加できるのだ。腕自慢から腕試し、さらにはちょっとやってみるか、程度まで。まさしくレベルはピンキリと予想できる。
「選手登録はギルドを通さなくてもいい、個人登録だけど………ウチからも最低三人は出したいよね?」
ホロホロはニンマリと笑う。
「誰が行く?」
私が言い終わらないうちに、アキラが手を挙げた。
「他には?」
「マスターのぉ、魔法戦が観たいですぅ」
なにを言い出すのさ、モモさん。