私、魔法・炭火を身につける
そんなこんな、あれこれとあってカラフルワンダーによる魔法講習会である。
すでに私は魔法の圧縮を身につけていた。
魔法講習会において、圧縮した範囲魔法を分割し、威力と有効範囲を広げることにも成功している。
お次はどのようなお題か?
私としては前回ベルキラが見せてくれた技、ショットガンサンドのような技を希望したいところだ。
ベルキラが私の火の玉を迎撃したのだ。私の魔法で他者の魔法を迎撃することだって可能なはず。そしてそれを身につけたなら、私の魔法コンプレックスもかなり解消されるのでは? という期待が、少なからずある。
「………………………………」
私の魔法の師匠、爆炎の貴公子アーカードは、私を無言で見詰めていた。
「………………………………」
私も無言で、爆炎を見詰める。もちろん二人の間に、恋の花など咲きはしない。
「………マミヤさん」
「なんでしょうか、爆炎」
「今回は何を教伝するんだっけ?」
ドロボウ祭というイベントが効いたのか、前回講習会の内容を失念しているようだ。
「前回はファイヤー・ボールを圧縮分割し、より強力な魔法………ボム系と呼ばれるものが出来上がりました」
「そうそう、そうだったそうだった」
「そして斬岩ダイン君が鍛えているベルキラ、彼女が迎撃用の砂魔法を使っていたんです」
爆炎のメモリー機能が活性化してきたようだ。おーおーと、納得したように人差し指を振っている。
「そうだそうだ、それでマミヤさんに迎撃魔法を教えようと思ったんだ!」
当時の記憶をありありと蘇らせたようだ。本人納得の表情である。
「じゃあマミヤさん、これまでの教伝を応用して、迎撃魔法を作りなさい。っていわれたら、どうする?」
そら来た。
内心、私はほくそえんだ。
この展開を読んでいた、というのではないが、ある程度の予習はしてきたのだ。
「私なら、こうします」
返事と同時に火の玉を作成。まずは圧縮、これは手馴れたもの。通常火の玉と変わりない速度で、手早く練り上げる。
ここからが胆だ。
以前の私なら、御丁寧に一粒一粒小さな火の玉を拵えただろう。そんなイメージで、散弾を作り上げたに違いない。だが、人は成長するものだ。悪く言えば手を抜いても同じ結果が得られるようにズルをするのだ。
私のズルいイメージ。
それは網目の細かいザルに火の玉改を押し込み、ニュルリと細かくトコロテン式に押し出すのだ。時間にして、一~二秒の消費でこれを可能にしていた。
爆炎が火の玉を放ってくる。私は細かい圧縮火の玉で、それを迎撃。見事に消滅させた。
が。
そりゃないよの二発目が、私の目の前に飛来してきた。
魔力の余裕はある。
だが、散弾火の玉を作成する時間がない。
足でかわす。
かわした場所に、また火の玉。
ついに私は被弾した。
一瞬だけ、動きが止まる。
もちろんそこに、ボム系火の玉が降ってきた。
「うん、マミヤさん。すごく良かったよ。こんな魔法を使える奴は、けっこう上級の魔法使いだ」
「でも結果は、この通りでしたね」
「魔法が丁寧すぎるのさ。迎撃魔法なんだから、そんなに精密なものじゃなくていいんだぜ」
爆炎はグッと拳を握り、パッと開いて腕を振る。手の中から火の粉が散る。なんのマジック・ショウだ? と訊きたくなるほど、華やかな技だった。
「要はさ、身を守れたらそれでいいじゃん」
ふむ、なるほど。
ベルキラのショットガン・スタイルとまでいかなくとも、案外簡単に身を守ることはできるかもしれない。
爆炎は火の粉のような魔法を見せてくれた。同じような魔法を、私も使えないだろうか?
どのようにイメージする?
火の粉といえば炭火であろうか?
普段の火の玉とは違う、赤々と燃えた炭火をイメージする。
ピロリン♪
『魔法・炭火を取得しました』
「………………なんじゃこりゃ?」
「やったじゃん、マミヤさん。新魔法の獲得だぜ」
しかしレベルはまだ『1』である。しかも使い道のわからない、炭火魔法である。
「いや、その考えが間違っているかな?」
「お? マミヤさん、なにか掴んだみたいだね?」
「えぇ、御教授の賜物で」
今までは杖の先から火の玉、火炎魔法を発射していた。しかし今度の魔法・炭火は、これまでとは用法を変えてみようじゃないか。
そう、例えば私自身の内に炭火を持つ。それが私を守るように弾けるのだ。
………例えば、指先。
パンッ! 音をたてて指先から火の粉が広がる。
………例えば、胸から。
爆炎が一歩さがった。彼に向けて火の粉が散ったのだ。
使える。
この炭火魔法は、ディフェンスに有効だ。小さな火の粉ひと粒ひと粒にすぎないが、まとまればこの火の粉はあらゆる魔法を防ぐに違いない。
さらに嬉しいことがある。
一度この魔法を発動させれば、一試合中ずっと途切れることなく、いつでも火の粉を発射可能なのだ。そしてレベル1故に、魔力はすぐに回復する。