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私、闘魂を燃やす


 読者のみなさまは、プロレスというものを御存知だろうか?

 プロレスというエンターテイメント・スポーツの人気が凋落して、もうずいぶんになる

 プロレス人気が低迷しているということで、読者のみなさまがプロレス技を御存知ないのではないか?

 そのような懸念が生じたため、つい確認をしたまでである。

 では何故そのような確認が必要になったのか?

 実はこれから、プロレス技が連発するのである。

 もし、どのような技か御存知ない読者がいましたら、動画サイトなどで御確認いただきたい。

 往年の名レスラーたちが、あなたのために………あなただけのために、プロレス必殺技を披露してくれるでしょう。


 ということで、失神して筋肉が弛緩しているたぬきに、毒針殺法エルボードロップ。コーナーポスト最上段にのぼり、急降下爆撃のニードロップ。仕上げは人間断頭台のギロチンドロップをお見舞いした。

 ドロップ技三連発。

 いかにタフなたぬきでも、今度こそ三途の川を渡っただろう………。

「ぐふっ………かはっ………あぁ………御主人様、失神した私を生還させてくれたのですね? ありがとうございます愛してます」

 おのれ、仕留めそこなったか。すべて喉をねらった技だったのに。だがもしも次こんな好機が訪れたら、ジャイアント・ラッシュと称して、河津落としからココナッツクラッシュ、そして十六文キックを叩き込んでやるからな。

「さてたぬき、改めて質問だ。お前が自慢気に見せてくれた『死んだふり』だが、あれは使えるのか?」

「御主人様、たぬきとハサミは使いようです!」

 いいのか、たぬき。その使い方で? 自分を例えに引用するのはいいが、それではお前が馬鹿、ということになるぞ?

 しかしたぬきは、「とても良いこと言った」という顔で、話を続ける。まあ、本人が良いというならば、私に異論は無い。

「さて御主人様、私が死んだふりをしている時、道行く人々の反応はいかがでしたか?」

「無反応かつ無関心だった」

「その通り! 私の死んだふりには、ステルス効果があるんです!」

「ほほう?」

 ステルス。すなわち相手からは自分が見えなくなる。これは確かに、たぬきとハサミは使いよう、と言える。

「たぬきの秘術、死んだふりはすべての機能を停止して、気配も生気も消し去るので、敵は私をアイテムとして所持した御主人様を、認識できなくなるんです!」

 しかし、すべての機能を停止するのは、危険ではないのか?

「ですから御主人様の知覚だけは、機能させておきますので」

 アイテムたぬきというのは、獣人の姿をしているばかりではない。戦闘時には指環となり、生きたアイテムとして私のために働いてくれるそうだ。

 まあ簡単に説明するならば、たぬきの死んだふりを使うと、私の姿が戦場の誰からも見えなくなる。しかし私には、周囲のようすが分かるという、なかなか実用的な術らしい。

「ほかには何ができるのだ?」

「えっ? ほ、他にですか?」

 たぬきさんドッキリ。明らかに動揺している。

「もしかして、死んだふりしかできないのか?」

 それはそれで仕方ないかもしれない。

 私自身がレベル1なのだ。そして生意気にもプロフィール用のウィンドを所持しているたぬきもまた、レベル1でしかないのだ。

 が。

 プロフィール用のウィンドということは、なにも無理に聞き出さずとも、たぬきの魔法が書いてあるはず。

「どれどれ………他には、攻撃魔法か。たぬきの置き土産というのだな?」

「あぁっ御主人様っ! プロフィールは個人情報ですプライバシーです! しかもたぬきの置き土産だなんて、そんな恥ずかしい攻撃魔法、興味を持たないでくださいっ!」

 たぬきはプロフィールを個人情報とかヌカしているが、これはゲームやバトルを公平公正にプレイするためのもので、誰のものでも自由に閲覧できるようになっている。言わば所属や役職を記入した、名札のようなものである。

 しかしたぬき、お前にも羞恥心はあったのだな。思い出せばお前の登場からこっち、お前が普通の女の子のように恥ずかしがって「見ちゃらめぇ~~っ!」となっている姿など、初めて見る気がするぞ。

「たぬき」

「知りません」

 そっぽを向いてしまった。

 だが、耳まで赤くなっている。

「なんだ、この『たぬきの置き土産』という魔法は?」

「記憶にございません」

 ふむ、命令口調で吐かせようとしても、頑なになるだけのようだ。

 ならば………。

「私の火の玉は攻撃力が高いが、どうやらこの魔法はそれ以上の威力のようだな」

 たぬきの尻尾がピンと立った。背中をこちらに向けているので、丸わかりである。

「これは私としても、大変に頼もしい魔法と言える」

 お前は犬かと言いたくなるほど、尻尾をブンブンと振っていた。が、まだこちらを向かない。

「いや、これは自慢の攻撃になり得るぞ」

「仕方ないなぁ、御主人様ってば♪ それじゃあお見せしますけど、特別にですからねぇ♪」

 ヨダレをたらしそうな、だらしない顔

 目尻もたれたれで、お人好しの顔つきで、たぬきは振り向いた。

 そして両手を組んで印を結ぶ。

「南無八幡大菩薩アノクタラサンミャクサンボダーイエロい夢えっさっさエロい夢えっさっさ我は求め訴えたり」

 なぁ、たぬき。

 ………お前、阿呆だろ?

 なんだその呪文は?

「あくまでルーチンワーク、集中のための儀式です」

 んなこと言ってるが、まだ顔はデレ顔だ。

「それでは行きますよっ! たぬき忍法、置き土産の術っ!」

 なぁ、たぬき。

 術なのか魔法なのか忍法なのか、そろそろはっきりしてくれんか?

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