私、太陽にほえる!
もちろんこれで、私の打撃修業が到達した訳ではない。とはいえ、どうにかこうにか入り口に立つことができたので、ひと安心と言ったところだ。
しかしこのゲーム、ドグラの国のマグラの森はプレイヤーに休息を与えてはくれない。
『魔力増大キャンペーン』
などというものが始まってしまったのだ。
簡単に言うならばマグラの森で探索をして、魔鳥カメロンの卵を獲得しまくれ! 卵はボーナスショップで、魔力値アップやアイテムと交換するよ♪ というシステムらしい。
「魔力増大キャンペーンねぇ………ふ~~ん………」
我らが拠点、下宿館。ホロホロが案内のページをめくっている。
「ねぇ、マスター? ウチで魔力や魔法を付加するとしたら、誰がいいかな?」
「ん? 例のキャンペーンの話かな?」
私も鎖鎌の手を止めて、ホロホロの開いたウィンドウをのぞき込む。
そしてホロホロの質問に対して、しばし頭を巡らせた。
「まず今回は、消去法で考えてみようか? いま現在アキラの仕上がりは絶好調。ここで魔法を付加しても、アキラの出した調整を崩すだけ。よって一人消える」
「ふむふむ」
「次に私。いかに魔法使いとはいえ、現在のところ不足は感じていないししばらくの間は、現状で十分な戦力たりえると感じている。よってここも消える」
「ちょっとそこは意外だったなぁ。私はマスターの魔力を盛って盛って、マジックモンスター化っていうのを視野に入れてたんだけど」
キミは私をどうしたいのかね? という言葉は飲み込んだ。
「ホロホロのアイデアも楽しいが、私はまだ、レベルアップしたたぬきの術を使いこなしていない。だから魔力アップは辞退させていただくよ」
ということで、次。
「ホロホロも、弓矢スキルの向上に専念してもらった方がいいかもしれない。マヨウンジャーの戦法には、ホロホロの弓矢が必要不可欠だからね」
「それに私の場合、風の精霊が味方してくれるからね♪」
そういえば、風のスニーカー作製のときに、そんな話も聞いていた。が、本人の口からそれ以上の話はついぞ聞いていない。
ホロホロ、意外に謎の多い女である。
「ベルキラもベルキラで、今イイカンジで仕上がってるし………」
「そうなると、だ………」
「候補は二人に絞られるね………」
回復役のモモ。
そして決定打に欠ける『人間種』のコリンだ。
ここで私は、ふと思い出す。
「ホロホロ、キミはニンフと呼ばれる妖精の種族で、風の精霊と相性がいいんだよね?」
「そうだよ♪ 風のことならホロホロさんにおまかせ♪」
「で、モモもまたニンフだったはずだけど………何の精霊と相性がいいんだ?」
我らが軍師、知恵袋のホロホロでさえ、「へ?」と間抜けな顔をした。完全に虚を突かれた顔だ。
出会い、そしてマヨウンジャーの結成から、もう半年になろうかというのに。不覚としか言い様が無いのだが、私たちはモモのことをあまりよく知らなかったのだ。
いや、言い訳をさせていただこう。
私たちマヨウンジャーは常に戦ってきた。それはもう、毎日毎日、日課のようにだ。そしてギルド名が示すとおり、毎朝届けられる新聞のように、課題が日々現れたのだ。それをこなす、課題に取り組むだけで精一杯。振り向いている暇など、私たちにはなかったのもまた事実。
「それに今までは、攻撃をかわすことに専念してたから、回復魔法をあてにする機会が、少なかったもんねぇ♪」
「ひどいことを言うなら、本来後衛であるはずのモモに、アタッカー役を頼む始末だからな、私たちは………」
ちょっと反省。
モモにはかなり無理を強いていたかもしれない。
「これは『どつき合い特化集団・陸奥屋』を、笑えないくらいな好戦的ギルドと、評価されてしまいますね、御主人様」
私が苦い杯を舐めるような思いをしていると、どうしてお前は確実に出現するのかな、たぬきよ?
腕力にものを言わせたくなる衝動に駆られたが、ホロホロの言葉が先だった。
「う、私たちマヨウンジャーって、まわりから見てどんな集団に映るんだろう?」
攻撃的な戦闘集団?
喧嘩上等な悪タレども?
いや、もっと酷い評価なら、『陸奥屋の急先鋒』というのがあるかもしれない。
「ホロホロさん。このたぬきが思うに、コント陸奥屋の前座と思われてると思いますが」
「それはもっとイヤかなぁ、乙女として………」
実際のところ、モモがどのようなどのような精霊と相性がいいのか、メンバーたちに訊いてみる。
「………聞いたことがありませんねぇ」
ベルキラが答えた。
「ですが私のような武骨者と違い、花の精霊辺りと仲が良さそうですが」
「ん~~………ベルキラ。それはこのホロホロさんが、花の精霊を取り込めなかった残念! って言いたいのかな?」
うん、ホロホロがちょっと怒っている。まあ、女性同士の恋人同士と推察されるこの二人。他の女性を目の前でほめられれば、ホロホロとしても面白くないだろう。
「何を言ってんだ、ホロホロ。お前は花の精霊そのものだろ?」
「え?」
うんうん、愛しい人との語らいはこういうものだ。それは私にもよくわかる。
だがな、人目もはばからずイチャつく二人よ。よく見ろ、たぬきが口から大量の砂糖を吐いてるぞ。あぁ、甘い甘い。
ベルキラの意見は、さておき。
「モモの精霊? ………聞いたこと無いわねぇ」
コリンも知らないようだ。
「それがどうかしたの?」
「あぁ、魔力増大キャンペーンがらみでな。モモの魔法の源を調べているんだ」
「モモが魔力アップしたら、どんな魔法を使わせるつもりなのよ?」
「基本は回復系のパワーアップだね」
ホロホロが私にかわって答える。
「ただ本人が望むなら、攻撃系をマスターさせてもいいかな?」
「これからは敵の魔法を避けきれない、と読んでるのね?」
ホロホロはうなずいた。
「う~~ん………これから先、アタシお荷物になっちゃうのかしら………?」
おっと、変なところで深刻になってるぞ、コリンの奴。
「心配するな、コリン。人間種の成長は、まだこれからだ」
「わ、わかってるわよ」
ということで、次はアキラだ。
「モモさんの魔法の源ですか?」
ぽへっとした顔で対応してくれる。しかしアキラ、陸奥屋一乃組門下生として言わせてもらうが、そのような隙だらけの顔でどうする。
「あぁ、マスターたちそれでさっきから、ゴソゴソやってたんですか!」
なんだ、気づいていたのか。それなら話が早い。
「マスターもホロホロさんも、そういう話は本人に訊いたらどうですか?」
「は?」
「いや、だからモモさんのことはモモさんに訊くのが、一番だと思いますよ?」
………言われてみれば、その通り。
「モモ、モモはいるかい!」
するとたぬきが言う。
「修道院だか教会だかに行きましたよ? 御主人様たちがゴソゴソしている内に」
「しまった、一足遅かったか! よし、マカロニ、ジーパン、スコッチ、行くぞ!」
誰ですか、それ? という若年層のツッコミを振り切って、私たちはホシを追った。