私、モンスター退治にゆく2
「どうします、マスター。お供にたぬきを使いますか?」
そろそろガイコツ剣士が現れる、というステージ。アキラが私に訊いてきた。もしも私がピンチに陥ったら、フォローしてくれる気なのだろう。
「そうだねぇ、たぬきは序盤温存。畳み掛けるぞ、というタイミングで出現させようかと思ってるんだけど」
「わかりました! それじゃあボクの出番は、序盤だけですね!」
好調のアキラは、声にも張りがある。
「それじゃあマスター、魔方陣を作動させるよ?」
森の中に仕込まれた、運営サイドの罠。魔方陣をホロホロは踏みつけた。
気分をどんよりとさせるBGMとともに、まずは六体のガイコツが登場。右手に片手刀、左手には盾を装備した、生意気な連中だ。
まず私は火の玉改で三体を倒す。最近では精度が上がっているので、この程度のモンスターならば火の玉改一発で充分なのだ。
魔力は温存しておいて、たぬきの八畳敷をひるがえしながら、打撃戦を申し込む。
三対一では不利ではないのか? そのように思われるだろうが、ガイコツ剣士の頭は空っぽ。動きが単調なのだ。初撃をかわしてしまえば、せっかくの盾も意味無しとばかり、防御がスカスカだったりする。初めてガイコツ剣士に出くわした時は、なんと邪魔な盾だろうかと思ったものだが、今では鼻歌を歌いながら料理できるイージーな相手である。
………ただし、一対一ならば。
一体目の初撃をかわしたところで、二体目が斬りかかってくる。それを避けたら三体目が目の前、という具合。今日のガイコツ剣士たちは、動きが切れている。
「御主人様っ! 無理はなさらず、たぬきを召喚してくださいっ!」
「その方がいいよ、マスター。手こずってると、次の六体が出て来ちゃうから」
運営罠から出現するガイコツ剣士は、全部で十二体。時間差で六体ずつ出現する仕組みになっている。
「それもそうだな。たぬき、出て来い!」
「はいはーーいっ!」
鍋をかぶって革防具を着けたたぬきが現れる。得物は丸杖だ。二体のガイコツ剣士を相手に、その攻撃を防いでくれる。杖という得物の、長寸という有利を活かした動きだ。
ならば私も、たぬきの奮戦に答えなければならない。一対一のガイコツ剣士、一撃で倒さなければ。
しかし、ヤッと振るったステッキは空を切る。踏み込みが足りないのか? 今度は思い切って前に出た。………盾に阻まれる。邪魔くさい盾だ。
盾を横に逃れて、さらに背後まで回り込む。ジャック道場で習い覚えた動きである。
背後さえ取ってしまえば………。と思って鎖鎌の一撃を意識した打撃は、またも空を切った。
「はい、マスター。ガイコツが増えたよ」
ホロホロはすでに弓をかまえていた。引き絞っていた弦から、矢を放つ。
たぬきの援護にはコリンが入る。そして新手には、アキラとベルキラ。そしてモモが飛び込んでゆく。
ガイコツ剣士との一戦。つまり私のトレーニングは、得るところなく終了した。最後の一体を私のために残しておいてくれたようだが、私はこれからキルを奪うことができなかったのだ。
「ちょっと、どうしちゃったのよ、マミヤ?」
どうしちゃったのよ? ガイコツ剣士というのは我々にとって、キルが取れて当たり前。いや、最初の三体からして、たぬきを登場させるような相手ではないのだ。
それが、0キル………。
「う~~む………どうにもステッキが届かないんだ。当たらない、と言った方がいいのか………」
「そりゃそうよ、あれだけ大振りしてれば」
「そんなに大振りしてたか、コリン?」
「ぶんぶん丸だったわよ?」
ん~~、と考えてから、モモが言う。
「コリンさんはそのようにおっしゃいますがぁ、私にはチマチマ叩いてるようにぃ、見えましたよぉ?」
何故に反対意見が出る、私の動きは。
「私にはガムシャラに見えたかな? ムキになっているというか………」
ベルキラの意見も違う。
だが、総じて言うならば。
「すごく力んでいた、ってことになるね、マスター♪」
ホロホロの言葉に、メンバー全員が納得したようにうなずいた。
しかし私としては。
「力んでいた? この私が?」
まったく納得のいかない言葉でしかなかった。ムキになっているだの、ガムシャラだのと、普段の私や日常の私とは、あまりにも無縁な言葉も気にかかる。大体にしてムキになれたりガムシャラに生きれたりするならば、私はもっと出来のよい人間になっているはずだ。
「おぉっ! 見てください、みなさん。マスターが納得いかないっていう顔をしてますよぉ~~♪」
「いや、モモ。本当に納得いかないんだ。自慢じゃないが私は、空気人間を自認して生きてきたんだ。ムキになったり本気になったり、そんなこととは無縁な人生を生きているんだ」
「そうなるとぉ~~、現実では出来の良いお利口さんなマスターがぁ、初めて迎えるつまずき、スランプってことになりますねぇ~~♪」
「モモ、からかわないで欲しいな。私はそこまで出来の良い人間じゃないさ」
にゅふっ♪ そんな擬音が聞こえて来そうな、モモの笑み。
「そんな風に思ってるのはぁ、マスターだけ♪ 私たちマヨウンジャー女子部はぁ、みんなマスターのこと、見上げてるんですよぉ?」
「むしろボクとしては、困っているマスターが新鮮で、なんだか嬉しいんだけどなぁ」
アキラも好き勝手言ってくれる。私自身は迷い道に入り込んで、大変だというのに。
「確かに、大人が不調に喘いでいる………というか、マスターの不調など滅多に見られそうにないからな」
ベルキラなどは、他人事か? 私のスランプなどまったく心配してくれない。もちろんホロホロなどは、「ビバ! スランプ!」とでも言いたそうな笑顔だ。
コリンと目が合う。
仕方ないわね、という素振りか、腕を組んで頬を赤らめた。
「あ、アタシは心配なんかしてないけど、どうしてもってんならアタシを頼りなさい! 少しくらいなら、アドバイスしてあげるわよ」
いやコリン。お前に関して言うならば、日本語が滅茶苦茶になってるぞ? まあ、気持ちだけはありがたく受け取っておくが。
ということで、私のスランプは誰も心配してくれない。
ポンと肩を叩かれた。
たぬきである。
もちろん、いやらしい笑みを浮かべていた。
「不調なんて誰にでもありますよ、御主人様」
「お前こんなときは指環から出て来るけど、ガイコツ剣士と闘ってる時は、指示無しでは出て来ないのな」
「飲みましょう、御主人様! 嫌なことは飲んで忘れましょう!」
「なんの解決にもならないだろ、それ」
不調の時は、陸奥屋で相談するものだ。
上位者に相談するのが、一番の解決法である。