私、封印をする
その後のことは、プラン通りで特筆すべきことはなかった。
まずアキラとホロホロのタッグが、敵のタンク役を撃退。私とデコはヒーラーを撤退させようとしたが、ホロホロの指示により後退。ベルキラとリンダも合流し、六人態勢を構築。
まずアタッカーが復帰して来たがこれをあっさり倒し、スナイパー三人が復帰。そこへ再びたぬきとの合体魔法で、私自身異様とも思える6キルを達成。
ほぼ圧勝という形で、本日の初戦を飾ることができた。
「すごいスキルよねぇ、アレ、マミヤさんの魔法なんでしょ?」
バトルを終えて、控え室で待機中。控え室は闘技場にアクセスしていれば、ちょっとした雑談にも使えるらしい。
「まあね、激レアアイテムのおかげさ」
私は答えた。
「なるほど、でも良かったわ。あのギルドに勝てて」
「どういうことだい?」
「評判が悪かったのよ、あのギルド。とにかくスナイパーで一人をねらって、あとはタンクとアタッカーでキルを重ねるスタイルでね。戦法としてはわかるけど、楽しめないプレイヤーが多かったのよ」
私もブッパギルドには負けたくなかったと、ホロホロが言う。
安全な場所から狙い撃ち。確かにスナイパーとはそのようなものなのだが、度が過ぎるとブッパ野郎とかブッパギルドとか呼ばれるそうだ。
作戦戦法としてはわかるのだが、このような手合いはプレイを白けさせるものらしい。
なるほど考えてもみれば、あちらからは撃たれ放題。こちらは手も足も出せずとなれば、面白い訳がない。
しかもこの手の連中は、自分たちがブッパ行為を繰り返しても我れ関せずの態度。しかし自分たちが餌食になると、途端にあちこちの掲示板で悪評を広げてくれる、という素晴らしいお客さま方だそうで。
新人のお客さまを散々に退会させた上に、新規で加盟しようというお客さまを萎えさせてくれるという、ありがた迷惑はなはだしい方々だそうだ。
「こうしたブッパなお客さま方は、正攻法でヤキ………じゃなくて、シメて………でもなくて、やっつけてもらいたいっていうのが、運営としての考えなのよ」
いやリンダさん、本音ダダ漏れですから。
「せっかく運営がバトル参加者を階級別に細かくわけてるのに、こんなマネされたんじゃ意味が無いじゃない」
階級別に細かくわけてるのには、理由があるそうで。とにかく不正行為防止、参加者全員フェアにバトルできることを目指しているそうだ。
しかしブッパ行為は戦法であって不正ではない。運営もペナルティを加えることができなかった。しかしお客さまに不満と、ストレスを与える行為であることには変わりがない。
そこに我々のブッパ討伐成功である。
しかもタンク役が自己犠牲もかえりみず、スナイパーの目を引き付けて引き付けて。
アタッカーは傷つきながらも敵タンクの足を必死に止め、貧弱な打撃力しか持たない魔法使いも、覚悟を決めての突撃をみせて。
その上での勝利である。
「例え激レアアイテムを所持していたとしても、それを活かすのは勇敢な精神と旺盛な闘志。そして団結力。ギルド戦に必要なものが、今の一戦には数多く含まれてるわ。この内容なら、ブッパギルドの言い分は通らないでしょうね」
「しかし、勝手に匿名掲示板へ悪口を書かれたら?」
リンダはクスリと笑う。
「世の中に影響力のある掲示板は限られてるわ。そして動画サイトの数は、もっと少ないでしょ?」
「?」
「わからない? 今の一戦を動画サイトに上げるのよ。ブッパギルド、暁に死す! ってタイトルをつけて」
あまりアコギな真似をすると、ヤラれた時に晒されるわよ、って注釈を加えてね。
彼女はそう言って片目をつぶった。
「………………………………」
私はホロホロを見た。
ネットゲームとは恐ろしい世界なのだな、という視線を送る。
なのにホロホロは、私の視線など無視。両手を口の前で合わせて、歓喜の眼差しを輝かせている。
「動画に上げるって………貴女があのリンダさんだったんですか!」
「あら、私の動画を観てくれてるの? 光栄だわ」
「観てるどころか、戦法の参考にさせてもらってます!」
フフフと、リンダは微笑んだ。
「なるほどねぇ、道理で戦術の理念が運営向きだと思ったわ」
リンダの動画は単に試合を上げるばかりでなく、饅頭アタマの人気キャラクターの動画を付け加え、戦法の解説などもありなかなかのヒット数らしい。
「しかも人気キャラクターのコントまでついてるものだから、観ないと損って感じなのよ!」
「ずいぶん押すねぇ、君」
しかしだ。
考えてもみれば今回の相手ギルド。ブッパギルドとして評判が悪かったのはわかる。
だが私のプレイはどうだったか?
既存のブッパ攻撃を新手のブッパ攻撃でやっつけた。ただそれだけの行為でしかない。
「考えてるわね、マミヤさん?」
「あぁ、私のプレイも相手を白けさせるブッパプレイと大差は無いな、ってね」
「そんなことないわよ!」
デコがフォローしてくれる。
「あれはアンタがボコられる覚悟で、無理矢理突撃したからこその必殺技じゃない! あんな小狡いブッパなんかと、一緒に考えるんじゃないわよ!」
「しかし、『何やっても勝てない』と、相手を萎えさせるだけの効果はある。だから私はこの技を、封印しようと思う。ここぞという場合には使用するけどな」
「ここぞという場合とは?」
リンダがのぞき込んできた。
「相手ギルドのメンツが、明確に偏っている場合。ブッパギルドとして疑いがある場合」
「そうね、マミヤさんはブッパに関してまだまだお勉強の必要があるみたい。だから私の動画で研究してね?」
コメント待ってるわ♪
そう言って、美女は可愛らしく片目をつぶった。
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